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歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」

ドラスティックに変化し続ける広告経済とネットの関わりを読み解く

動画の視聴実態・日本編――動画広告の発展(3)

2008年5月27日

(これまでの 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」はこちら

●高齢層の「ニュース好き」

 前回、アメリカで行なわれた動画調査をもとに、ニュース動画がどれくらい見られているかが、世代を超えたネット動画の広がりを見るひとつの指標になるのではないかと書いた。

 日本の調査を見てもこうしたことは言えそうだ。
 1年前の調査でデータが少し古いが、「gooリサーチ」の「第6回ブロードバンドコンテンツ利用実態調査」(有効回答数:38,017名)からもこうした傾向は見てとれる。

 若年層と比べて、50歳以上の世代が段違いに視聴している動画ジャンルは、第一に映画、第二にニュース・天気予報だ。逆に若年層が見ているのは音楽やアニメ、お笑い・バラエティといったジャンルである。


●性や世代によって差が大きい動画視聴

 今後利用を増やしたい動画視聴(テレビも含む)についての回答からも、世代や性別による動画視聴への期待の違いがわかる。

 女性のほうが「オールド・メディア離れ」していないということか、10代の女性は民放のテレビ放送、20代はレンタルで借りたビデオ・DVD、30代・40代がスカイパーフェクTV、WOWOW、CATVなどの有料放送の視聴を増やしたいという。

 こうした女性の好みと比べると、男性のネット指向は強い。
 10代・20代の男性は動画共有サイト、30代以上の男性はGyaOなどの無料のインターネット放送の視聴を増やしたいと答えている人がもっとも多い。
 男性の10代と20代では2位が民放のテレビ放送だが、30代、40代はCATVなどの有料放送が2位で、民放は3位である。男女あわせても3位で、民放離れが進行している。

 もっともNHK離れはもっとはなはだしい。動画を増やしたい動画の3位までにNHKをあげているのは、男性の50代以上、女性の60代以上のみである。

 視聴を増やしたい上位3つまでに動画共有サイトが入っているのは、10代と20代の男性、10代の女性のみだ。動画共有サイトについては次回詳しく取り上げるが、世代差がはっきりしている。


●オンライン動画の視聴頻度

 世代別の視聴頻度のデータ(2007年11月、日経マーケット・アクセス)もある。
 昨年11月の時点で、20代では、ほぼ毎日動画を見ている人が18.2%、週1回以上見ている人は61.9%。
 それより上の世代になるとがくっと減り、30歳代で、毎日見る人は8.4%になる。週に1回以上でも44.3%である。
 40歳代では、毎日見る人は7.1%に減るものの、週に1回以上見る割合は30歳代とあまりかわらない。50歳代でも4割近くが週に1回以上見ている。動画視聴を頻繁に見るかどうかは、30歳あたりが境になっているように見える。

 しかし、じつは10代と20代ですでに大きな違いがある。日経マーケット・アクセスの調査では10歳代のデータがないが、この種の調査では、10歳代を調査しないと動向がわからない。10歳代と20歳代でとくに違うのは、次回とりあげる動画共有サイトの視聴である。
 
●携帯電話での動画利用

 携帯電話の動画利用もやはり世代差が大きい。
 日経リサーチが2007年5月に行なった「携帯電話の動画コンテンツ利用」(有効回収数:5,324人)では、携帯電話で動画を視聴・ダウンロードすることがあると回答したのは10-20歳代が21.3%、30歳代が14.1%、40代は7.9%、50-60代では4.4%と低い。全体では12.1%だった。

 しかし、ケータイでも、高齢層のニュース好きという傾向は見てとれる。
 全体では、着ムービーを含む音楽を利用する割合が60.7%と突出して高く、次いでスポーツニュースを除くニュース・報道(20.4%)、趣味・エンターテイメント(13.6%)の順だが、

 年代ごとに見ると、トップの「音楽(着ムービーを含む)」は40代以下では6割以上が利用しているが、50-60代では29.5%と他の世代に比べて半数以下の利用だった。  2位の「ニュース・報道(スポーツニュースを除く)」は、各年代とも音楽に次いで高いが、特に50-60代が29.5%と「音楽(着ムービーを含む)」と同じ割合で、他の世代よりもやや高め。

 こうレポートされている。

 これよりもう少し前のデータだが、インフォプラントが2006年11月にiモード・ユーザーを対象に実施した調査(有効回答:5,837人)でも、携帯電話で動画を視聴したことのある人のなかで「音楽情報」の動画を見た人の割合は、男性19歳以下と女性20歳代以下で多いが、「ニュース/天気」は逆に、男女とも高年齢層ほど見ている割合が高いという結果になっていた。


●出遅れたテレビ局やポータルサイトの強化策はニュース動画か?

 前回紹介したアメリカの調査では、男性は世代を問わず4人に1人以上が動画を毎日見ていて、半数以上の人が週に数回見ていた。視聴のもっとも少ない25歳以上の女性でも、13.3%が毎日見ており、半数近くが週に1回以上見ていた。

 この調査は、世代ごとの視聴頻度ではなく、18歳から24歳と25歳以上の分類でしかなく、データの取り方が違うので単純な比較はできないが、日本では、30歳代で毎日見る人は8.4%しかいない。こうした数字を比べると、アメリカのほうが動画視聴が浸透しているように思われる。

 日本では、音楽が最強の動画コンテンツだが、35歳以上がネットユーザーの6割を占めているアメリカ(2008年4月、Nielsen Online:PDF)で、もっとも人気のある動画のジャンルはニュースである。

 どんなに動画共有サイトが人気を呼んでポピュラーなものになったといっても、オンライン動画の視聴はまだ始まったばかりで、ごく揺籃期にある。ネットでの動画の視聴がやがて中高年にも広がっていくことはまちがいない。

 日本のテレビ局は動画配信で出遅れたが、テレビ局やポータルサイトが今後ニュース動画の視聴を強化していけば、動画共有サイトに若年層ほど惹かれていない30代以上の世代をとりこめる可能性があるように思う。

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プロフィール

『ユリイカ』編集長をへて1993年より執筆活動。著書に『ネットはテレビをどう呑みこむのか』、『科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた』、『「ネットの未来」探検ガイド』、『インターネットは未来を変えるか』、『本の未来はどうなるか』など。大学でメディア論などの授業もしている。週刊アスキーで「仮想報道」を連載。アーカイブはこちら 歌田明弘の「地球村の事件簿」

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