残念な日本の私
2009年6月11日
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先週は、ITmedia に公開された梅田望夫氏のインタビュー(前編、後編)がワタシの観測範囲内でいろいろと話題になりました(主要な反応は、それぞれのはてなブックマークページ(前編、後編)から辿れます)。この文章が公開される頃には新型 iPhone やらなんやらで完全に out of date な話題になっているのでしょうが、正直それでよかったと思います。
ワタシとしては梅田氏が語る「残念」さについては異論はなく、まったくもって残念なのですが、無用な反発をいたずらに買い、本来の目的であるはずの新刊『シリコンバレーから将棋を観る』にポジティブな注目を集めることに失敗した記事を前にして、インタビュアーの悪魔的な才能に戦慄しつつも、気がついたら遠くを眺めているような索漠とした心持になるばかりで生産的なことが書けないので、まずは自分に引き寄せた話をします。
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どうしてワタシはウェブに雑文や翻訳を公開するのか。突き詰めれば「自分のため」という面白みのない答えになりますが、あえて他者への働きかけ、影響を考えるなら、「中間層への手助け」と言えるかもしれません。
翻訳などその際たるもので、梅田氏が言うところの「上の人」であれば、ワタシがやる程度の翻訳など必要とせず、そのまま原文で読んでいるはずです。しかし、翻訳であれそのコンテンツに触れることで有益な影響をもたらす層は確実にいるはずです。
これに意識的になったのは、『ウェブログ・ハンドブック』を翻訳したときだと思います。『ウェブログ・ハンドブック』は、ブログで人生がまるごと変わる! ビジネスが一変するぞ! と花火を打ち上げる本ではなく、もっと普通の人がブログを書き、コミュニティに参加することの楽しみを覚え、知見を深めることを後押しするパーソナルな視座を持つ本でした。
後世に残るのは天才の仕事だけかもしれないが、文化は天才とパトロンによってのみ成り立つのではなく、中間層の底上げがあってこそ豊かになるという考えにワタシは与します。もちろんワタシ自身「上の人」への憧れがありますが、自分がその一員だと虚勢をはるつもりはありません。自分の雑文や翻訳の仕事が、まだ伸びしろのある人が新しい知識を獲得するポインタとなり、(可能であれば)「上の人」に打ちごろのトスをあげてホームランを打つ手助けができればと考えます。
これは別に謙遜しているわけではありません。本当に上に書いたことができれば、それだけで十分価値があるものでしょう。またそれを目指すことによる向上心をワタシはまだ失ってないつもりです。ただ実際には、自分の力でホームランを打ってやろうという邪念を捨てきれず、大抵失敗に終わるのですが……
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梅田氏のインタビュー記事に対する反発として、日本のウェブが残念というが、お前が取締役をやってる「はてな」だって残念だろうというものがありました。
ワタシはその見方に必ずしも同意しませんが、「はてな自身が、アカデミックや上流の人たちが高度な議論をする為土壌を作る能力も、それ以前に知を発掘するシステム作る気なかったじゃん」という指摘にははっとしました。
昨年はてなに押しかけたとき、近藤淳也社長に運営側の「編集」の重要性、もっといえば運営側がユーザ生成コンテンツへの目配りが新規ユーザを盛り立てることの意義を強調させてもらったのですが、それは「知を発掘するシステム」、「中間層の底上げを支援する仕組み」がないことへの不満があったのだと今になって合点がいきました。
その後、頼まれもしないのに単著を出した文化系はてなダイアラーをまとめたり、ユーザの広報日記を作ったらどうよとお節介な提案をしたのも、伸びしろのある中間層のユーザを、ロールモデルとなりうる優れた人たちとつなぐ努力が足らないことへの苛立ちがあったのでしょう。
もちろん個人的に評価する取り組みもあり、例えば「教育ソリューション:授業で使うはてな」など上に書いた仕組みに合致するものですし、はてなブックマークニュースも「編集」の自覚的な成果だと思います。これらはいずれも山田聖裕さんが主導しているようですが、社内的にどう評価されているのでしょうか。
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ただ個人的には、複数のサブアカウントという担保があるのだから、はてな匿名ダイアリーなんてものをさっさと捨て去るのが正道だと思うのですが、これには異論も多いのでしょうかね。
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