このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

『深海の世界』Blu-ray版:ユメナマコやオオグチボヤなど、変な生き物を高画質で

2008年12月12日

deep_sea1.jpg

早川いくを著『へんないきもの』(バジリコ刊)のベストセラーや、深海生物のフィギュア化(海洋堂のあれこれ、アガツマ・エンタテインメントによる『へんないきもの』とのコラボ)などからもわかるように、奇妙な風体をした生き物の人気は意外に高い。映画でも、SF・アメコミ系アクションやモンスターホラーといったジャンルでヒーローやヒロインを引き立たせるのは、不気味なのになぜか気になる異形のクリーチャーの存在だ。

これまで、深海がそうした奇妙な生物の宝庫であることは知られていたものの、高い水圧のため特殊な探査艇でなければ潜れないこと、また太陽光の届かない暗闇の世界であることから、深海生物の生態をとらえた映像はごく限られ、画質も低かった。ところが、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の協力のもと、超高感度ハイビジョンカメラを搭載した無人探査機『ハイパードルフィン』によって、一度も見たことがないような珍しいクラゲやイカ、写真やイラストでしか知らなかったナマコやホヤなどが鮮明なHD映像で撮影され、このたび『深海の世界』としてNHKエンタープライズから発売されることになった(レビューではブルーレイディスク版を視聴したが、DVD版も発売される)。

撮影が行なわれた場所は、相模湾、小笠原諸島周辺、三陸沖、鳩間海丘(沖縄県の南西)、富山湾・後志海山の5ヵ所で、チャプターもこの5つに切られている。特に相模湾や富山湾など、海岸からそう遠くない沖合の海底がすり鉢状に落ち込み、そこに水深1000メートル以上の別世界が広がっているとは驚きだ。

最初の相模湾では、クラゲの仲間が比較的多く収録されている。カッパクラゲは、透明な体の中に小さなクラゲが見えていて、ほほえましい親子の情景かと思いきや、「他の小さいクラゲを食べることで知られています」というナレーション。また、一見ムカデのように節を持った長い生き物のような姿で、身をくねらせながら泳ぐクダクラゲの仲間は、実は複数の個体がつながって群体を形成している。個体によって形態や機能が違っているのも興味深く、「泳ぐだけ」というのも重労働で大変そうだが、「食べるだけ」「生殖するだけ」という役割も楽しいんだか哀しいんだかよくわからない。

序盤で特に印象的なのは、えりまきのようなヒレをはためかせて優雅に泳ぐユメナマコ。名前の由来はわからないが、この幻想的な姿は確かに夢のような感じがする(ナマコの夢のようでもあり、見ている自分の夢のようでもあり)。このシーンでは特にHD映像の美しさを実感できる。

深海界随一の人気キャラ、コウモリダコも比較的短めの出演ながら姿を見せている。「地獄の吸血イカ」を意味する学名「Vampyroteuthis infernalis」、8本の足に張られた膜、胴体の先にある耳か羽のように見える2つのヒレ、その付け根で青白く光る発光器など、個性的なポイントが盛り沢山だが、何より強烈なのは、外敵などから脅威を感じたときに、足と膜をくるりと反転させて、トゲトゲ付きの黒いボールのような姿に変身できること。参考までに、YouTubeにあった動画を下に貼っておく(『深海の世界』の映像ではありません、念のため)。


(冒頭はテキストが全面に出てうるさいが、30秒あたりから見やすくなる)

ほかにも、以下のような興味深い生物が登場する。

deep_sea0.jpg
(C) 2008 NHK ENTERPRISES

画像左:なにやら角が生えたフグのように見えるが、これはメダマホオズキイカ。足を上に立てて泳いでいる。普段は透明だが唐突に赤く変色したり(理由は不明)、撮影中のカメラをつぶらな瞳でじーっと見つめたり、なかなか愛らしいヤツ。

中央:ギンザメの仲間。海底に産みつける前の袋状の卵を腹部にぶら下げた母親ザメの貴重な映像が収められている。

右:オオグチボヤ。『へんないきもの』の表紙に抜擢されて一躍人気スターに。この「大口」をゆっくりと閉じるユーモラスな姿がHD映像でよくわかる。

もちろんまだまだたくさんの生物が撮影されているが、きりがないのでこの辺でとどめておく(詳細なリストは、以下のアマゾンのページに掲載されている)。

映像は総じて鮮明で、クラゲやイカなどの透き通る体の美しさがよく表現されている。フォーカスやフレーミングの操作が少し気になる部分はあるが、無人探査機に搭載された遠隔操作のカメラでこれだけ素晴らしい映像を撮影しているという事実を思い出させる要素とも言える。

映像スペックはBD一層(MPEG-4 AVC)の1920×1980i、音声はリニアPCMのステレオ収録で、ドキュメンタリー/カルチャー作品としては及第点。欲を言えばBGMは深海の広がりを演出するサラウンド収録だとなおよかったが、シンセサイザーとアコースティックギターを中心に、出しゃばらず上品に映像をサポートしている。なお、音声の切り替えでナレーションを切って音楽だけにし、BGV(環境ビデオ)として映像を流すこともできる。

熱帯魚の色鮮やかな外見や、海生哺乳類や大型魚類のダイナミックな動きに比べると、深海の生物はやや地味ではあるものの、なんとも奇妙な容姿や意外な生態などを収めた貴重な映像は、マニアはもちろん家族やカップルが観てもきっと楽しめると思う。


◇タイトル:深海の世界
◇発売元:NHKエンタープライズ
◇販売元:ポニーキャニオン
◇発売日:2008年12月17日
◇価格:¥4,935(税抜価格¥4,700)
◇商品ページ(Amazon.co.jp):深海の世界 (Blu-ray)

フィードを登録する

前の記事

次の記事

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

過去の記事

月間アーカイブ