立って乗る画期的自転車DreamSlide
2010年10月12日
(これまでの 大谷和利の「General Gadgets」はこちら)
言うなれば人力のセグウェイ
今回は工作ネタではないのだが、ぜひとも紹介しておきたい「乗って楽しめるガジェット」を入手したので、こちらをテーマにお届けする。それは、数年前からプロトタイプのテスト風景などがYouTubeで公開され、一部で話題となっていた立ち漕ぎ専用自転車、DreamSlideだ。
メーカーの本拠地があるフランスでは、いつの間にか市販バージョンが発表されていたのだが知らずにおり、まだ日本に代理店もない状態なので、ひと月ほど前に本国の公式サイトでオンライン購入し、個人輸入した経緯がある。価格は、現地の消費税にあたる付加価値税込みで1250ユーロ。日本からの発注では免税扱いとなり、もう少し安くなる。
便宜上、立ち漕ぎ専用自転車と書いたが、ペダルやタイヤなどの配置は自転車を思わせるものの、実際に乗ってみると別の乗り物と言っても良い。新しいモビリティの手段といった印象だ。
そもそも、これを発明したジャン=マルク・ゴビラードという若者は、スケートボードやスノーボードなどのボードスポーツが大好きで、その感覚を広い層に公道で味わってもらうにはどうすれば良いかを考えてプロジェクトをスタートさせた。したがって、ベースとして立ち乗りがあり、それを安定的、かつ楽しい移動手段へと昇華させることに力点が置かれている。
筆者は、セグウェイにも何度か乗ったことがあるが、あえて言えば、DreamSlideにはセグウェイを人力で走らせているような感覚がある。
実は、日本ではほとんど目にすることがないものの、世界的に見ると、立って乗る自転車は皆無ではない。スキーのクロスカントリー選手のトレーニング用に開発された三輪のものや、フィットネスを意識した製品など、いくつか存在している。
しかし、それらはすべて通常の自転車と同じ180度位相のクランクを用いており、様々なリンク機構の採用で足先が楕円軌道を描くなどの工夫はあるものの、乗り手の重心位置の上下移動が不可避的に発生していた。
ゴビラードによれば、一般的な自転車を立ち漕ぎした場合、乗り手の重心移動の落差は約17センチになるという。これを1分間に60回繰り返すと、それだけで垂直方向に10メートル登るのと同等の体力を使い、これが立ち漕ぎに伴う疲れの原因となっていた。
DreamSlideは、この問題を特殊なクランクとギアによる駆動系、APS(アダプティブ・ペダリング・システム)によって解決し、余分なエネルギー消費を最小限に抑えつつ、立ち漕ぎを行うことを可能とした。APSでは、クランクの位相が120〜180度の間で連続的に可変し、早足で歩いているときに近い脚の軌跡を実現している。
乗り手の足裏の一部だけを圧迫しないように、靴底全体を支える形状とサイズを持った大型のペダルはスタンドとしても機能し、ブルホーンタイプのハンドルグリップは、立ち漕ぎの際に自然に車体を左右に振れるように、円周方向に自由に回転する設計が採られた。このように、DreamSlideでは、立って乗る自転車としての構造が細部に至るまで考え抜かれている。
また、サドルがないということは、乗り手の体格によってシート高の調整が不要であることも意味する。その代わり、ハンドルの高さは6段階に調節可能であり、子供から大人まで、1つのフレームサイズで対応できる点も興味深い。
元々、全長が短いため、フレームはリジッドで折りたたみ式ではないが、ハンドルが基部から折れるようになっており、その状態でハンドルポストを持って移動したり、フレーム先端部のグリップを握って押し歩きができる。
このハンドル基部には、走行時に多大な力がかかるため、筆者所有のユニットを含めて初期型ではヒンジに緩みや歪みが発生することが判明している。メーカーでは対策パーツを開発中で、既存ユーザーには無償で提供される予定だ。
DreamSlideは、乗り手の重心が高くなるため、一見すると不安定に思えるが、実際には立っているからこそ微妙なバランスが取りやすく、目線も高いので遠くまで見通せるメリットがある。
慣れれば時速30キロ程度までは楽に加速可能だが、もちろん、その速度を保ったままでツーリングをするような製品ではない。普通の自転車よりも体力は使うものの、一般的な立ち漕ぎと比べてはるかに楽に走行できるという位置づけにある。
東京では原宿から用賀、あるいは築地までの往復は普通にこなせ、渋谷・池尻間の長い坂も登り切ることができた。サドルが無いために乗り降りが容易で、人混みがあればさっと降りて押して歩き、視界が開けたらまた乗って漕ぐという切り替えの際の心理的な壁もない。
そういうわけで、このDreamSlide、個人的には街乗りに新たな視点をもたらす乗り物だと捉えており、このところこれで移動する毎日を送っている。
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大谷和利の「General Gadgets」
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