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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

偽ジョブズとアップルの2007年

2007年11月14日

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以前「2006年はYouTubeの年、2007年はFacebookの年」という梅田望夫氏の評言を紹介したことがありましたが、IT 業界全体で見た場合、今年はやはり Apple Inc. の年だったのではないでしょうか。

1月の MacWorld における iPhone 発表に始まり、その iPhone、iPod Touch、そして先月の Mac OS X 10.5 Leopard の発売にいたるまで、Apple は今年も話題にことかきませんでした(いやいや、今年はもう大きなニュースが残ってないとは限らないわけですが)。

前述の MacWorld で社名変更を発表し、もはやコンピュータだけの企業でないことを宣言した Apple ですが、それでも時価総額が IBM を上回ったというニュースは、現在の勢いを象徴しているように思えます。

そして、その Apple のニュースの中心には、今年もやはりスティーブ・ジョブズがいました。彼は Apple が持つ一種の魔力と危うさを体現しているわけですが、今年が Apple の年だったとすれば、それはすなわちスティーブ・ジョブズの年だったとも言えるわけです。

そうした2007年の Apple とジョブズに対し、ブロゴスフィアでスパイスを提供し続けたのが Fake Steve Jobs(偽スティーブ・ジョブズ)です。

The Secret Diary of Steve Jobs と題されたブログが始まったのは一年以上前になりますが、そのジョブズ以上にジョブズらしく倣岸に IT 業界を斬る語り口(ご存知ない方は CNET Japan に掲載された言いたい放題なインタビューをどうぞ)に人気が爆発し、それとともにその正体探しも話題となりました。

多くの Mac 系ライターに嫌疑がかけられましたが(その中には WIRED VISION の Cut up Mac でもおなじみ Leander Kahney も含まれます)、結局 Forbes の編集主任である Daniel Lyons が偽ジョブズであることが明らかにされました

当人もバレてほっとしたというのが正直なところだったようですが、有名雑誌の編集者という正体が割れると面白みや謎が薄れてしまった感は否めません。またその Daniel Lyons が Forbes 誌でブログ批判記事を書いていた過去が暴露なんてのはともかくとして、最近ポッドキャスト企業 PodTech 倒産の噂を報じたときには、偽ジョブズでなく雑誌編集者の見解として信頼すべき情報源とみなされることに疑問が呈されました。

そうした意味で偽ジョブズもそろそろ潮時かなと思いますが、彼の成功にあやかって今年登場したフェイクブログの一覧を見ていると、日本企業ではまず考えられないパロディーに寛容な文化と企業トップのキャラ立ちについて考えてしまいます。D: All Things Digital カンファレンスにおける夢の競演の場でもビル・ゲイツとジョブズが Fake Steve Jobs について言及していましたが、思えば偽日記という意味では日本語版が書籍化もされた「ビル・ゲイツの秘密の日記」が先輩(?)にあたります。

ところで偽ジョブズの正体として真っ先に疑われた Leander Kahney は、来年『Inside Steve's Brain』という書籍を刊行する模様です。スティーブン・レヴィの『iPodは何を変えたのか?』が iPod について行ったように(本の内容には賛否ありましたが)、2007年の Apple を象徴する iPhone という製品が生まれた裏側を伝える書籍の登場が来年以降期待されます。

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先月刊行された Fake Steve Jobs の『Options: The Secret Life of Steve Jobs, a Parody』にその役割は期待できませんが、別のやり方で2007年の Apple、ジョブズ、ひいては IT 業界の空気を掴んだ怪書という評価を後に得るかもしれません。邦訳の刊行が楽しみです。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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