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最終回 マチュピチュと企業の21世紀的な環境活動

4月下旬、2週間ほど南米のペルーとアルゼンチンを旅行した。そのため、E編集長にこの連載のピンチヒッターをお願いすることとなってしまった(E編集長、ありがとうございます!)。

ペルーでは、首都のリマとクスコ、マチュピチュを、アルゼンチンではブエノスアイレスとイグアスの滝を回ったのだが、そのなかでもやはり”空中都市”マチュピチュは、「よくもまあこんな山の中に…」とタメ息をつくしかない絶景だった。

1911年にアメリカの考古学者ハイラム・ビンガムによって発見されたマチュピチュは、インカ皇帝の別荘地とも神殿ともいわれている。

麓のマチュピチュ村からバスに乗って急斜面を登って行き、入場ゲートをくぐると、石で組み上げられた遺跡が5km2に渡って広がっている。そして雲が遺跡と同じ高さの山にかかり、遥か下方には先ほど出発したマチュピチュ村やウルバンバ川が小さく見える。高度2400メートルの山の尾根であるここに、数百年前のインカ人は、石垣を作り、作物を栽培し、暮らしていたのだ。

観光地としてのマチュピチュの人気はとても高く、世界各国から訪れた昨年の観光客数はなんと50万人を超えるそうだ。もちろん自分たちも含め日本人観光客の姿も多かった。ただあまりにも人気が高いため、環境や遺跡への影響も指摘されている。観光客の靴のせいで、石が削れてしまうなどの問題も報じられていて、すでにマチュピチュまで続くトレッキングコースとして有名なインカ道などは入場規制が導入されている。遺跡内でも、観光客が遺跡に登ったりしないか監視をする人や、遺跡を整備する人たちが大勢働いていた。

マチュピチュの遺跡としての特異さや、それを保存するために費やされている労力の大きさは、やはりこうした「現場」に立たないとわからなかっただろう。そして、その場に立って、マチュピチュのような遺跡を、過去からの資産・遺産として、次の世代に引き継ぐことが自分たちの世代の責務なのだと感じた。と同時に、地球の裏側からこうして自分が観光のために訪れることそのものも、ある意味、この遺跡にとって負荷をかけていることだろうとも思う。このあたりは、難しい問題だ。現代だからこそ、ペルーまで観光に訪れることができて、その素晴らしさを痛感したわけだが、誰もが気軽に訪れることができる場所になったことで、その存在が危うくなっている…。多くの人が物質的に豊かになったいっぽうで、地球環境が危機にさらされてきている、という環境問題にも通じるかもしれない。

続いて訪れたイグアスの滝の国立公園内(アルゼンチン側)の移動手段は、鉄道だった。数年前にCO2の排出量を減らすため、バスから変更されたのだという。

今回、この連載を通じて取材させていただいたのは、人々の生活を便利にする製品を作り続けているモノづくり企業が、今、全力で環境問題の解決に向けて、努力している様だった。その熱意や細部へのこだわりは、自分の想像をはるかに超えていた。たとえば、松下エコテクノロジーセンターや松下エコシステムズの工場では、技術力を商品開発に活かすのみならず、洗濯機のドラム部分をテーブルに再利用したり、地下トンネルを空調設備に転用するなど、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の精神が工場のインフラ整備にまで徹底されていた。

私たちは、環境問題の存在を知ったからといって、なかなか便利な生活を手放そうとしない。そこで、今や環境問題の最前線は、モノづくりを通じて、環境問題の解決に貢献しようという「企業」が、大きな役割を担っている、ということだろう。正直、連載が始まる前まではゴミの分別は面倒くさいと思っていたし、エアコンや電気もつけっぱなしにしてしまうことも多かった。しかし、現場の人たちがどれほど努力をしながら環境に配慮した製品を開発しているかを目の当たりにし、大げさかもしれないが、自分が使っている製品を開発した人たちの情熱に応えた使い方をしなきゃ、という気持ちが芽生えた。また、取材を通じての多くの出会いがなかったら、ペルーの遺跡で、その行く末など考えなかったかもしれない。長い歴史の中にいる自分と、文明の便利さを享受する自分。そのバランスをとりながら、これからどう行動して行くか…。取材させていただいた皆さんのお顔を思い起こしながら、これからも少しずつ環境問題のことを考えていきたい。この取材は、その大きなきっかけを与えてくれた。

取材に応じていただいた方々、読者の皆さん、どうもありがとうございました。

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プロフィール

小林ミノル

スタッフライター。1975年大晦日生まれ。30歳を過ぎ、エコの大切さに遅まきながら気づきはじめる。取材を通して、ニッポン企業の“縁の下の力持ち的”な環境対策を世に広めたいと考えている。