このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

『誰が電気自動車を殺したか?』と、リベンジ続編に登場する『Tesla Roadster』

2009年7月17日

ドキュメンタリー映画『誰が電気自動車を殺したか?』は、米国で公開された2006年の時点で早くも、米General Motors(GM)社が経営破綻する原因の一端を鋭く描き出していた。GM社は1996年に『EV1』をリース発売し、初期ユーザー(トム・ハンクス、メル・ギブソンを含む)に絶賛され、予約リストが5000人を超えるほどの需要があったにもかかわらず、1999年には生産を停止。反対運動を展開するユーザーたちからリース車両を強引に回収し、廃車にしてしまう。何が起きたのか?

ガソリン消費の減少を懸念する石油業界。利幅の大きい内燃機関の車を売りたい自動車業界。そして2大業界から多額の献金を受ける米政府。こうした勢力が法的措置や企業買収などの手段を駆使して圧力をかける。そもそも、メーカーが販売する車の一定割合を無公害車にすることを州法で義務付け、EV1登場の下地を作ったカリフォルニア州も、連邦政府が訴訟に加わったことで腰砕けになる。支援対象を、すでに市販されている電気自動車から、商品化の目処が立たない水素燃料自動車へと乗り換えてしまう。

こうした状況で、EV1は出来が良すぎたせいで親からも憎まれる子のような存在になってしまった。映画の中で、GM社がいかにEV1を売る気がなかったかを如実に示すコマーシャルが紹介される。

灰色の地面に伸びた不吉な人影。薄気味悪いナレーションとバックコーラス。EV1の具体的な特長や仕様を説明することもなく、車体は後部しか写さない。このCMを見てEV1に興味を持ったり、買いたいと思う人はまずいないだろう。

巨大な企業になり既得権益を守ることを優先するせいで、環境の変化に適応できなくなった恐竜、GM社の末期症状がうかがえる。

この映画を今から3年以上前に作っていたのは、クリス・ペイン監督。同監督は現在、続編の『The Revenge of the Electric Car』を製作中で、2011年の米公開を予定している。一度は米国で見捨てられた電気自動車が、経済危機により深刻なダメージを受けた米自動車業界の起死回生策として再浮上してきた。前作のEV1が悲劇のヒロインだったのに対し、次回作で期待のホープになるのは、シリコンバレーに本拠を置く新興企業Tesla Motors社が2008年9月に出荷開始した電気駆動スポーツカー『Tesla Roadster』だ。ペイン監督はTesla Roadsterのオーナーになり、この車と電気自動車の将来を楽観視するようになったという。

Tesla Roadsterについては、ワイアードの翻訳ニュースでも2007年12月2009年3月に取り上げていた。記事によると「4秒で時速97キロメートルに達する加速力を誇り、1回の充電で233キロメートルの走行が可能」「基本価格は9万8000ドル」となっていて、日本語版Wikipediaには「1マイル毎の走行経費は0.02米ドル」「(燃費も)トヨタ・プリウスの2倍優れている」と記載されている。

ただし、英語版Wikipediaには、2009年5月末までに出荷された累計500台のRoadsterのうち、345台が同月にリコールされたという情報もある。なかなか前途多難のようだ。

1000万円近い価格も普及の障害になりそうだが、同社が2011年に発売を予定しているセダンタイプの『Model S』では5万ドル、2012年にリリース予定の『BlueStar』(開発コード名)では3万ドル前後にまで下がる見込みだという(参考)。

『誰が電気自動車を殺したか?』は、米ドキュメンタリー映画の質の高さがよくわかる作品で、続編にも大いに期待がかかる。日本では大手企業を名指しで告発するような映画はまず上映されないし、そもそも製作資金が集まらないだろう。単純比較はできないが、米国は多くの問題を抱える一方で、言論の自由が確保されている点は率直にうらやましく思う。

本作のDVDはソニー・ピクチャーズから昨年発売され、TSUTAYAなどでレンタルもできるようだ。

また、この映画とは直接関係ないものの、映画評論家の町山智浩氏がパーソナリティーを務める『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』も、良質のドキュメンタリー映画を毎週紹介している。TOKYO MXの番組なので視聴エリアが限られるが、関東に住んでいるけど知らなかったという方はぜひ。面白くて勉強になります。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

過去の記事

月間アーカイブ