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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

クックとハック

2007年12月19日

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もう何ヶ月も前になりますが、WIRED VISION に「ラーメンを超えて——起業家のための節約料理本が誕生」という記事が載っていて、タイトルに笑ってしまったことがあります。この「ラーメンを超えて」というフレーズは日本語版記事を作る際に編集者が受け狙いで入れたものだろうと原文を見たら、確かに Beyond Ramen で驚いたものです。

そういえば空飛ぶスパゲッティー・モンスター教のお祈りは「ラーメン」で終わるそうで、アメリカ人はラーメン食べてねーだろと決め付けたのは間違いでした。件の記事は、サンノゼの若者たちが作った起業家をターゲットにした料理本を取り上げたものですが、やはり彼らも深夜カップ麺に湯を注ぎながら、「またラーメン スープに浮かぶ 母の顔」とか一句つぶやいた経験があったんでしょうか。

下らない冗談はともかく、日々の食事を侮ることはできません。食の質は生産性に大きな影響を及ぼします。だからといって若き起業家が、食事に好きなだけ時間とお金をつぎ込めるわけもない。スタートアップが生き残るのは厳しいのだから、なるだけ時間とお金を無駄にしない努力が必要だとポール・グレアムも言っています(ポール・グレアム論法)。早い、安い、うまい、と書くとどこぞの牛丼屋のキャッチコピーになってしまいますが、それを食の部で実現すれば競争相手への優位性になるわけです。多分。ポール・グレアムが大学街での起業を勧めるのは、そうした場所は学生向けの安くで済むレストランが多いのも理由の一つでしょう。

ただ現実には IT 業界で働く人たちの食事は往々にしてジャンクフードなどに頼り、健康的なものでなかったりします。だからこそ Google で提供される一流シェフによる栄養の行き届いた、しかもタダの社食が話題になるのでしょう。

プログラムと料理は結び付けられて語られることがよくあり、両者は実は近しい位置にあるとも言えます。一番身近な例ではオライリーの Cookbook シリーズが浮かびますが、リチャード・ストールマンもフリーソフトウェアについて説明する際、ソフトウェアと料理のレシピのアナロジーを好んで語ります。そういえば GNOME がプロジェクト開始10周年記念を祝い、「「オープンソース」レシピを集めた記念レシピ集の作成に取り掛かっていている」という話もありましたが、その後どうなったのでしょうか。

現在でも料理情報はいくらでもインターネットから得ることができ、日本にも食品売り場を変えるほどの影響力を持つと言われるクックパッドという有名サイトがあります。ただ若い層に必要なのはもっと手早く簡単に作れる料理のレシピでしょう。そのあたりを上手くついた成功例には、「男が作れる超簡単料理」があります。

この手の料理情報の集積には Wiki がもってこいだと思いますし、実際料理情報の Wiki はたくさんありますが、上に書いたニーズを満たすとなると、継続して更新が続いている決定版となるものが意外にありません。確かに例えば2ちゃんねるの書き込みの集積は行われているのですが、情報の質が一定でなく、しかも書きっぱなしで進歩がないのが問題だと思います。

ここでストールマンが説くフリーソフトウェアとレシピのアナロジーに立ち返ると、「もう少し塩を減らしたほうが」「そこの油は××油のほうがよい」「その食材は安い○○で代用できる」とレシピをどんどん改良したり(デバッグ?)、複数の料理で共通する部分をまとめたり(モジュール化)、場合によっては別レシピへの分岐(fork)をうまく促す仕組みを作ればウェブにおける料理情報の共有はもっとうまくいくと思いますし、それを実現するウェブサービスは結構狙い目じゃないでしょうか。

最近ではニコニコ動画などを使った動画レシピなるものもあってまったく便利な時代だと思いますが、文字情報のレシピへの需要もなくならないでしょう。そういえばネトラン文芸賞で簡単料理まとめ本が最優秀賞を取ってましたが、「起業家をターゲットにした料理本」はニッチ過ぎる(その書籍化を可能にしている lulu.com についてもいずれ取り上げたいところです)としても、若いエンジニア向けの料理本なんて良いと思うんですがね。個人的には近藤令子さん監修でお願いしたいところです。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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