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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

Life Goes On

2007年10月 3日

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一年近く前になりますが、昨年の11月、当方も寄稿した『あたらしい教科書<9> コンピュータ』(プチグラパブリッシング)の刊行を記念し、山形浩生氏(監修)と仲俣暁生氏(編集)のトークセッションが開かれました。当方は田舎暮らしのため、通常そうしたイベントには参加しないのですが、このときは思うところがあって足を運びました。

トークセッションの後、知り合いの編集者から TBS ラジオの長谷川裕氏を紹介されたのですが、実は以前より mixi の足あとに長谷川さんの名前が時折残っていて不思議に思っていたのでお名前だけは覚えていました。話してみると爽やかな好人物で、あの TBS にもまともな人間がいるんだ、と失礼なことを思ったりしましたが、話題の中心は何より氏がプロデューサを務める「文化系トークラジオ Life」でした。

このラジオ番組をどういう経緯で知ったのかはもう覚えていませんが、第1回から現在まで欠かさず聞いています。番組のファンになったのは、第1回のテーマが、「「バブル」ってなんだ?」というバブル経済を体験できなかった世代の人間にとって食いつきがよい話題だったこともありますが、鈴木謙介さんのトークの達者さに惹かれたことが大きかったと思います。

実は件のトークセッションも「Life」と間接的につながっていて、仲俣暁生さんは元々番組のサブパーソナリティの一人でしたし、当方同様『あたらしい教科書』に寄稿し、トークセッションでも登壇していた津田大介氏もこの後サブパーソナリティの一員となりましたし、山形浩生も翌月ゲストとして番組に登場しています(もっとも、その回は個人的には番組史上もっとも詰まらない内容でした)。

こうしてみると「人のつながり」の重要性を感じるわけですが、それはこの番組のリスナーにも言えることで、mixi のコミュニティまとめ Wiki有志のサークルといったものにリスナーのこの番組へのロイヤリティを見ることができます。プロデューサの長谷川さん(番組の中では「黒幕」と呼ばれる)がこの番組に込めた狙いについては、氏が週刊ビジスタに寄稿した文章に詳しいですが、「真剣30代しゃべり場」とも呼ばれるラジオ番組を好む人たちによるコミュニティが形成されているという事実は、同じく30代な当方にとっても嬉しいことです。

ラジオというメディアは、お世辞にも上り調子の媒体とは言えず、一年前に Radio 2.0 とぶちあげたデジタルラジオもその後普及する気配がなく先が見えません。『CONTENT'S FUTURE』(翔泳社)における長谷川さんのインタビュー(動画が公開されています)も、「少数派のメディア」となったラジオでコンテンツを作ることの意義がテーマになっています。

近年の音声コンテンツ分野での大きなトピックとしてポッドキャストが挙げられます。TBS ラジオは積極的に人気番組のポッドキャスト化を行っているラジオ局で、「Life」のウェブコミュニティもポッドキャストなしにはなかったでしょう。というか、はじめに書いたように TBS ラジオが聞ける圏外に住む当方が、毎回欠かさず番組を聞き続けられているのは、ポッドキャストのおかげ以外の何物でもなかったりします。

「今のメディアにおけるラジオという形態はなくなっても、「音声コンテンツ」へのニーズは普遍であり、絶対生き残る」という長谷川さんの確信には、当方も同意します。最近では ustream のようなカジュアルな動画配信がもてはやされていますが、ネットラジオやポッドキャストには、「動画配信−映像」以上の価値があるはずです。

ただポッドキャストも一時期の熱狂は冷め難しい局面を迎えており、ラジオ局もポッドキャストでネットに対応すればオッケーとはいきません。『CONTENT'S FUTURE』における鼎談では、生放送のライブ感+まとめ Wiki によるテキスト化+ツッコミ機能による感想の共有というソリューションが話されていますが、これは例えば Podcastle などのウェブアプリケーションのあり方にとって示唆的な議論だと思います。

さて、今回「文化系トークラジオ Life」を取り上げたのは、この10月に番組開始1周年を迎え、そしてその存続が決定したからです。番組の書籍版も11月に出るとのことで、これからも AM ラジオの1番組の枠に留まらない展開を一人のファンとして期待したいと思います。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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