「新植民地主義」を回避するCSR調達
2008年12月 8日
(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)
師走に入り忙しい日々をお過ごしの方も多いのではないでしょうか。小生も御多分に洩れず、であります。この世の中、長い目で社会を考えるなんて行為は奢侈品に類するものかもしれませんね。ただ、この贅沢、お金がなくてもできるという長所があります。等身大のラグジュアリー(笑)、ということで今回は「新植民地主義」の二回目。前回の続きです。
韓国の大宇ロジスティクスのマダガスカルへの投資に対するファイナンシャル・タイムス(以下、FT)の批判記事(2008年11月20日)を概観してみます。記事のタイトルは、「大宇、広大な土地をタダで入手(Daewoo to pay nothing for vast land acquisition)」。
舞台となったマダガスカルの場所を確認しておきましょう。アフリカ大陸の東の沖に浮かぶ島国。多くの日本人にとっては縁遠いところです。
大宇のプロジェクトはこんな内容です:
- 大宇ロジスティクスはマダガスカル政府から130万ヘクタールの土地(ベルギーの国土面積の半分、マダガスカルの耕作可能面積の半分)を99年間無料で借り受ける
- 大宇は100万ヘクタールをトウモロコシ栽培に使い、残りをパーム油用の椰子栽培にあてる。
- 収穫の大半は韓国に輸出。
まず、トウモロコシですが、貧困に苛まれるマダガスカルは緊急食料援助を受けています。3歳以下の子供の実に半数が恒常的食料不足のため成長に障害をきたしているという悲惨な状況。FT曰く「(大宇のプロジェクトの)収穫のうち少しでもマダガスカルに残るものがあるのか不透明」。国際社会が飢えた子供に食料援助をしている横で韓国企業が自国向け穀物を栽培するという構図。
これに対し、大宇のコメントがまた刺激的というか、ほとんど挑発的。
「投資の目的は韓国の食料安保を確保するため。食料はこの世界で『武器』になる」」
(インタビューを受けた大宇の担当者の方、気の毒なことにメディアリレーションズ・マネジメントに関する基礎的訓練を受けていなかったようです。『武器』ですからね。。。)。
また、パーム油ですが、パーム椰子のプランテーション経営がNGOから強い攻撃を受けていること、「エコ」と「ロハス」の存在は耐えられないほど「軽い」か?で取り上げました。ユニリーバなど欧米企業は細やかに神経を使っています。産業界の人たちと一緒に書いた拙著「グローバルCSR調達」から引用します。
パーム油は有用な植物油である一方、大規模プランテーションによる熱帯林からの転換、用地取得に伴う地元住民の権利の侵害、不適切な農薬の使用による水質・労働者の健康への影響、低賃金・危険作業等の労働問題が指摘されている。同社(ユニリーバ)は、マレーシア、インドネシア、西アフリカ等における研究と経験、幅広い関係者との対話を踏まえて、「持続可能なアブラヤシ農業のためのグッド・プラクティス(GAP)」を2002年9月に作成した。GAPには、労働に関する法律の遵守、原生林の転換の禁止、新規プランテーションでの環境影響評価の実施、統合的な農薬管理、生産者との公平な契約、などの条項が含まれている。
同社(ユニリーバ)は、パーム油の生産、加工、流通関連企業や銀行、NGOなどで組織する「持続可能なパーム油のための円卓会議」の立ち上げにも積極的に関与し、上記のGAPの経験をもとに「持続可能なパーム油のための原則と基準」策定に関する議論を牽引する役割を果たした。
当然ですが、自然林を切り開いて椰子林にする大宇の計画には環境保護の観点からも批判がなされています。
全体としてFTの批判は次のようなものです。トーンの強さは異例。
- アフリカ沖で心配しなければいけないのは海賊だけではない。大宇ロジスティクスがマダガスカル政府と結んだ契約は略奪的だ。
- 新植民地主義である。大宇ロジスティクスは雇用の増加という曖昧な効果を口にするだけで、マダガスカルの人々は耕作可能地の半分を失うことになる。土地は公式には政府が所有しているかもしれないが、実際は人々が代々小規模な農耕を行ってきた。
- 大部分の土地は森林であり、気候変動に立ち向かうための有効な資源を失うことになる。
- 大資本が地元の農民と競争しても失敗するだけだ。成功するには(農民を屈服させるために)かつての植民地主義が再び必要になる。そのような日は決して来るべきではない。
欧州のメディアは自国の外で自国以外の企業が行う行為にここまで踏み込んだ批判をするのです。記事は「地元の反対」を伝えているのではありません。FTが能動的に反対論を展開している。日本の新聞ではあまり想像できません。また、「新植民地主義」、「海賊」、「略奪」といった激しい言葉で形容される本件、韓国の国家イメージにも決して良い影響は与えないでしょう。
では、大宇ロジスティクスは何を求められているのか。日本企業は今回のケースから何を学ぶ必要があるのか、次回に続きます。
藤井敏彦の「CSRの本質」
過去の記事
- 藤井敏彦のCSRの本質的最終回:「人権」2011年5月24日
- CSRの新しい軸"Keep integrated!"2011年5月10日
- 震災の教訓を、理念に昇華しよう2011年4月 5日
- あの社のすなるCSR調達といふものをわが社もしてみむとて2011年3月 1日
- エクアドル熱帯雨林「人質」作戦が問う「エコとカネ」2011年2月 1日