第18回 針江生水の郷エコツアー参加レポート 2/2
我々ツアー一行(といっても3人だけど)は、それから川沿いに下流(琵琶湖に近づいていくことになる)に向かって歩き、その他の個性的な川端や古くからある曹洞宗のお寺、100年間生水(しょうず)を使って豆腐をつくっている豆腐屋さん、敷地内の湧き水を通りがかりの人にも自由に飲めるようにしてくれているお宅などを見て回った。いまはもう使われていない共同の川端というものもあった。
ツアーは、琵琶湖近くの川端を拝見した後、また地区の中心に戻って、川端生活を体験できる宿泊施設を見学したところで無事終了した。すでに時計は午後3時を過ぎ、我々の影も長くなりはじめている。公民館の脇の公園では、学校帰りの地元の小学生たちがブランコに乗って遊んでいた。
このツアーは、いまから4年前の2004年から開催されている。きっかけは、その年の1月にNHKの特集番組でこの川端が大々的に紹介されたことだった。番組は反響を呼び、多くの人が見学に訪れるようになる。しかし、その一方で問題も発生した。無断で川端を見学に来る人が増えてしまったのだ。訪問者にとっては単なる見学のつもりでも、地域の人にとってみれば、各家庭の生活の場である川端を勝手にのぞかれることになる。今回のツアー中にも、勝手な見学を注意する張り紙がいくつか貼られていた。
そこで、福田さんたち地元の有志が中心となって「生水の郷委員会」を立ち上げ、エコツアーを開催し、訪問者を制限することにしたのだという。その一方で、ガイドを地元の人たちから募って受け入れ態勢を整えたり、梅花藻を植え、年4回の掃除をおこなうなど、川や用水路の整備を続けたりもした。また、実際の生活を体験できるように宿泊施設を整える一方で、地域の商工観光課や教育委員会と協力して、川端文化を外部に発信するようにした。その結果、ツアー参加者は年々増え、去年だけで、なんと7000名もの訪問者がツアーを通じて針江地区を訪れたという。小中学校からの団体客も多く、100人以上の場合は、地元の老人会の方がボランティアでガイドをおこなっているそうだ。さらに、国内のメディアだけでなく、韓国、中国、オーストラリア、ドイツのメディアからも取材を受け、昨年には、当時の安倍首相が見学に訪れたそうだ。
「ツアー開始当初は、こんなに注目されるとは思っていませんでした。私たちにとっては、水を使うことが当たり前だったんです。でもツアーを通じて、川端文化を紹介することで、私たちとしても川端の大切さを再確認ができたと思います。また、ツアーを通じて地域全体が元気になりましたね。老人会のみなさんも協力していただいていますし、子供たちからも元気な挨拶が返ってくるようになりました」(生水の郷委員会の福田さん)
加えて、ツアーの参加費は1人1000円とそれほど高くはないものの、7000名ものツアー客が訪れるとなると、地域経済にも多大な貢献を果たすことになる。これらの収益金は、地域通貨などによって地元の人々にも還元されているそうだ。地域の財産を紹介するこのツアーが、一部の人たちだけではなく、地域全体で運営、応援されていることがうかがえるエピソードだ。
今回、この「生水の郷ツアー」に参加して感じたのは、地域が川端というシステムを通じてずっとつながってきたということだ。福田さんによると、地区には、地下24m付近に3つの水脈があり、この水脈に沿って井戸を掘ると湧き水が湧き出てくるそうだ。そして、古くからの家は、この水脈に沿って並んでいる。井戸を掘るにもルールがあり、近隣の湧き水が涸れてしまわないように、周囲の承認を取って計画的に掘ってきたのだという。そのため、すべての家に湧き水の出る元池があるわけではない。上流から下流に坪池の水を流すこともある。ということは、もし上流の家が川端をきれいに使わなければ、下流の家で使う水が汚れてしまうことになる。現在我々が各家庭で生活用水を使うとき、使用代金を「公共料金」と呼びつつも、それが公共のものであるとはっきり意識することはめったにない。しかし、針江地区では、今も昔も水は各家庭のものであると同時に共同のものだった。この地域の人々は、日々用水の公共性を意識しながら暮らしてきたのだ。用水を通じた共同体の連帯感が、江戸時代からここにはずっと残っているのである。この、近隣の人たちに迷惑をかけないように気を配るという意識こそ、エコの原型なのではないだろうか?
エコツアーなんて、単なる参加者の自己満足じゃないかという批判もある。しかし、他の旅行と同じように、あるいはそれ以上に発見したり気付かされることもある。自分自身、このツアーに参加して、川端文化に素直に驚くと同時に、普段なにげなく使いがちな排水処理やゴミ回収などの公共システムが、自分の家を出てからどんな流れを辿って処理されるのか想像力を働かせながら、いわゆる「3R」をより心がけて生活しようと、改めて思わされたのだ。
- 使い終わった先への想像力を働かせる
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それは現場で起きている。
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