再結成ユニコーンのシークレットライブと、中小公演チケットの販売支援サイト『e+エンタメ市場』(後)
2009年3月 3日
2時間半の「プレゼント」
午後5時半から少し押して、ユニコーンが16年ぶりのライブを始める。長く待っていたファンにとって、5人が揃って演奏する姿を目の前で見せてくれるというのは、何よりの贈り物だ。演奏曲の配分は、新アルバムの『シャンブル』からと、解散前の代表曲からとで、だいたい半分ずつ。奥田は二十代だったユニコーン時代からソロ活動の時期を通じて、老成した人間観を詞に織り込み独特のペーソスとユーモアを醸し出していたが、43歳になった現在の彼が歌う以前の曲には年齢を重ねた分味わいが増している。そして、旧曲と新曲の間にほとんど違和感がないのも嬉しい驚きで、今回の活動再開が決して同窓会的なものではなく、以前と変わらぬクオリティー、いやグレードアップしているのではないかとさえ思わせる。メインボーカルの奥田以外にも、各メンバーが自作でリードボーカルを1曲以上取る(担当楽器も頻繁に交換する)ので、それぞれの音楽的嗜好がよく分かるし、特にお気に入りのメンバーがいるファンにはたまらないだろう。
本ツアーのチケットを予約したファンの楽しみをスポイルしては申し訳ないので、各曲についての詳しい言及は控えるが、敢えて取り上げたいのは、新アルバムからの先行シングル『WAO!』だ。これは作詞・作曲の阿部義晴がボーカルも担当していて、なによりまず楽曲の出来が素晴らしい。イントロから力強い8ビートのドラム(ちょっとザ・ナックの『マイ・シャローナ』風)と奥田が叩くカウベルがリズムを引っ張るキーAのシンプルでコミカルなロックパート(ところどころ引っかかるような歌い回しはザ・フーの『マイ・ジェネレイション』を思わせる)から、Cに転調してキャッチーなメロディーと美しいコーラスを聴かせるサビへの展開は鮮やかだ(『アクエリアス』のテレビCMで流れているので、ファンでなくとも耳にしている人も多いだろう)。特にサビ二巡目の「片手で なぞれば」の部分、コード進行としてはVI7→II7(Am7→D7)という割とよく使われるパターンだが、主旋律とコーラスのからみが絶品。ギターの手島いさむが16ビートの高速タッピングで弾く裏メロ(ナイト・レンジャー風?)もいいアクセントになっていて、ステージ上方のサブの映像パネルで「GO! テッシー GO!」とテロップが流れるのも笑えた。
ベース担当のEBIは、オシャレな楽曲と甘いルックス、そして歌の甘い音程(笑)も含むすべての要素がアイドル的なたたずまいを構成しており、それでいて男性から見ても嫌味に映らないという、非常に稀有なキャラクターだ。ドラムの川西は、新アルバム収録の自作曲『キミトデカケタ』のボーカルで高音部がギリギリな感じになっていたが、それも歌の雰囲気に合っていて観客に受けていたし、演奏のパフォーマンスは彼が一番カッコいいと思う。
ライブ映像と制作済みの素材を巧みにミックスさせた映像パネルの活用、年齢を考慮した「長めのインターバル」(奥田談)でのゆるいMCと絶妙の掛け合い、本編・アンコールでの衣装替えなど、演奏以外にも楽しめる要素が盛り沢山の2時間半だった。観客たちは大半の曲で踊り、手を振り、一緒に歌っていたが、『すばらしい日々』ではじっくりと歌詞を味わい、5人が演奏する光景を目に焼きつけるかのように、ほとんど身じろぎもせずステージを注視している様子が印象的だった。
おわりに
シークレットライブに招待されたアーティストたちは、鮮やかな復活を遂げたユニコーンのステージを観て大いに刺激を受け、自分たちの公演の糧にすることだろう。e+のWEBオープンシステムとエンタメ市場はまだスタートしたばかりで、今後は登録アーティストを対象にしたイベントを主催するなど、さまざまな展開を計画しているという。ウェブ技術を活用してアーティストの活動を効果的に応援すると同時に、オーディエンスに新しい才能と出会う機会を提供する人気のサービスに成長することを、期待しつつ見守りたい。
ユニコーンの本公演はおそらくDVD化されるだろうが、ぜひBlu-ray版でもリリースしてほしい(すでに『シャンブル』と3月18日発売の『I LOVE UNICORN ~FAN BEST~』で通常版のほかに高音質仕様の「Blu-spec CD」版が用意されているので、ライブのBlu-ray版も実現の可能性が高そうだ)。それから、ステージ上で流された映像を観ていて思ったのだけど、ユニコーン主演の映画もアリでは? ビートルズ主演作みたいに演奏シーンがたくさん盛り込まれていて、『ブルース・ブラザース』みたいにアクションもあって、持ち前のゆるいキャラとユーモアで観客を楽しませてくれるような映画、誰か撮ってくれないかなあ……(案外すでに企画が進んでたりして)。
[関連サイト]
・e+WEBオープンシステム
・e+エンタメ市場
・ユニコーン 公式サイト
・キューンレコード
[参考サイト]
・Wikipedia ユニコーン
高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」
過去の記事
- 最後に、オススメの映画を何本か2011年5月31日
- 放射性廃棄物を巡る問いかけと印象的な映像:『100,000年後の安全』2011年4月15日
- マイケル・ムーアに原発問題を映画化してほしい2011年4月11日
- 震災と映画業界:公開延期と、「自粛解除」の兆し2011年3月29日
- 「SF系」、地味に現実へ浸食中2011年2月28日