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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

北欧流CSRを考える(前編)

2009年2月16日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

えーっと、パリから足を伸ばして久しぶりにブラッセルにいます。欧州委員会のカウンターパートと会って、今日またパリに戻って深夜便で帰国。あわただしいけど、やっぱ昔住んでいたブラッセルは落ち着きます。それに食べるもの飲むもの、なんでも美味しい!

ただ今回のテーマは北欧。美食に国の威信をかけるベルギーと正反対、美味や味覚といったものに対する冷淡さにおいて大英帝国をも陵駕するスカンディナビア諸国(ノルウェイ、スェーデン、フィンランド、デンマーク)を取り上げます。良いところもたくさんあるから。

ちなみに、視覚的にはこうなってます。


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スカンディナビア諸国、注目されてます。世界経済フォーラムが発表する競争力ランキングでも上位の常連さん。2008年だとデンマーク、スェーデン、フィンランドはそれぞれ3位、4位、6位、ノルウェイが15位。ちなみに日本は9位。ノルウェイは産油国だから比較は難しいけど。各国とも環境保護にも熱心で産業ロビイストであった小生は手を焼きました。ともかくグリーンなイメージが強い。会社だとイケア、H&M、ノキアはみんなスカンディナビアン。子供のころお世話になったレゴはデンマークの会社です。

音楽の世界でも新年2回目の回でとりあげた「ニュージャズ」なんか、北欧グループの存在感はとても大きい。それに、女性の社会進出も先進的。この前教えていただいたんですが、なんとノルウェイでは取締役の半数が女性であるという条件が上場基準に入っているそうな! 社外取締役でもよいということと、あの国では上場企業自体、数が少ないということもあって、日本の状況にそのまま当てはめるのは無理があるということなんですが。それにしてもね。女性役員が欠けて上場廃止になったり、ということが論理的には起こりえるわけですよね。

あと、あんま関係ないですが、特にフィンランドには親近感を感じてます。というのも、仕事仲間で某アメリカ企業のロビイストに、フィンランド人の可愛い女性がいた、からというのもないわけではないんですが(笑)。フィンランドの人って、ヨーロッパでは「無口」で知られています。会議なんかでもめったなことでは発言しない。日本人に似てるでしょ。講演とかでも質問出なくて仕方なく司会の人が無理矢理なんかひねり出す、あのぎこちない空気ね(笑)。ヘルシンキでもそんな光景が毎日繰り広げられてるらしい。

そもそも、フィンランド人ってウラル語族の末裔でウラル山脈の東側を発祥の地とする遊牧民。東欧のハンガリーのマジャール人と出自は同じです。フィンランド以外の3カ国は荒々しいヴァイキングが建てた国だけど。フィンランドだけはアジアのステップ地帯からヨーロッパに入ってきた人たち、ということでなんとなくアジア的なものを感じたりします。

フィンランドを代表する企業はなんといってもノキアですが、ほら、「ノキア」ってヨーロッパ言語的というよりは日本語ぽく響きません? 「ヤマダ」、「マエダ」、「ノキア」みたいな(笑)。実際、アメリカなんかだとノキアの携帯を日本製だと思っていた人も結構いたみたい。

ま、それはともかく、そんな愛すべきスカンディナビア諸国は不思議に満ちてる。男性従業員が2年育児休暇取る北欧の会社と、お父さん達が過労死寸前まで頑張っている日本の会社が競争して、なんで日本企業が負けるの?とか。CSRも同じ。

実は北欧のCSRに関心を持ったのは、次のような調査結果を目にしたことが契機です。拙著「ヨーロッパのCSRと日本のCSR」にまとめたので引用しますね。

(1988年の日立研究所の現地調査結果は)ヨーロッパ(のCSR)については以下のように総括している。
—英国に慈善に対する長い歴史があるが、近年、米国的寄付活動も増加
—西独では寄付活動は規模が小さい
—社会保障の進んだ国では企業による寄付(フィランソロピー)は軽蔑されることもある
—従業員に対する福利厚生

下線部に注目してください。なんと、「フィランソロピーは軽蔑されることもある」! 社会保障の進んだ国では。もちろん、社会保障の進んだ国の典型が北欧諸国であります。フィランソロピーはもともとアングロサクソンの概念であることは知っていましたが、それにしても企業の善意の寄付を軽蔑しなくてもいいじゃん、と。そこで何人かの北欧出身の友人にこの疑問をぶつけてみました。

ニッポン・フジイジム局長「フィランソロピーって軽蔑されたりするの?」
デンマーク・ピョートル大帝君「そうだよ」(あっさり)
フィンランド・アンヌ隊員さん「そうよね」(可愛らしく)

うーむ。。。最終的に最も納得できる説明をしてくれたのが大親友にして畏友、オランダ人にして完璧なフィンランド語を話す(らしい)アレキサンダー氏でした。曰く

「アングロサクソンの社会では企業と社会が切り離されている。それをつなぐものがフィランソロピーという利益の社会還元。北欧の社会では企業と社会が一体になっているからフィランソロピーという概念は必要ない。従業員は同時に市民であり父親であり母親である、その前提が会社に浸透している。社会と会社の壁がない。フィランソロピーと聞くと会社と社会の距離を感じる。」

なるほど。単純化してしまえば、「育児休暇は短いけど寄付に熱心な」アングロサクソン系企業と「従業員に2年の育児休暇を与えるけども寄付はしない」ノルディック系企業。どちらが社会的責任を果たす企業でしょう。みなさん、どう思いますか。さらに加えれば後者の企業は高い法人税を負担していて市民の様々な社会的活動は税金によって担われている。全体として見るとどうでしょう。日本のCSRを考える際にこの二類型をどう考えればよいのでしょう。

北欧についてもう一つ注目すべきことがあります。北欧諸国は日本がバブル崩壊とその後の失われた10年を経験したほぼ同じ時期に同様に深刻な金融危機を経験しています。スウェーデンは自国通貨防衛のために金利をなんと500%まで引き上げた。現在の手厚い社会保障制度と社会と会社の一体感はそのような危機を乗り越えてなお存在しているということです。バブル崩壊の後アングロサクソン型経営に傾斜した日本企業とは好対照ですね。

次回に続きます。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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