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大谷和利の「General Gadgets」

古今東西、デジ/アナを問わず、優れたコンセプトを持つ製品を独自の視点で紹介する。

NanoBookをより愛でるためのモレスキンカバー

2011年3月17日

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帯写真

 

電子豆本を自己流に装丁

2010年の秋に、iPod nanoベースの電子豆本、NanoBookを作った顛末を記事にした。NanoBookのコンセプトは、その後も自分の周囲で順調に受け入れられつつあり、同人懐中雑誌「ぱなし」の執筆陣を中心に色々な名作が生まれつつある。

そして、常々、NanoBookをもっと豆本風に愛でる対象とするには、本の装丁にあたるカバーが必要だと感じていたのだが、このほど、ようやく自分用の第一弾が完成した。

実は、そのためのドナー素材は、NanoBookを作った直後に入手していたのだが、なかなか実際の工作を行う時間が取れなかった。というよりも、一度手を付けると後戻りができないゆえ、最初のメスを入れるまでの構想段階であれこれ考えていたというのが本当のところだ。

そんな貴重なドナー素材は、モレスキンとポール・スミスとのダブルネームのコラボレーションノート。たまたま、日本におけるポール・スミスのライセンシーであるオンワード樫山のファミリーセールのアウトレットコーナーで安価に入手したものだったが、それでも1500円はするので、おいそれとは分解できなかったという事情もある。

広告などでは、伝説のノートブックとしてヘミングウェイやピカソも愛用したことになっているモレスキンだが、実際には彼らが使っていたモレスキンは、現在のモレスキンとは名前と外観の類似以外の継承性はない。元々は、フランスのトゥールという町の製本業者たちが製造し、集合的にモレスキン(昔はモールスキンという呼称が一般的だった)と呼ばれていた黒表紙のノートが生産終了して12年ほど経ってから、イタリアの会社がそのブランド性に目を付けて復刻したものだからだ。

だから、自分では特にモレスキンを崇拝しているわけではなく、以前にはModo & Modo社と名乗っていた現在のMoleskine社が、iPhoneやiPad向けのカバーアクセサリを発売したときにも、マーケティングの巧みさは感じたものの、買いたいとは思わなかった。だが、その記号性は面白く、そのデザイン言語を電子豆本に応用したいと考えたのである。

モレスキン

モレスキンは、様々な用途向けのノート類のほか、iPhoneやiPad向けにSmartphone CoverとTablet Coverを出している(モレスキンの広報写真より)。

モレスキンとポール・スミスとのコラボレーションノート

NanoBook Coverのドナーとして用意したのは、たまたまオンワードのファミリーセールで販売されていたモレスキンとポール・スミスとのコラボレーションノートだ。

最初にメスを入れるのは

最初にメスを入れるのは、なかなか勇気が必要で緊張もする。しかし、ここを乗り越えれば、後戻りはできないという気持ちから、作業は一気に進む。

裏表紙の内張を外したところ

裏表紙の内張を外したところ。トレードマークのポケットと、表紙を押さえる布ゴムバンドの取り付け部が見える。

分解の過程では、背表紙の内部に不織布が使用されているなど、現代の製品らしい特徴も明らかとなり、その意味でも知的好奇心を刺激された。撥水性のある黒い表面素材の内部が厚手のボール紙なのは、ハードカバーの書籍などと同じ作りで、いかにもオリジナルが製本業者によって製造されていたことを思わせるディテールと言える。

不織布のライナーが貼り込まれていた

耐久性が求められる背表紙の内側には、意外にも不織布のライナーが貼り込まれていた。ヘミングウェイやピカソが愛用したモレスキンノートには、もちろん使われていなかったであろう素材だ。

元になったノートとiPod nanoの面積比で言えば、1冊から3個は作れる計算だ。しかし、印刷や型押しされたブランド名と、ポール・スミスのロゴは、そのまま残して盛り込みたい。すると、必然的に1個分しか材料取りができなくなるが、それはよしとする。

再構成したNanoBook Cover

バラバラになったパーツをiPod nanoの外寸に合わせて再構成したNanoBook Cover。面積的には元のノートから3個分は取れそうだが、"Paul Smith"と"MOLESKINE"の文字を残そうとすれば、必然的に1個分しか作れない。

表紙の裏のMOLESKINEの文字

表紙の裏の"MOLESKINE"の文字も残している。

iPod nanoの固定

iPod nanoの固定は、当初、裏表紙の内側にナノサイズでポケットを再現し、本体側のクリップで挟んで留める予定だったが、実際に作ってみると結構嵩張ってしまうことがわかり、単なるフラップにした(表示されているのは、森 木ノ子さんのマンガ「ホリディワルツ」のNanoBook版)。

実用上は,この留め方で十分

実用上は,この留め方で十分であり、特に持ち歩くときには布ゴムバンドで表紙ごと押さえるので問題ない。クリップの方向の関係で、iPod nanoの画面は通常とは180度回転させた位置にして利用する(表示されているのは、大谷の私家版写真集のNanoBook版)。

だいたい、こうした工作物は、構想段階に時間がかかるものであり、方針と加工手順が決まってしまえば一気呵成的に作業が行えるようになる。細かい仕事のため、それでも数時間は要したが、現物合わせで何とか満足のいくカバーが完成した。

今後もこれ以外に、様々な素材を用いてNanoBook Coverを作っていきたいと思う。

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プロフィール

テクノロジーライター、原宿 AssistOnアドバイザー、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真分野などの執筆活動のほか、商品企画のコンサルティングを行う。近著に「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、「43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意」、「iPadがつくる未来」(以上、アスキー新書)。「Macintosh名機図鑑」(えい出版社)、「iPhoneカメラライフ」(BNN新社)、「iPhoneカメラ200%活用術」(えい出版社ムック)、「iPhone×Movieスタイル」(寄稿:技術評論社)。

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