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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

アーロン・シュワルツ先生の次回作にご期待ください!

2007年10月17日

(これまでの yomoyomoの「情報共有の未来」はこちら

アーロン・シュワルツ(Aaron Swartz)のことをいつ知ったか正確には思い出せませんが、彼の名前を最初に意識したのは、RSS 1.0 の共同編集者、Google Weblog の作者としてだったと思います。もう5年ぐらい前の話ですが、この2つの仕事の主が同一人物であることを知ったときは驚いたものです。

当時はその仕事から判断して、彼のことを当方と同世代だろうと勝手に思い込んでいたのですが、クリエイティブ・コモンズのメタデータ関係で再び彼の名前を見つけ、彼のことを調べたとき、自分がとんでもない思い違いをしていたのに気付きます。彼は当方より一回り以上若く、当時まだティーンエージャーだったのです。彼が W3C のワーキンググループに加わったのは、なんと14歳のときでした。このときは驚くというより倒れそうになったのを覚えています。

そして次に彼の名前を見かけたのは、彼がソーシャルニュースサイト reddit(現在は日本版もあります)に参画したときです。スタンフォード大学での生活を投げ打ち、彼はウェブスタートアップでの成功を目指したわけですが、ポール・グレアムらのベンチャー・キャピタル Y Combinator からの資金を受け、同種のサービスでは Digg には及ばなかったものの、昨年10月には Condé Nast に買収されました。彼は10代のハッカーとして見事な成功を実現したわけです。

reddit を買収した CondéNet は、この WIRED VISION の本家筋にあたるニュースサイト Wired News と雑誌 Wired Magazine の両方を所有しており、アーロンもその部門に配属され、サンフランシスコに移りました。WIRED というとハッカー文化にも造詣が深いイメージがありますが、大企業で働くのは彼にとって筆舌尽くしがたく楽しくない経験だったようで、今年に入って半ばクビ同然で退職してしまいます。

このあたりの話は Google Blogoscoped に掲載されたインタビュー日本語訳)に詳しいですが、これを読むと、彼のこれまでの仕事量だけでなく、レッシグと写った写真の少年然とした感じからヒゲ面のイカしたニーチャンへの成長ぶりにも驚かされます。このインタビューは、アーロン・シュワルツのハッカーとしての妥協のなさとリベラルさを兼ね備えた人となりを知るのにも格好のテキストです。

ジョエル・スポルスキーは、「マネジメントの本」で reddit の買収とその後を軽く皮肉っていますが、アーロンは reddit を離れたことを後悔していないようです。それは買収により相当額のお金を手に入れたからだけではなく、自分の力でまたイチから未来を切り開けるという強い自信があるからでしょう。前述のインタビューではまだ休止中という趣きでしたが、彼のブログの8月のエントリを読むと、束の間の休息を終えて再び猛烈な活動モードに入ったのが分かります。

彼が今手がける仕事で特筆すべきは、Open LibraryJottit です。前者は Internet Archive が以前から取り組んできたインターネット上に図書館を実現するプロジェクトを、アーロンが reddit 以前に手がけていた infogami のフレームワークで実現したもので、後者もまた彼が公開するウェブアプリケーションライブラリ web.py を使用した、シンプルさに徹した WikiFarm です。

当方がこの二つを彼らしいと感じるのは、いずれもウェブアプリケーションというだけでなく、Jottit のみならず Open Library もユーザが書誌情報を追加、編集できるという Wiki 的要素を持っていること、そしていずれもインタフェースがウェブに最適化されていることです。

思えば彼は Wikimedia 財団の理事に立候補したときも、Wikipedia に主要な貢献をしているのはごく一部のユーザという説に意義を唱えコミュニティと理事会をオープンなものにしソフトウェアの使いやすさを維持すべきと訴えていましたが、彼のインターネットのオープン性と Wiki 的な集合知への信頼、そしてコードの力で世界を変えられるという信念は変わっていないようです。

あと著名なハッカーがこぞって Google に移る中で、彼は現在の Google で働くことに魅力を感じていないのにも当方は興味があります。Open Library は元々 Google Book Search の囲い込みに対する反応であることを考えれば、彼がこれに協力するのも不思議ではありません。もしかすると彼がかつて楽園のように思っていたスタンフォード大学を再訪したときに感じた違和感も、そのあたりとつながっているのかもしれません。

ちょうど How to Get a Job Like Mine という彼のこれまでの活動を振り返る文章が公開されていますが、彼が最初に作ったアプリケーションは Wikipedia のようなものだったそうです。物心ついたときからパソコン/インターネットがあった、にとどまらず、最初からネット上でアプリケーションを作り始めた彼にこそ真のネット世代のあり方を当方は感じます。何より彼はまだハタチそこそこです。これからも幅広く刺激的な仕事を為すに違いありません。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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