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第17回 生水の郷エコツアー参加レポート 1/2

滋賀県高島市新旭町。琵琶湖の西岸に位置するこの町は、日本一大きな湖の沿岸という土地柄、豊富な湧き水がそこに住む人々の生活基盤であり続けた。とくに町内北部の針江地区は、この湧き水を「生水(しょうず)」と呼び、飲料水として利用するのみならず、江戸時代から続く“川端(かわば)”という生活用水システムを守ってきたことで有名だ。この川端は、用水路を自宅まで引いて貯水池をつくり、炊事洗濯などの水仕事すべてをそこで行うというものだ。しかも、各家の川端には、数匹の鯉や鮒が飼われていて、食器や鍋についた食べ残しや切り落とした野菜くずなどをついばんで掃除してくれるのである。他の地区にも高度経済成長期前までは川端があったのだが、経済的な発展とともに消えてしまい、地域として利用し続けているのはこの地区だけになってしまったそうだ。

同地区では、2004年から各家の川端を見学するエコツアーを開催している。そこで自分も、パナソニックセンター大阪への取材の帰りがてら、この「生水の郷ツアー」に参加してみた。

冬晴れとなったツアー当日の午後1時、集合場所に指定されている針江公民館前に到着すると、すぐ目の前をきれいに整備された川が流れていた。看板を見ると針江大川と書かれている。陽光がきらきらと水面に反射し、川の中央では清流にしか生育しない梅花藻がゆらゆらとそよいでいた。川に沿って流れてくるピリッとした空気が気持ちいい。

針江地区の中心部を流れる針江大川。水も澄んでいるが、川自体もキレイに整備されている

公園脇の水路に設置されていた水車。残念ながら、季節的な水位の低下のせいで回ってはいなかった

しばらくそこで待っていると、針江水の郷委員会の福田千代子さんが現れた。この日のガイドを担当していただく方だ。平日ということもあり、滋賀県内から来た女性の方とともに、2人でのツアー開催となった。

この「生水の郷」ツアーは、約1km2ある針江地区をおよそ2時間かけてぐるっと一周しながら、川端のあるお宅や、お寺や地元の商店などを見学して歩くというものだ。福田さんによれば、区内にはおよそ107の川端が存在し、それぞれに個性があるのだという。

最初にうかがった川沿いのお宅の川端は、「外川端」と呼ばれるアウトドアタイプのものだった。家の庭先に屋根付きの小屋があり、そのなかに川端がある。中をのぞいてみると、鍋や笊が整頓して置かれていた。よくみると歯ブラシもある。台所と洗面所の機能がすべてここでまかなわれているのだ。そして池の中には鯉が数匹のんびりと泳いでいた。

外川端の外観。庭の入り口にあり、すぐ脇の用水路から湧き水が出ている。左側がガイドをしてくれた生水の郷委員会の福田さん

川端の内部。洗面器や洗剤、タワシ、スポンジのほか、歯ブラシも置かれている。池の中では鯉が数匹泳いでいた

地元では、地下水が湧き出る場所を「元池」、野菜や顔などを洗う場所を「坪池」、食器などを洗浄するところを「端池」と呼んでいる。上の写真でいうと、右側の正方形に囲まれた部分が坪池で、その回りが端池だ。湧き水が出る元池は、ちょうど川端の裏側にある。

続いて二軒目のお宅にうかがった。こちらは、「内川端」である。勝手口から覗かせていただくと、漬け物の樽や野菜が置かれた縦長の土間の脇に川端があった。川端には鍋がぷかぷかと浮かんでいて、ご飯粒を鯉がついばんでいる。

勝手口脇にある内川端。奥には漬け物桶や鍋もあり、川端が台所と一帯となっていることがよくわかる

大きな鯉が鍋の中のご飯粒をついばんでいた。丸いところが坪池でその回りが端池だ

人間と鯉の持ちつ持たれつのこの関係。なにかに似ていると思ったのだが、ホンソメワケベラと、彼らに掃除をしてもらう大型の魚の関係に近いのかもしれない。補食する側と補食される側にもなりうる関係なのにもかかわらず、お互いの役割を果たしながらWin-Winの関係で共生している。川端を実際に見て、人もこうやって他の生物と共に生きているのだなあとしみじみ納得してしまった。

今日のエコの芽
魚と人のWin-Win関係を見た!
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それは現場で起きている。

プロフィール

小林ミノル

スタッフライター。1975年大晦日生まれ。30歳を過ぎ、エコの大切さに遅まきながら気づきはじめる。取材を通して、ニッポン企業の“縁の下の力持ち的”な環境対策を世に広めたいと考えている。