このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

藤倉良の「冷静に考える環境問題」

わかること、わからないこと、できること、できないこと・・環境問題を冷静に考えてみる。

ガソリン国会──ガソリン値下げ隊は二酸化炭素増やす隊か?

2008年1月25日

(これまでの藤倉良の「冷静に考える環境問題」はこちら

 民主党は今年の通常国会を「ガソリン国会」と位置づけた。「ガソリン政局にし、ガソリン解散まで持っていく」として、「ガソリン値下げ隊」も発足させ、意気軒昂だ。今朝も駅前で旗を見た。

 民主党が目指しているのは何か。それが環境保全の観点からはどうなのかを考えてみよう。

■ガソリン税

 ガソリンには揮発油税と地方道路税が課せられている。世間では、これらをひとまとめにしてガソリン税と言う。ここでも簡単のためにガソリン税と呼ぶ。1リットルあたり、28.7円課税されている。

 ガソリン税として得られた税金は道路特定財源に入れられる。これは道路の建設や維持などにしか使うことができない。道路は自動車が利用するために整備されるものであるから、必用な費用は自動車の利用者から徴収するという受益者負担の観点からそうなった。

 1950年代、日本の道路整備は遅れていた。当時、ガソリン税本来の税収だけでは十分に道路建設を進めることができないということで租税特別措置法が制定され、「暫定的に」税率が引き上げられた。それ以降、「暫定」税率が続いて、1993年12月1日から2008年3月31日までの暫定税率は、25.1円になっている。これが本来に税率に加算されて、現在の1リットルあたり53.8円となる。

 道路特定財源には、ガソリン税の他にも自動車取得税や自動車重量税、軽油取引税など自動車に関連する税金が繰り入れられている。今では総額は毎年5兆円以上になる。

 自民党は、地方では道路がまだまだ必要であり、今国会で租税特別措置法を延長し、ガソリン税を今のままにしたいと考えている。

 民主党は、道路特定財源があるから無駄な道路が作られるとして、ガソリン税を一般財源化することを主張している。道路以外の目的にも使用できるように税制を変更しようとしているのである。さらに、2008年3月末で期限が切れる暫定税率は廃止するべきだとしている。そうなれば、ガソリン税は1リットルあたり「本来の」28.7円になり、25.1円値下げになる。

 民主党の主張が全部通れば、ガソリンからの税収は47%減少する。また、一般財源化されれば、徴収された税も道路整備以外に利用される可能性が高くなるから、道路整備の財源は大幅に減少する。無駄な道路はできなくなるということだ。

 私は、税金はなるべく特定財源化しないで一般財源化するのが良いと思っている(→「科学が白黒つけられないことはたくさんある(その1)」)。だから、道路特定財源の廃止という点では民主党案を支持する。しかし、暫定税率廃止は支持できない。

■日本はガソリンが安い

 新聞やテレビは、ガソリンが高い高いと言う。確かに、最近のガソリン価格は高止まりしている。

 では、日本の価格は他国と比較しても高いのだろうか。財務省がOECD加盟国(主に先進国)のガソリン価格を調査している。これによれば、29ヶ国中で日本は小売価格23位、税負担率と税負担額は24位。2006年のデータなので、現在とは少し違うが、その後の価格上昇は原油価格の高騰によるものだから、各国の順位に大きな変化はないだろう。つまり、日本のガソリンは他国より安い。

 税抜き価格で比べると日本のガソリンは15位になるので、中位になる。日本のガソリンが安いのは、税金が他国より安いからということにほかならない。
最近の価格はどうだろう。

 韓国では日本よりかなり高い。昨年11月の時点で1リットル190円前後だ( Livedoor news)。韓国人の平均年収が日本人のほぼ半分(3カ国ネットユーザー調査)ということを考えれば、ガソリンはかなり高い買い物だ。

 欧米も見てみよう。米国エネルギー庁が7カ国のガソリン価格を調べている。1ガロンあたりの米ドル価格になっているので、1米ドル=106円として換算してみると、今年1月14日現在の1リットルあたりの価格は次のようになる。
 ベルギー 217円
 フランス 216円
 ドイツ  218円
 イタリア 216円
 オランダ 237円
 イギリス 215円
 アメリカ  92円
 ヨーロッパ主要国では1リットルを200円では買えない。結論はやはりこうなる。

 ヨーロッパや韓国に比べれば日本のガソリンは安い。ガソリン税が他国より安いからである。

■地球温暖化対策の観点から考える

 日本では、運輸部門からの二酸化炭素排出量が全体の18%を占め、家庭からの排出量のおよそ3分の1が自家用車によるものである(2005年)。

 地球温暖化対策のためには、暫定税率が維持されることが望ましい。これが廃止されてガソリンが値下げされれば、せっかく国内で高まってきたエコ・ドライブや省エネ・カーへの機運が元に戻ることになる。

 この点では、暫定税率維持の自民党の方が民主党より「環境にやさしい」と言える。

 欲を言えば、ガソリン税を一般財源化し、暫定税率を恒久化できればさらに望ましい。民主党が主張するように一般財源化すれば、無駄な道路が作られなくなるから環境に良い。そして、自民党が求めているように税率が今のままなら、ヨーロッパや韓国並みとまではいかなくても、ガソリン価格は高値で推移するので、運輸部門の省エネが進む。

 民主党は環境問題に前向きに取り組む政党のはずである。「脱地球温暖化 戦略」では、「具体的な地球温暖化対策」の4番目として「地球温暖化対策税の導入」をとりあげ、積極姿勢を見せている。炭素1トンあたり3、000円を課税するのだそうだ。

 ところが、その4行下に「自動車関連税制については、暫定税率の廃止を含めた見直しを実施」とある。なぜ、暫定税率の廃止が脱地球温暖化なのか、私にはわからない。

 この両方が実現すると、ガソリン1リットルに2円弱の地球温暖化対策税が新たに課税されるが、同時に暫定税率の25.1円が廃止されるから、結局23円安くなる。これでは、二酸化炭素発生量は増えてしまう。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

藤倉良の「冷静に考える環境問題」

プロフィール

1955年生まれ。法政大学人間環境学部教授。専門は環境国際協力。著書に『環境問題の杞憂』,訳書に『生物多様性の意味』などがある。