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藤倉良の「冷静に考える環境問題」

わかること、わからないこと、できること、できないこと・・環境問題を冷静に考えてみる。

食品の4分の1が捨てられている

2008年2月 8日

(これまでの藤倉良の「冷静に考える環境問題」はこちら

■捨てられる食品

 先月のブログで「農薬が混入していたインスタント食品みたいなものは論外」と書いた。その論外な話題でマスメディアが大騒ぎだ。今のところどのような経路で冷凍餃子に農薬が混入したのかは明らかではない。故意か偶然がわからないが、いずれにしても合法的な行為ではなさそうだ。そのことと、合法的な食品添加物や賞味期限についての「食の安全」の話は分けて考えなければいけない。

 話を賞味期限に戻そう。私の周辺にも賞味期限や消費期限に頼りきりの人がいる。まだ食べられるか、もう食べられないかを自分で判断しない。期限切れの食品はためらいなくゴミ箱へ直行。

 食べずに廃棄されている食品はどれだけあるのか。
 食料に関するデータは、農林水産省が食料需給表を公表している。品目別に国内生産量、輸入量、消費量などがとりまとめられている。食料自給率はここから計算されるらしい。

 食料需給表には重量ベースの合計量が示されていない。米と芋と野菜と肉の重さを足し合わせても意味がないからだろう。けれども、廃棄量は重量ベースで表示されるので、こちらも平成17年度に国内で提供された「純食料」の重量を合計してみる。6,433万トンになる。

 廃棄物の方は、環境省のWebから食品廃棄物の量を知ることができる。平成17年度に発生した食品廃棄物は1,136万トンである。この数字には食品製造業で発生した廃棄物495万トンが含まれている。そこには調理できない野菜クズや動物の骨や皮などが多いだろうから、これを全体から差し引いて641万トンとする。残りが、食品卸売業、食品小売業、外食産業から廃棄された食品廃棄物の総量である。賞味期限切れでコンビニやスーパーから捨てられる食品、ファミレスから出る客の食べ残しなどが含まれる。家庭から廃棄されるのは生ゴミだ。これも同じサイトから入手できる。生活系生ゴミの排出量は減少傾向にあり、平成16年度には1,010万トンとなっている。

 食品廃棄物と家庭からの生ゴミの量は集計年度が1年違うが、大きい変化はないと考えて両者を足すと、1年間に日本で捨てられる食料は1,651万トンになる。6,433万トン供給されて、1,651万トンが捨てられる。捨てられるものの中には、魚の骨や頭、果物の皮など普通には食べないものも含まれているので、食べられる物の4分の1が捨てられているというのは言い過ぎかもしれない。しかし、それに近いものがあると考えて良いだろう。

 報道によれば、小売業者は新鮮さをアッピールするために、製造業者に消費期限や賞味期限を短く設定するように求めるという。無駄に捨てられる食べ物がさらに増える。

 食品系のゴミをなんとかしようと、平成13年に食品リサイクル法が施行された。リサイクルと言っても、売れ残りや食べ残しから食品を再生するのではなく、肥料や飼料(家畜のエサ)などにするのである。

 なぜ、わざわざ法律を作ってまで事業者にリサイクルを促すのか。リサイクルすると捨てるより費用がかかるからである。リサイクルの方が経済的に有利であるならば、事業者は黙っていてもする。そうであれば法律など要らない。

 だから、食品リサイクル法が施行されたら、事業者はコスト負担になる食品廃棄物をなるべく減らそうとするので、食品廃棄物は減少すると期待されていた。けれども、法施行後も捨てられる食品は横ばいか微増の状態が続いている。

■食料は足りるか

 1994年に出版され、邦訳も刊行されたレスター・ブラウン氏の『だれが中国を養うのか? - 迫りくる食糧危機の時代』は、2030年までに中国の輸入だけで世界市場に出ているすべての食料が食べつくされてしまうと予測して話題になった。これに対して、多くの研究者が予測は悲観的すぎると指摘した。
 今の見通しはどうなのだろうか。

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 経済が成長して生活水準が向上すると、肉食が増える。図は、日米中韓の1961年から2002年までの動物性カロリーの消費量である。つまり、どれだけ肉を食べるようになったかだ。中国の肉食化は止まらない。1994年に韓国を、1999年には日本を上回り、あと10年か20年でアメリカに追いつきそうな勢いだ。

 肉を生産するには穀物飼料が要るから、一人当たりの穀物消費量も経済成長に伴って増加する。中国工程院によれば、一人当たりの年間穀物需要量は1997年には385キログラムであったものが、2030年には450キログラムに増えると予測している(注1)。これに人口増加も加わり、中国の穀物の年間総需要量は1997年の4.65億トンから2030年には6.8億トンから7.25億トンに増加すると予測されている。

 一方、中国の年間食料生産は、豆類、芋類を含めて4億トンから5億トンの間で推移している。食料の大幅な増産は期待できないので、これからも国内供給は5億トン前後で推移するだろう。

 中国工程院の予測が正しければ2030年までには、中国国内だけで2億トンの需給ギャップが生じることになる。世界市場で取引されている穀物は2億トンなので、これをすべて中国に向けないとギャップを埋めることはできない。もちろん、需給が逼迫すれば市場価格が上昇するので、それに応じて需要が縮小するはずである。食料危機が迫っているとまでは言い切れない。

 どういうわけか、世界の食料の需給バランスについては専門家ほど楽観的である。価格の他にも様々な要因が働くからだろうか。単純に危機到来というわけではないようだ。しかし、今世紀中頃にはインドが中国を抜いて世界最大の人口大国となる。インドも急速な経済成長を遂げているので、世界の食料需要はさらに増加するだろう。

 これに加えて、自動車まで穀物を食べ始めた。バイオ燃料だ。
重量ベースで見ると、日本は国内生産量とほぼ同じ5,664万トンの食料を輸入している。その一方で、マグロや大豆などでは中国に買い負けし始めている。今年の築地の初競りで、マグロを最高値の1本607万円で競り落としたのは、香港のすし店経営者だという。賞味期限にこだわる日本人は食べ物の4分の1を捨てているが、そのような「贅沢」がいつまで続けられるかはわからない。

注1)国際協力銀行開発金融研究所(2004)『中国北部水資源問題の実情と課題』 、34ページ

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プロフィール

1955年生まれ。法政大学人間環境学部教授。専門は環境国際協力。著書に『環境問題の杞憂』,訳書に『生物多様性の意味』などがある。