2010年夏映画、私的ガイド
2010年8月16日
8月もはや後半。少々遅くなってしまったが、いまだ厳しい残暑を涼しい映画館で乗り切ろうという方に向けて、今夏公開の話題作、注目作を紹介したい。なお、7月に封切られた作品については、地域によって上映終了しているものがあるかもしれないが、その点はご了承願いたい。
■アクション系
『インセプション』
配給:ワーナー・ブラザース映画 公式サイト
今夏イチオシのSFアクション。監督は『ダークナイト』のクリストファー・ノーラン、主演はレオナルド・ディカプリオ。渡辺謙も共演。夢に潜入する犯罪チームが困難なミッションに挑む。夢の世界を描くのにいかに斬新で独創的な映像を作り出すかに挑戦していて、30メートルに及ぶホテルの廊下のセットを丸ごと回転させて無重力状態を作り出す、軽量素材による店の調度の爆発を高圧窒素で実現して高速撮影、ロサンゼルスの市街に貨物列車のレプリカを実際に走らせるなど、創意工夫を凝らした実写にCGが巧みにブレンドされ、見たことがないのに奇妙にリアルな映像世界が完成した。ぜひ映画館の大スクリーンで体感してほしい。
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『ソルト』
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 公式サイト
こちらも非常に出来のいいスパイ・アクション。『ミッション・インポッシブル』シリーズや「ジェイソン・ボーン」シリーズのように、ガンファイト、格闘、爆破、カーチェイスといった派手なシーンがハイテンポで続き、最後まで一気に見せる。アンジェリーナ・ジョリーが演じるソルトが、濡れ衣を着せられたCIA職員か、ロシア側のスパイなのか、それとも……と謎めいた存在にした点もうまい。
『プレデターズ』
配給:20世紀フォックス映画 公式サイト
アーノルド・シュワルツェネッガー主演で大ヒットした『プレデター』(1987年)のシリーズ最新作。今回は、異星人プレデター(捕食者)の狩りの標的として、地球から未知の惑星の「狩場」に連れてこられた傭兵、ロシア軍人、日本人のヤクザ、殺し屋、囚人などが、生き残りを賭けて闘うというストーリー。ヤクザとプレデターの“果たし合い”は、日本人観客に晴れがましさと気恥ずかしさの入り混じった微妙な笑いを提供。
『レポゼッション・メン』
配給:東宝東和 公式サイト
近未来の臓器回収業者「レポメン」の受難と逃亡、捨て身の反撃を描くSFアクションスリラー。ジュード・ロウ主演なので無難な娯楽作かと思いきや、グロい臓器摘出シーンなどもあり(R15+指定)。映画の話法という点でも、確信犯的な問題作。
『エアベンダー』
配給:パラマウント 公式サイト
『シックス・センス』のM・ナイト・シャマラン監督がテレビアニメの実写映画化に挑戦。3部作構想の壮大なファンタジーの第1章で、3D方式でも上映。ストーリーテリングは正直微妙なところだが、CGを駆使したVFXは派手なのでマニアには楽しめる。
■アニメ映画
『トイ・ストーリー3』
配給:ディズニー 公式サイト
ピクサーのフルCGアニメ『トイ・ストーリー』シリーズの第3作。かつてカウボーイ人形のウッディや宇宙レンジャー人形のバズ・ライトイヤーらと遊んだアンディも、大学に進学する年齢に。けなげに持ち主を愛し続けるおもちゃたちと、アンディとの間に“別れ”は来るのか……。前2作を未見の方、忘れた方はぜひDVDなどで予習してからどうぞ。感動が倍増すること請け合い。
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『借りぐらしのアリエッティ』
配給:東宝 公式サイト
スタジオジブリの御大、宮崎駿監督は企画・脚本に回り、同社のホープ米林宏昌氏が長編監督デビュー。身長10センチのアリエッティは、人間が住む屋敷の床下で、「人間に見られてはいけない」という掟を守りながら、さまざまな生活品を借りて両親と暮らしていたが、屋敷に引越してきた少年に姿を見られてしまい……というストーリー。いきいきとしたキャラクター描写、アクションの躍動感。セシル・コルベルによるケルト音楽も映画の世界観によく合う。
『ヒックとドラゴン』
配給:パラマウント 公式サイト
ドリームワークス・アニメーション作品のキャラクターはクセがあって割と苦手だったが、今回は大丈夫。ひ弱なバイキングの少年がドラゴンと出会って成長するというストーリーも万人受けしそう。主人公がドラゴンの背中に乗って大空を駆けめぐるダイナミックなシーンは、3Dで鑑賞すると一層楽しめる。
■コメディ
『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
配給:ワーナー・ブラザース映画 公式サイト
結婚式を間近に控えた花婿と仲間3人がバチェラーパーティーでラスベガスに繰り出したはいいが、酒とドラッグで記憶が丸ごと抜け落ちるほど泥酔。翌朝3人がひどい二日酔いで目覚めると、花婿の姿は見当たらず、なぜか虎と赤ん坊がホテルの部屋に……。朦朧とした頭を抱えながら花婿を探す彼らに降りかかるドタバタと、一夜の暴挙や愚行の数々が徐々に明らかになっていく構成がうまい。
『ヤギと男と男と壁と』
配給:日活 公式サイト
実在した米軍の超能力部隊に迫った原作のノンフィクション本『実録・アメリカ超能力部隊』をベースに、ユーモラスでノスタルジックな味もあるロードムービーに仕上げた。ジョージ・クルーニー、ユアン・マクレガー、ジェフ・ブリッジス、ケビン・スペイシーという演技派スターが共演、大真面目で超能力者を演じるのを見ているだけで楽しい。
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■これから公開
『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』 (8月20日公開)
配給:20世紀フォックス映画 公式サイト
80年代の人気ドラマの映画化。米軍最強の個性派4人組の特殊部隊であり、絶妙のチームワークで荒唐無稽な作戦を成功に導く「Aチーム」。何者かに無実の罪を着せられ、監獄や病院に送られるが、機を見て脱出。再び合流し、汚名を晴らすため奇抜な作戦を敢行、陰謀の黒幕に迫る。理屈抜きで楽しめて、残暑をスカッと吹き飛ばしてくれる娯楽作。
『カラフル』 (8月21日公開)
配給:東宝 公式サイト
原恵一監督(『クレヨンしんちゃん』シリーズ、『河童のクゥと夏休み』)が森絵都のベストセラー小説をアニメ映画化。子供だけでなく大人も楽しめる、というか、自分の十代の頃を思い出したり、思春期の子を持つ親として考えさせられたりするであろう、質の高い作品。手描き2Dキャラと背景の3DCG、さらには実写の写真などもミックスさせた表現手法は、押井守監督など先駆者がいるものの、すでに確立されたアニメ手法に安住せず新しい映像表現に挑む意気が感じられる。
高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」
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