このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

オーランチオキトリウムが、日本を産油国にする(2)

2011年2月25日

  • 前のページ
  • 2/4
  • 次のページ

オーランチオキトリウムとは、いったいどんな生物なのか?

──今回採取されたオーランチオキトリウムの株は、オイル生産効率がボトリオコッカスに比べて圧倒的に優れているということですね。

今回のオーランチオキトリウムは、オイルの生成量でいえばボトリオコッカスの3分の1ですが、増殖スピードが36倍と速いのが特長です。生産効率は従来に比べて単純計算で12倍になるわけです。

──このような株を採取できたのは、どうしてでしょう?

宝くじのように、たまたまそういう株を引き当てたと思っていらっしゃる方もいますね(笑)。それが科学と言えるのかと。しかし、闇雲にあちこちから採取すれば、よい株が採れるとは限りません。私たちも幸運を引き当てるために、周到な準備をしました。

藻類に関する論文を相当数調べたところ、オーランチオキトリウムの仲間がオイルを作るという報告がありました。それこそ乾燥重量で0.1%程度と極めて少ないながらも、先述のスクアレンを作るものがいるというのです。

そこで、論文から場所の当たりを付けて日本近海で150株採取したところ、今回の株が見つかったというわけです。勝率の低い賭でしたが、何とか当たりを引くことができました。株が見つかるまでに1年半かかりましたが、これは随分早い方でしょう。遺伝子組換えや品種改良だと、10年や20年かかったかもしれません。探索という手段には、これだけのスピードがあります。

オイルを作ることが知られている藻類は20種類ほどと述べましたが、学名の付けられている藻類だけでも4万種、調べられていないものを含めると藻類は全部で30万種から1000万種になるのではないかと言われています。

──オーランチオキトリウムは従属栄養、つまり光合成を行わず、有機物をエサにして呼吸するわけですよね。これは、藻類と言えるのでしょうか? 光合成を行うことが藻類の条件かと思っていたのですが。

オーランチオキトリウムは広い意味での藻類に含まれます。これは、進化系統から見るとよくわかります。クロロフィルaを持つ生物のうち、最も原始的なのがラン藻です。このラン藻を色素体として取り込み、緑藻類、紅藻類、灰色藻類の仲間が誕生しました。緑藻類を取り込んで生まれたのがミドリムシなど。紅藻類を取り込んだのが褐藻類、つまりコンブやワカメ、それに珪藻類の仲間です。

色素体を取り込んだ側の生物は、元々は色素体を持っていませんでした。コンブやワカメと近縁の(色素体を取り込まなかった)生物が進化して、ラビリンチュラ類という原生生物になりました。ラビリンチュラは、ストラメノパイルという藻類の一大分類群に属しています。藻類と一口にいっても、色素体を持っているもの、持っていないもの、持っていたけどなくして無色になったものなどが入り混じっています。

ラン藻は真正細菌(バクテリア)ですが、オーランチオキトリウムはバクテリアではありません。コンブやワカメに近いものをバクテリアとかカビとは言えないでしょう。

オーランチオキトリウムを培養している様子。

──藻類の分類は、ここ数十年で大きく変化しましたね。

DNAによる解析が進む前は、オーランチオキトリウムを含むラビリンチュラ類はカビやキノコ等の菌類の仲間にされていましたが、その当時からラビリンチュラは藻類ではないかという意見が出ていました。ラビリンチュラは生活環の中で長さの異なる2本の鞭毛を持つのですが、これはコンブやワカメの鞭毛をもつステージの細胞と形態が同じなのです。

ちなみに進化系統樹では、カビ/キノコはラビリンチュラより、ずっと人間に近いんですよ。

──今回採取されたのは、オーランチオキトリウムの「株」という表現をされていますが、これは新種ではないのでしょうか? 同じ種でオイルの生産効率が10倍も違うなんてことがあるんでしょうか?

オーランチオキトリウム属であることは確認しています(生物の分類は、上位から順に「界」「門」「綱」「目」「科」「属」「種」となる)。新種かどうかはさらに細かな検証が必要ですから、もう少し時間をください。

ただ、微生物の場合、同じ種でも特性は大きく異なります。ボトリオコッカスでいえば、オイルの生産量にしても乾燥重量当たり2%から80%くらいの開きがあります。大腸菌なんて、あれほど多様なのに全部同じ種ですよ。人間のように大型の生物になると同じ種での変異は小さくなりますが、微生物は同じ種でも幅が大きいのです。

  • 前のページ
  • 2/4
  • 次のページ
フィードを登録する

前の記事

次の記事

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

過去の記事

月間アーカイブ