このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

第24回 地下トンネルの使い方 ~松下エコシステムズ探訪記(1)~

2007年末に平田爲茂社長の記者会見を聞いて以来、松下グループを代表する環境系企業として、松下エコシステムズが、どんな取り組みを“現場”でしているのか想像を膨らませていたのだが、ついに先日、同社の春日井工場を取材するチャンスに恵まれた。

名古屋駅から中央線に乗っておよそ30分。愛知県春日井市に同社本社工場はある。ここで主力商品である換気扇、送風機、空調機器などが開発・製造されているのだ。実は取材前、この敷地内には「地下トンネル」が存在するとうかがっていた。同社の敷地は、第二次世界大戦まで工廠(軍需工場)だったため、戦時中に物品の搬送用として地下トンネルが作られたらしいのだ。そして戦後60年たったいまも、この地下トンネルはある用途に使われているという。これはぜひ拝見したい!! …というわけで、さっそく同社製造部門の川久保清さんと同経営企画グループ広報担当の三根佳奈子さんに地下トンネルを案内していただいた。

敷地内の通路脇にある地下トンネル入り口。

地下トンネルの入り口は、敷地内の通路の脇にあった。屋根で覆われている上に階段までついていてちょっと神聖な感じすら漂う。ドアの鍵を開けて中に入ると、地下へと続くはしごが下に伸びていた。

地下トンネルに通じるはしご。地面は見えない。

意を決してはしごを降りる。5メートルほどで地下に着くと、ひんやりとした空気が頬をなでる。まるで少年時代に戻って探険している気分だ。トンネル内は蛍光灯が点いていて、比較的明るい。解説してくれる川久保さんや自分たちの声が反響する。先に進むと、左方向(方角的には北側のようだ)に一直線に伸びている長い通路に突き当たった(川久保さんによると、戦時中は横に走る通路もあり十字型だったらしいが、すでに埋められているそうだ)。そして通路(=地下トンネル)には、0M、50M、100M、200Mと距離を示す標識が整然と並んでいる。閉塞感の分、200Mでも案外近くに見えるが、ずいぶんと長い地下トンネルなのだ。

「以前は、この場所で大型の換気扇やジェットファンなど開発中の新商品の実験を行っていたこともあります。ここなら距離もあるし、温度や湿度が年間を通じてほぼ一定ですし、風などの影響も受けません。まさにうってつけの実験場だったんです」(川久保さん)

全長200メートル。壁のシミが歴史を感じさせる。

現在は、精度の高い実験設備も導入されているため、ここで実験が行われることはもうないそうだ。しかし、この地下トンネルが、換気扇の実験場として使われるなんて、戦時中にここをつくった人たちは想像もしなかったに違いない。

そして今、この地下トンネルは、新たな役割を担っている。トンネルの真上に建っている技術棟の換気溝として利用されているのだ。夏も冬も常時18.5度に温度が保たれているため、この空気を地上の技術棟に送り込み、自然のエアコンとして利用されているのである! 200Mの看板の地点に辿り着き、上を見上げると技術棟へ抜ける換気口が確認できた。

技術棟の床に設置された通風口。この床の下に地下トンネルがある。

かつては、無風というメリットを利用して実験場に、そして今は風の通り道としてビルの換気に地下トンネルを利用する。しかも、この換気システムには電気が使われていない。ダイナミックでありながら理にかなったこの"リユース"は、まさに"エコなシステム"である。しかも、歴史的な建造物の保存にも一役かっている。なんだかカッコいいではないか。建物全体や建物が建つ周りの環境も含めて、空気の流れを考える。そしてエコな空調システムを作ってしまう。そんな技は、京都駅ビルや六本木ミッドタウンにも活かされているのだそうだ! 空気、水、土をきれいにする製品を扱う松下エコシステムズならではの発想に触れ、「なるほど、これがエコアイディアなのだ」と合点した。ここ春日井工場では、楽しくカッコいいエコアイディアにまだまだ出会えそうだ。(続く)

今日のエコの芽
柔軟な発想で、既存の設備を再利用する
フィードを登録する

前の記事

次の記事

それは現場で起きている。

プロフィール

小林ミノル

スタッフライター。1975年大晦日生まれ。30歳を過ぎ、エコの大切さに遅まきながら気づきはじめる。取材を通して、ニッポン企業の“縁の下の力持ち的”な環境対策を世に広めたいと考えている。