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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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BD版『ユニコーンツアー2009 蘇える勤労』速攻レビュー!

2009年7月16日

16年ぶりに活動再開したユニコーンは、今年2月に新アルバム『シャンブル』を発表し、さらに3月から全国ツアー『ユニコーンツアー2009 蘇える勤労』を実施。同ツアーより4月1日横浜アリーナでのライブの模様を収録したDVDが6月17日に発売されたが、今月22日には高画質のBlu-ray Disc版がリリースされる。レーベルのキューンレコードから「先週末に出来上がったばかり」というサンプル盤をお借りできたので、早速レビューをお届けしよう。

本作の大沢昌史監督は、『シャンブル』の初回生産限定盤の特典DVD『バンドやろうぜ!~アルバム“シャンブル”ができるまでPart II』の撮影と編集も担当している。実はこの2つの映像作品をつなぐささやかな“仕掛け”がある。特典DVDでは、終盤でマスタリング作業終了後の打ち上げのシーンが終わった後、エピローグ的な位置でベース担当・EBIがツアーの快感を語り、「ステージに立って、音が出た瞬間に、しびれる」「とろける」「泣くか」とコメントして締めくくっていた。そして今作では、奥田民生が歌うオープニング曲『ひまわり』の「一言に 涙した」という詞の部分で、EBIの目から流れた涙がキラリと光る、というCGによる演出が加えられているのだ。

もっとも、こうした明らかな映像の加工はここだけで、それ以外はシンプルに、丁寧に、ステージ上のメンバーたちの演奏を収めた生のショットを編集でつなぐことに徹している。スタンダードなロックナンバーだけでなく、フォークロックにハードロック、リバプールサウンド風やコミックソング調、シンセポップやテクノポップ――『キミトデカケタ』はPerfumeを意識したという(笑)――といった具合にバラエティー豊かなユニコーンの音楽と、メインボーカルと担当楽器が頻繁に変わるメンバーのパフォーマンスがあくまで主役であり、加えて照明や大型ビジョン、特殊効果(煙火、トーチ、銀テープ)でステージ演出が十分に練り上げられているので、それ以上は映像編集の段階で何も加える必要がないという判断だろう。

収録映像は1920×1080ピクセル、23.976fpsのプログレッシブ走査方式、一般的には「1080/24p」と表記されるスペックで、これはもちろんBlu-rayとしては最高レベルの仕様となる。ただし、実際の映像の解像感はカメラと被写体との距離によって若干の差があり、ステージ前や下手クレーンのカメラでの収録が標準的なハイデフ映像で、客席後方から望遠レンズで収めたものは少々甘め。逆に、ステージ後ろからドラムの川西幸一とキーボードの阿部義晴を至近距離で撮影した絵は極めて精細で、ドラムセットのシンバル類など金属の質感も階調豊かに描かれる。

音声はリニアPCM(48KHz/24bit)のステレオ収録。個々の楽器の音像がほどよく分離し、かつ全体としてひとつにまとまったロックサウンドが豊かな音場を形成する。アリーナクラスの大きな会場で客席に届く音はどうしても低音がふくらんでぼやけがちになるが、このディスクに収められたタイトな演奏は、公演を生で観た人でも改めて聴き直す価値があるはずだ。ステレオ定位は比較的オーソドックスだが、打ち込みのドラム・パーカッション類はかなりきめ細かい配分で振られているのがよく分かる。また、川西が脱退した後の解散前のツアーでサポートメンバーだった古田たかしが参加してツインドラムになる『ヒゲとボイン』『車も電話もないけれど』では、川西のドラムが左チャンネル、古田のドラムが右チャンネルにそれぞれ振られているのも嬉しい。サラウンド音声が収録されていないのが残念だが、全23曲、2時間半強の長尺なため、ディスクの容量的に難しかったのかもしれない。

全編見どころが盛り沢山ではあるが、なかでも特に印象的だったのは、まず『R&R IS NO DEAD』の冒頭でローズピアノに向かって歌い出す阿部を、ステージ後ろの低い位置からカメラでとらえ、スポットライトを「天から降り注ぐ光」に見立てた構図(壮大な詞の世界によく合っている)。また、先述のツインドラムの場面も、奥田を中央に挟んで、左側に川西、右側に古田がシンクロしたアクションでドラムを叩く絵がかっこいい。それに、ロックコンサートの定番ではあるけれど、ステージ背後のビジョンに縦5分割でメンバー全員が並び立つ姿が映し出されるシーンは、この演出がしかるべき曲で効果的に使われていることもあって、感動的なハイライトになっていた。

音楽性とエンターテインメント性が高いレベルで両立しているユニコーンのコンサートを、こうして再び現在形で楽しめるようになったことは、日本のリスナーにとってとても幸せなことだ。彼らの演奏を満喫できるこのブルーレイディスク、収録内容は先行発売されたDVDと同じだが、価格差が700円程度ということもあり、再生環境さえあれば当然こちらがお薦め。ファンのみならず、ロックやJ-POPが好きだがユニコーンのライブは行ったことがないという人にも、彼らの魅力が詰まったこのディスクをぜひ観てほしい。また、将来メジャーデビューを目指す若いアーティストたちにとっても、40過ぎのいい大人が目いっぱい楽しみ、時にはしゃぎながら、素晴らしい演奏を聞かせる姿から多くを学べるのではないだろうか。

[『MOVIE 12/UNICORN TOUR 2009 蘇える勤労(Blu-ray Disc)』製品情報]
unicorn_mv12.jpg約158分/2層MPEG-4/カラー/画面比16:9
発売日:2009/07/22
通常価格:6,980円(税込)
品番:KSXL-4
レーベル:Ki/oon Records
製品ページ(Sony Music Shop)


[関連エントリ]
再結成ユニコーンのシークレットライブと、中小公演チケットの販売支援サイト『e+エンタメ市場』(後)

U2のコンサートを3D映画で体感:『U23D』レビュー

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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