このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

次世代電池レースで脚光を浴び始めた「マグネシウム電池」(4)

2010年3月26日

  • 前のページ
  • 4/6
  • 次のページ

大電流を取り出せる、もう一つのマグネシウム一次電池

マグネシウム水電池正極の放電曲線(正極触媒重量で規格化)。

マグネシウム水電池では、鉛バッテリーのようにセルを並べて大型化できる。

──このマグネシウム空気電池は、携帯電話などの小型機器にしか使えないのですか?

栗原:電池では、化学反応の速度が電流の大きさになります。現在のマグネシウム空気電池では、マグネシウムのイオン化速度は速いので、反応する酸素の取り込み速度が律速(化学反応の速さを決定する主な要因)になっています。このため、大電流を取り出すには、電解液を保持しつつ、酸素の取り込み速度を向上させる構造が必要になります。このような構造で大型化するのは、そう簡単ではないと思われます。

そこで、もう一つ別方式のマグネシウム一次電池も開発しています。こちらの電池では、マグネシウムと水の反応を利用しています。触媒として使っているのは、「X」ではなく、マンガン系の化合物です。ただし、アルカリ電池に使われているマンガン化合物では、水の反応に対する触媒効果が低く、0.5V程度しか出ないため商品にはなりません。それに対し、「X」+αとマンガン系化合物を使うと、1.2〜1.4V程度の電圧を取り出すことができます。水の理論容量は、1488mAh/gと大きいものです。実際には、二酸化マンガンの触媒重量で規格化した場合、1750mAh/gの容量が出ています(二酸化マンガンの反応では、理論容量の308mAh/gを超えることはない)。

先に説明したマグネシウム空気電池の1.6〜2.0Vに比べると電圧は低いのですが、その代わりこの電池は、鉛バッテリーのような構造で構成できるので、大型化しやすくなっています。150V80Aもしくは300V40Aの試作電池ができていますから、冷蔵庫などの家電を動かすこともできるでしょう。

──水と反応する一次電池では、最終的に水素が出るのではないでしょうか?

栗原:はい、水素が出ますが、現段階では大気開放です。水素は、密閉しなければ危険は少ないのです。

──自動車用電池としても使えるのでしょうか?

栗原:可能性はあります。ただ、このマグネシウム水電池は充電のできない一次電池ですから、負極の金属マグネシウムを使い切ったら、取り替えることになります。

マグネシウム水電池の試作品。現在は手作業でシートに触媒を塗布しているが、機械化すれば厚みは1/6程度になるという。

  • 前のページ
  • 4/6
  • 次のページ
フィードを登録する

前の記事

次の記事

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

過去の記事

月間アーカイブ