このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

第29回 平田為茂松下エコシステムズ社長インタビュー ~松下エコシステムズ探訪記(6)~

松下エコシステムズ春日井工場シリーズ。取材見学の最後に、平田為茂同社社長にお話をうかがった。環境技術立社を掲げる同社では、どのような「エコアイディア」戦略が練られているのだろうか。

──これまで神奈川県藤沢市と大阪府大阪市にあった工場設備を2007年度から春日井工場に集約された狙いはどこにあるのでしょうか?

平田為茂松下エコシステムズ株式会社代表取締役社長。1946年生まれ。1969年松下電器産業入社。公共システム営業部門、システム営業本部長、取締役を歴任。2002年より、松下精工株式会社(現松下エコシステムズ株式会社)代表取締役社長に就任。

平田日本のモノづくりのあり方が変わってきています。日本で開発すべき技術がより高付加価値の技術に移りつつあるのです。我が社としても、分散していた工場を一ヶ所にまとめ、技術者同士の横の連絡を密にしながら研究開発能力を高めようということで、集約化を決断しました。また、工場をまとめるに当たって、数々のクリーンファクトリー化、省エネ化にも取り組んでいます。

──松下エコシステムズでは、工場の集約化とともに、グローバル化も進めていますが、具体的な方向性を教えていただけないでしょうか。

平田空調というのは生活に密着した分野なので、生活習慣や風土に根ざした商品を開発しなければなりません。たとえば、住宅の高気密高断熱化が進み、フレッシュエアを室内にどう取り込むかが近々の課題ですが、その土地土地によって環境が大きく異なっています。モスクワでは冬の気温がマイナス30度にも達し、外気と室内の温度差は50度前後になります。それをそのまま換気するとなると、外から入って来た空気を温め直すのに、ものすごいエネルギーを使わなくてはなりません。エネルギーの無駄を避けるためには、効率的な熱交換システムをまず開発すべき、ということになります。一方中国では、黄砂などをどのようにフィルタリングするかが課題となります。ですから、ある地域で生産したものは、その地域で利用・消費していただくという「地産地消」の精神で、販売する国や地域に合わせた商品開発をできるだけ現地の工場で行おうとしています。

──環境技術立社としての御社の強みはどういったところにありますか?

平田弊社は、扇風機・換気扇を始めとする空調機器メーカーとして出発しました。換気扇は2006年に国内生産台数1億台を突破しています。さらに家庭用の空調機器のみならず、トンネルの粉塵処理システムなど大規模プロジェクトの換気システムの設計開発にも携わっています。一方、グループ企業の松下環境エンジニアリングでは、空気、水、土壌の浄化事業やクリーンファクトリー事業を進めています。工場内の空調をはじめ、たとえば半導体製造時の純水精製、工場排水の浄化・リサイクルのシステム、工場跡地の土壌浄化など、モノづくりの現場と切っても切れない設備やシステムを提供しています。我々には、長い歴史の中で培った浄化技術と松下グループ内の連携による幅広いエンジニアリングノウハウがあります。それを活かした環境関連事業を実現できるのが強みですね。

1913年に同社から発売された日本初の量産型交流扇風機「タイフーン」。

──今後はどのような事業展開をお考えですか?

平田これはまだ夢の段階ですが、中小規模の工場跡地の浄化事業を安価な価格で提供したいと考えています。これまで土の浄化というと敷地の土をすべて入れ替える方法が主流でした。しかし、それでは多額の費用がかかってしまいます。我々が開発したアムテクリーンという微生物活性材を用いたバイオレメディエーション法(微生物による土壌浄化技術)を利用すれば、時間は少しかかりますが、はるかにコストを低く抑えられます。

──松下グループの環境事業において、御社はどのような役割を担っているのでしょうか?

平田松下グループは、日本の総合家電メーカーの先陣を切って環境対策を推進しようとしています。松下グループの環境への取り組みは「Panasonic」としての志だと思っています。そのなかで、空調や水質・土壌浄化といった環境関連技術を保有している我々松下エコシステムズグループは、各ご家庭により環境に配慮した製品をお届けする一方で、工場のクリーンファクトリー化や空気・水質・土壌の浄化事業をとおして、街や社会のよりよい環境づくりにもさらに貢献していきたいですね。松下グループ全体の環境対策・環境事業にも、縁の下の力持ちとして、しっかりとその役割を果たしていくつもりです。

~取材を終えて~
国産初の量産型扇風機の開発からスタートした同社は、家庭内空調機器とともに、工場内やビルの空調システム、大型トンネルの粉塵処理システム、水質・土壌の浄化など、さまざまな分野の環境系事業を手がけている。平田社長のお話をうかがっていて、松下エコシステムズの“環境技術立社”としての強みは、その歴史のなかで培われた技術をさまざまなアイディアによって別のジャンルの製品に応用したり、次の世代の技術・製品に活用していくたゆまぬ向上と探求の賜物なのではないかと感じた。そして、そうした探究心や哲学は、自らの現場=工場の設備にも、しっかりと反映されているように思う。今回のシリーズで紹介してきたように、地下トンネル、技術棟、新工場、気調ハウス…と、いたるところに「エコアイディア」が光る松下エコシステムズ・春日井工場の訪問体験は、まさに驚きの連続だった。
今日のエコの芽
技術とアイディアを活かしてエコにつなげる
フィードを登録する

前の記事

次の記事

それは現場で起きている。

プロフィール

小林ミノル

スタッフライター。1975年大晦日生まれ。30歳を過ぎ、エコの大切さに遅まきながら気づきはじめる。取材を通して、ニッポン企業の“縁の下の力持ち的”な環境対策を世に広めたいと考えている。