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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

流行CSR通信

2010年9月 7日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

暑い日が続きますが、読者の皆様いかがお過ごしでしょうか。夏休みの一日、小生、平日に買い物するという贅沢をさせていだきました。今更ながら東京の素晴しさを実感。道行く善男善女をうつす銀座のディスプレイは早くも秋色。センスの良い品揃えはヨーロッパの平均点を遥かにしのぎます。店員さんの商品知識の確かさに至っては世界随一ではないでしょうか。半日かけて見て回ったのですが、決断力と経済力の双方に弱点を抱える小生、目移りした末にスコッチグレインの靴vs.フォーナインズの眼鏡の一騎打ちに。結局、銀行マン風の銀縁メガネに軍配を上げました。この秋のファッションテーマは「偽装された知性」。

さて、銀座で久しぶりに最新流行に触れた小生、今月は流行とCSRについて散文的に考えてみようと思います。

〈ファッション+社会貢献〉÷2

資生堂さんの社会貢献ですが、高齢者福祉施設や障害者施設でスキンケアやメーキャップを行う「資生堂ライフクオリティー ビューティーセミナー」というプログラムがあります。社会貢献事業については一般にやや厳しめの見方をする小生ですが、資生堂さんのこの取り組みは素晴らしいと思うのです。自社のビジネスに内在する公益性を顕在化させて社会に応用することに成功しているからです。植林事業とか売り上げの一部を寄付といったお馴染みの社会貢献と一線を画している。

資生堂の方に伺ったのですが、介護が必要なおばあさんにお化粧をしてあげるだけでオムツがとれたりするのだそうです。これ、なんとなくわかりますよね。女性の平均寿命が男性よりも長いのは、化粧による部分もあるのかな、と小生真面目に考えたりしました。ファッションが人の心身の健康に及ぼす積極的な影響を社会との接点としてとらえることで、様々な創造的な社会貢献事業が可能になるかもしれません。

衆生をどこに導くエコセレブ

流行とCSRといえば「エコファッション」的な動きもこれまた興味深い。「エコリュクス」や「ロハス」など様々な派生系があります。ハリウッドではフェラーリを下取りに出して日本製プリウスをお買い上げくださった「エコセレブ」の皆さんが、今度はデ・ローザ(注)に乗り換えておられる。
注)イタリアの老舗高級自転車ブランド

もともと社会的コンセプトであった言葉のモード化については当然のことながら賛否両論があります。否定論の例ですが、小生の愛読誌である「ニューサイクリング」誌で自転車旅行記を連載している久保田翔君は、同誌の本年7月号で次のように述べています。

「そもそも僕は、メディアで使われている『エコ』だの、『地球にやさしい』だのといった言葉が嫌いだ。特に一時期はやった『もったいない』のフレーズには嫌気がさす。個人で使用するなら、ものを大切に使うことは大事なんだが、消費文化の代名詞であるメディアがどの口でいっているのか。」

若い自転車野郎の純粋で骨太なコメント、笑える大人は果たして何人いるでしょうか。「エコ」を追求するといつのまにか反転して物質的消費主義に乗っているという、メビウスの輪的矛盾に我々は陥っているのかもしれません。どうしたらよいかは小生にもわからないのですが。

たとえば、「いろはす」的存在をどう見るか。日本人好みのカイゼン的なエコで評価も高い。ただ、ヨーロッパ人視線で見下ろせば、企業の開発努力は肯定されるとしても、なぜ日本のオピニオンリーダーはミネラルウォーターそのものに反対しないのか、ということになります。水道水飲め、っていうのがあちらの環境保護派の主張です。欧州企業にはCSR活動の一環として従業員に水道水を勧めるキャンペーンをしているところも少なくない。どこまで消費主義につきあうかという難しさがあります。どちらが正しいとか正しくないということではないわけです。我々の社会システムが消費主義と完全に決別することができないことは明らかですから。

もちろんエコのファッション化を肯定的にとらえることもできます。以前伺ったことなのですが、日本の女性ファッション誌は、欧米の女性誌と提携しているものでも欧米のオリジナル版と比べて顕著なちがいがひとつあるとのこと。途上国の人権・貧困問題や環境破壊に関係する硬い記事がすべて落とされるそうです。日本の女性はそういった記事には関心を示さない(もしくは、そう思われている)からだそう。銀座の街を闊歩する女性の皆さんが「エコセレブ」のお導きを得て貧困問題や地球環境問題に関心を抱くようになるなら、とても意義あることだと思うのです。良いことが流行するのは良いことです。そして、エコに目覚めた女性達が到達する先は「いろはす」なのか、それとも水道水なのか。ファッションとしてのエコはどこまで現状を変える力があるのか、興味深い問いだと思うのです。

サラ金化する?マイクロファイナンス

BOPビジネスの一形態としてマイクロファイナンス(貧困層向けの無担保小口融資)が流行しています。しかし、バングラディッシュではやくも多重債務問題を引き起こし不良債権比率が上昇。グラミン銀行さんが有名ですが、マイクロファイナンス市場に様々な金融機関が参入し融資合戦が激化した結果です。ちなみにバングラディッシュの3大マイクロファイナンス機関のひとつのASA(アシャ)の融資先の実に92%が他の機関からも融資を受けており、平均すると利用者は4〜5のマイクロファイナンス機関から借り入れているそうです。なかには20機関から融資を受けているケースもあったとのこと。家を捨てて夜逃げする貧困層も出ているそうで、ここまでくるともう「BOPサラ金」・・・。

投資機会が限られている状況で資金が過大に供給されたら何が起こるか、日本のバブルであり、ギリシア金融危機の本質的原因です。BOPビジネスが顧客とするのは財弱な生活基盤にある人々です。流行に乗って安易に参入することは、ビジネス上のリスクとなるだけではなく貧困層の生活を壊してしまう可能性を秘めている。ビジネスは問題を解決することもできるし、問題を創り出すこともできるのです。

赤丸急上昇!サプライチェーンCSR

米国議会で審議中だった「コンゴ紛争鉱物法案(Congo Conflict Minerals Act)」を7月にとりあげました。法案通過の可能性は50%以上とご報告したのですが、金融改革法の一部に吸収されて法律となりました。直接的に規制を受けるのは米国で上場している企業だけですが、当然米国上場企業のサプライチェーンに関係する企業は根こそぎ影響を受けることになります。多くの企業さんが対応を急いでおられます。この米国発の新ルールが国際的にどれくらい「流行」するのか、小生とても興味があるのです。

たかが流行、されど流行。
では、また〜。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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