The Hard Way ~ ソウルミュージック捜査線
2008年6月 4日
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個人的な話で恐縮ですが、この1、2年で以前に比べめっきり買う CD の数が減ってしまいました。もっとも当方が音楽離れしてしまったわけではまったくなく、最近であれば復刊されたピーター・バラカンの『魂のゆくえ』のディスクガイドで聴いたことがないものを片っ端から Napster Japan で検索して聴き、自分の知らなかった音に出会える幸福を享受しています。
要は音楽を聴く媒体、手段が変化したわけですが、ワタシのように洋楽リスナーで、自室では多くの時間パソコンの前にはりついている人間には Napster の定額制サービスは(細かいところではいろいろ不満はありますが)とてもありがたく、特に聴きたいバンド、アルバムが思い浮かんだら即座に数クリックでアルバム音源を聴けるのは、それこそ『魂のゆくえ』の旧版のディスクガイドを見て、田舎で指をくわえていた20年近く前と比べると夢のようです。
そうして最近出会ったミュージシャンに、ジェームズ・ハンター(James Hunter)がいます。
『魂のゆくえ』のディスクガイドは、今回の復刊に伴い、90年代以降のディスクも近年のネオ・ソウルを中心として(いささかまとまりなく)追加されていますが、歌もギターも60年代で時間が止まったようなジェームズ・ハンターのスタイルはその中で明らかに異質で、著者の好みの反映なのでしょう。
サム・クックに似た節回しの歌といい、ホーンの使い方といい、実に気持ちの良い音で、ヴァン・モリソン(ハンターはかつて彼のバンドにいたことがあります)が、「イギリスの隠れた宝物」と評するのも納得の才能の持ち主です。グラミー賞にもノミネートされた彼の出世作『People Gonna Talk』を繰り返し聴いたものです。
そうするうちに彼の新しい音が聴きたくなり、ネットで彼について調べたところ、2008年の6月(つまり今月)に新作『The Hard Way』がリリースされること、そしてそれにあわせてリニューアルされた彼の公式サイトを知りました。
■ジェームズ・ハンターの公式サイト http://www.jameshuntermusic.com/
ついでに彼の作品に対する日本人リスナーの感想も探したのですが、さすがに知る人ぞ知る存在なようで大した数は見つかりませんでした。そうした中、「熱烈おすすめ」と書いている人がいて、おお、我が同士よと喜んだら、書いているのは八田真行さんで、世間は狭いと苦笑してしまいました。
八田真行はどうでもよいとして、面白いと思うのは、ハンターに限らずオフィシャルなウェブサイト、MySpace コミュニティ、そして YouTube チャンネルの三点セットを用意するミュージシャンが増えていることです。前回取り上げたウィーザーもそうですが、レコードレーベルの YouTube 公式チャンネルも含めればこの三つがネット上におけるプレゼンスのデファクトスタンダードになっているといっても過言ではないでしょう。
極めてアナログな佇まいのジェームズ・ハンターといえども、プロモーションにネットを欠かすことはできないということでしょうが、音楽ファンは実は MySpace よりも Wikipedia を好むという調査結果を鑑みると、本文執筆時点で未だ Wikipedia に James Hunter のページができていないのはちとまずいかもしれません。
今回、公式サイトで初めて彼の経歴を知ったのですが、彼は1962年生まれの40代半ばで、同年生まれのミュージシャンにアクセル・ローズやジョン・スクワイアがいることを考えると、現在のささやかな成功に達するまでもあまりにも長い道のりだったと思わずにはいられません。それでも、ネットを通じ、彼のような知る人ぞ知る存在が成功を確かにしていく過程を見届けることができるのは素晴らしいことです。
これまで Napster でのみハンターの音源を聴いてきたワタシですが、ニューアルバムは Amazon に予約させてもらいました。ネットで聴ける動画を見る限り、中毒性という言葉を使うと大げさですが、飽きが来ない音にあまり変化はないようで、彼の場合それでよいのだと思います。例えば、ジャック・ジョンソンのようなオーガニックな趣味的な音とマーケットニーズが噛み合ったブレイクを彼に期待するのは難しいかもしれませんが、そういえばハンターの新作は、ポール・マッカートニーが移籍したことでも知られるスターバックスのレーベル Hear Music から出るわけで、スターバックスの音楽分野への取り組みを占う上でも多くのリスナーにハンターの新作が多くの人に届くことを願います。
それでは最後にジェームズ・ハンターの YouTube 公式チャンネルから "Don't Do Me No Favours" を紹介して今回は終わりとします。
[追記]
スターバックスは2008年4月に、レコードレーベルの業務をConcord Music Groupに委譲することを発表していますので、本文中の「スターバックスの音楽分野への取り組みを占う」という表現は不適当でした。
ご指摘くださったhalfliteさんに感謝します。
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