広告概念の崩壊
2008年12月24日
(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら)
前回書いたように、もし広告というものが、婉曲な「誘い」の要素をもった存在から、販売促進的なものへと変化し、さらにもっと直接的な物販の要素を持つものへと変化しようとしているならば、それは、広告の経済的な重要性が桁違いに増大していくということでもある。
広告市場は、日本でもアメリカでも、GNPの1パーセント台ほどと見られていた。いうまでもないが、この数字は、広告によって商品が売れた金額は含まれていない。広告経済と商品経済は別のものだったわけだ。
しかし、いまや広告のそうした性格は変わりつつある。広告経済が商品経済をとりこんだものというか、ふたつが融合し始めている。REVShareや、次回とりあげるドロップシッピングのような物販に限りなく近い「広告」──なのかどうかももはやはっきりしない物販と密接に結びつきつつある仕組み──を、もしまだ広告と呼ぶとしたら、広告の経済規模は、これまでとは比較にならないものになる。
商品経済をも含み始めた広告は、GNP比1パーセント台のマイナーな市場ではもはやなくなり、経済構造全体を大きく揺り動かす存在になっていくにちがいない。
広告のシロウトである私が広告に関心を持ち、こうしたブログ連載を始めたのは、そうした疑問のためである。
「広告市場規模」なるものが、かなり曖昧なものであるということは、今年の発表からもうかがえる。
日本の広告市場規模として語られるものは、電通が「日本の広告費」として毎年発表している数字だが、電通は今年、推計の仕方を変え、〇五年からの数字を見直している。
これまでインターネット広告費には制作費は含まれていなかった。しかし、それを計上する形に改訂した。その結果、06年のネット広告は制作費1196億円が加算され、3割り増しになった。
また、雑誌広告も、業界誌や専門誌、カード誌・会員誌、ローカルタウン誌などを新たに集計対象とし、2割以上増加している。
当然ながら、集計対象を変えれば、推計金額は変わる。こうしたことは、広告費にかぎらず起こることだが、その結果、日本の広告費は6兆円から7兆円へと大幅に増加することになった。
それならば、現在は、広告経済とは明らかに別のものと見られている物販の売り上げが、広告として認定される日が来ることはありえないだろうか。
もちろん、こうしたことがほんとうに起これば、それはもはや広告という概念自体が崩壊することになるかもしれない。どこまでが広告で、どこからが広告ではなく物販として計上すべきなのかがわからなくなるからだ。
物販をしている会社ではなく、Googleなどのように、第三者が成果報酬の仕組みを作っている場合には、広告と物販の切り分けは比較的容易だ。売り上げがあったり会員登録がされたり、アンケートに回答があったりと、広告主が設定したアクションが行なわれるごとに課金が発生し、それが広告費として計上される。
しかし、アマゾンや楽天など物販をみずからやっている会社が運営しているアフィリエイトの場合には、もう少し複雑である。パートナー・サイトが設置するアフィリエイトは広告ということになっているわけだが、アフィリエイト・サイトは、セールス役も担っている。商品を売っているという見方もできなくはない。そう見れば、広告ではないということになる。
そうはいっても、アフィリエイトについてはやはり広告として見るのが一般的だとは思うが、次回とりあげるドロップシッピングは、アフィリエイトと似ているものの、広告とはもはや言えないものになっている。
そして、ドロップシッピングの存在を知ったうえで、あらためてアフィリエイトを見ると、アフィリエイトもほんとうに広告なのかという疑問が湧いてくるのだが、とりあえずはドロップシッピングについて見てみよう。
歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
過去の記事
- 「広告経済」の潮流は変わらない2010年1月18日
- あらゆるものが広告媒体になる2009年12月21日
- 広告経済か無料経済か2009年11月16日
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