細田守監督の新作アニメ映画『サマーウォーズ』、「時かけ」超える面白さ!
2009年7月14日
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
パソコンや携帯、ゲーム端末から簡単にアクセスできるネット上の仮想都市「OZ」(オズ)が世界中に普及し、アバターを使って電子決済や公共サービス、バーチャルスポーツからギャンブルまで利用できるようになった「現在」。並外れた数学の才能に恵まれながら人付き合いは苦手な健二(声:神木隆之介)は、高校2年の夏休みをOZの保守点検のバイトで過ごしていたが、憧れの夏希先輩(桜庭ななみ)に頼まれて長野の田舎に同行する。夏希の曾祖母にあたる陣内家(じんのうちけ)の16代目当主・陣内栄(富司純子)の90歳の誕生日を祝うため、30人近い親戚が揃うなか、夏希のフィアンセを装うよう頼まれた健二は、はじめは当惑しながらも大家族で食卓を囲む雰囲気に馴染んでいく。
だがその夜、知らない送り主からのメールに書かれていた数学クイズを解いて返信したことが災いし、健二がOZで使っているアバターが何者かに乗っ取られ、この「偽ケンジ」がOZを混乱に陥れる。濡れ衣を着せられ指名手配された健二は逮捕されてしまう。
数学クイズのメール送信と一連の騒動は、謎のアバター「ラブマシーン」の仕業だった。健二を含む多数のOZ利用者に暗号解析を手伝わせることで、OZの心臓部である管理棟のパスワードを入手して侵入、4億人以上のアカウントを奪ったほか、現実世界の交通システムや通信ネットワークなどにも大混乱をもたらす。ラブマシーンはさらに暴走し、世界崩壊へのカウントダウンが始まる。これに立ち向かう「日本の大家族」は、果たして世界を救うことができるのか――。
前作『時をかける少女』が高く評価され国内外で映画・アニメ賞23冠を獲得した細田守監督の最新作は、最新のハイテクやSF的な設定に、ラブコメと成長物語の要素も添え、さらに普遍的な家族の絆と日本の伝統的な価値観・美意識を巧みに織り交ぜた娯楽アクション大作だ。主人公の高校生カップルが活躍するのはもちろん、各自の職業を活かして2人をバックアップする40代中心の親の世代、13歳のゲームの達人、そして90歳のおばあちゃんまで、さまざまな年齢のキャラクターにそれぞれ見せ場があり、前作よりもさらに幅広い観客層が共感し楽しめることだろう。
細田監督とスタッフがロサンゼルス郊外を移動中、世界の広さを実感しながら「親戚」について交わした何気ない会話から、この映画企画が始まったという。とすれば、創作の過程で「外国から見た“日本的なるもの”」が意識されたのも自然な成り行きだろう。映画ファンならすぐに気がつく引用についても、『スター・ウォーズ』のライトセーバーによるチャンバラは黒澤明の時代劇映画から、仮想世界における格闘ゲーム風の戦いと太極拳のトレーニングから連想される『マトリックス』は押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』から、それぞれ影響を受けたことが広く知られている。
海外に翻訳され人気の高い漫画/アニメからの引用もうかがえる。アバター同士の空中戦は荒木飛呂彦作『ジョジョの奇妙な冒険』第3部のスタープラチナ対ザ・ワールドのスタンド対決を想起させるし(カードゲームによる両陣営の「命」のやり取りも、それぞれに共通する要素)、ウサギをモデルにした正義のキャラや、変形し巨大化する魔王的なキャラは、皆川亮二作『ARMS』(アームズ)を思わせる。ある意味アニメと漫画の先祖とも言える、絵画デザインの単純化を究めた花札が作品中で重要なアイテムになっているのも偶然ではないはずだ(花札を知らないという若い観客は、「こいこい」のルールをざっと勉強しておくと本作の良い予習になる)。
さらには、OZの守り神で「ジョンとヨーコ」と名付けられたクジラのキャラは、ジョン・レノンの2人目の妻となって世界で最も有名な日本人のひとりになったオノ・ヨーコと、捕鯨という日本と切り離せない問題を海外の観客に連想させるだろうし、村上隆の『SUPERFLAT MONOGRAM』(ルイ・ヴィトンの店頭プロモーション用短編アニメ)を監督した細田監督ならではの仮想空間のモニュメントもまた、日本人が感じる以上に日本的なイメージを外国人に与えるものだろう。
こうした比較的最近の日本のサブカル的な要素を配する一方で、長野県の緑豊かな山に囲まれた古風な武家屋敷や、古き良き時代を思わせる大家族のつながりといった伝統的な美意識と価値観を大切にしていることも見逃せない。高校野球の県大会のテレビ中継や、庭の朝顔が花開く様子、セミやバッタの鳴き声など、夏の風物詩も雰囲気を盛り上げる。
こうした昔ながらの日本の風景を舞台に、『ニンテンドーDS』や『iPhone』、NEC製『SX-9/E』(『地球シミュレータシステム』を構成するスパコン)、マツダ『RX-7』、ブロードバンド衛星通信回線を確保する陸上自衛隊車両などオタク心をくすぐる要素がちりばめられ、仮想空間、人工知能、小惑星探査機『あらわし』(実在する探査機『はやぶさ』がモデル)をめぐってストーリーが展開する。括弧付きの「現在」ではあるが、伝統とハイテクが不思議なバランスで調和するこの作品世界こそ、まさに今の日本の姿であるように思う。
忘れてならないのは、戦いの前線で活躍する男性陣とヒロインの後方で、女性たちがせっせと料理を作り、時間がなくても男たちと一緒に食卓を囲み、騒動の後で散らかった部屋を掃除する様子が丁寧に描かれていることだ。彼女たちに支えられ共に食事をとることで、男たちは心身ともに充電でき、次の戦いに臨めるのだろう。大異変が起きているにもかかわらず、長男が出場している高校野球の試合をテレビ越しに熱心に応援している、メタボ体型の中年おばさん・陣内由美(『時をかける少女』でヒロインの声を演じた仲里依紗が担当)は、地味ながら実はこの映画の「裏ヒロイン」と見た。世間の騒動に動じることなく、泰然と日常のなすべきことをなし、身内を支えることを忘れない。そうした女性の真の強さが支えてくれるからこそ、家族が成り立っていて、社会が滞りなく動いている――そんなメッセージが込められているように感じた。
というわけで、年齢性別を問わずそれぞれ容易に感情移入できるキャラがいて、アニメファンもそれ以外の映画好きも楽しめる要素が盛り沢山で、爽快感いっぱいの「夏の戦い」を体験できる本作、ぜひ劇場で鑑賞していただけたらと思う。さらには前作同様、本作が海外でも上映の機会に恵まれ、「日本の良さ」を知ってもらうのに貢献してくれることを願っている。
(角川アニメチャンネルがYouTubeで公開している本作の劇場用予告。同チャンネルではほかにも、細田監督のメッセージや製作発表会見などの関連動画が視聴できる。)
[公開情報]
『サマーウォーズ』
8月1日(土)新宿バルト9、池袋HUMAXシネマズ、梅田ブルク7他全国ロードショー
監督:細田守 脚本:奥寺佐渡子 キャラクターデザイン:貞本義行
音楽:松本晃彦 主題歌:山下達郎「僕らの夏の夢」(ワーナー・ミュージック・ジャパン)
キャスト:神木隆之介、桜庭ななみ、谷村美月、仲里依紗、富司純子ほか
アニメーション制作:マッドハウス
日本テレビ放送網・マッドハウス提携作品
製作:角川書店、D.N.ドリームパートナーズ、ワーナー・ブラザース映画、読売テレビ放送、バップ
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:http://s-wars.jp/
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