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大谷和利の「General Gadgets」

古今東西、デジ/アナを問わず、優れたコンセプトを持つ製品を独自の視点で紹介する。

EZISON 100/Fingeristにインスパイアされたスピーカーを作る(後編)

2010年4月 7日

(これまでの 大谷和利の「General Gadgets」はこちら

帯写真

 

さて、前回はEZISON 100の紹介がメインだったが、後編の今回は、いよいよ自己流の楽器型スピーカーの製作記をお届けしよう。

すでにギター型の製品が存在しているため、楽器の種類はiPhoneアプリの中でも弦楽器系のものと並んで種類が多いピアノとした。また、作ると言っても、ゼロから筐体などを製作していくのは大変なので、市販の「あるもの」を改造することに決めていた。それは、トイピアノである。

本当は、鍵盤部分にちょうどiPhoneがはまるようなトイピアノがあればと思っていたものの、探してみると意外に選択肢が少ない。イメージしていたのは、木製でいかにもオモチャといった音を出すような製品があり、中身の鍵盤機構はすべて取りだして、スピーカーやアンプを仕込むつもりでいた。

しかし、昨今では子供に買い与えるものであっても本格指向が強いらしく、いわゆるピアノの形をしていてある程度のサイズの商品となると、予算的な問題だけでなく、改造ベースとするには申し訳ないほどの造りや音質なので躊躇してしまう。

実は、手のひらサイズのトイピアノで1000円台で買えるものがあったため、通販で購入してみたが、Web上にはサイズ表示がなくてはっきりとしなかった鍵盤部のサイズがやや小さすぎ、また樹脂製とは言え表面のピアノブラックの仕上げが良すぎて改造を断念した。

最終的には、やはり鍵盤のサイズを現物で確かめなくては先に進めないという結論に達し、トイザらスは遠いので、近くのデパートのオモチャ売り場に出かけてみた。案の定、トイピアノコーナーには、ヨーロッパ製の高級品や、その筋では有名なカワイピアノの子供向け商品が並んでいる。結局、ピアノ型にこだわるよりも、電子キーボード的なオモチャを改造するほうが携帯できて便利だと思い直し、財布とも相談しつつ、2100円の「Fun Fun キーボード」という製品を購入してみた。

Fun Fun キーボード

今回のプロジェクトの改造ベースとして選んだ「Fun Fun キーボード」。ハンドルがあって、持ち運びに便利なことも選択のポイントだ。

Fun Fun キーボード

2100円とは言え、8種の楽器音やリズムパターン、4種のドラムセット、最大50音までの演奏記録・再生ができる。

Toyroyalなるメーカーのこの製品、見た目はいかにもオモチャだが、複数の楽器やリズムを切り替えられ、さらに演奏の記録や自動再生もできる、なかなかの優れモノ。いかにもオモチャっぽいデザインとカラーリングに目をつぶれば、コストパフォーマンスはかなり高い(通販だと、さらに1500円程度にまで価格が下がる)。

そこで、元の機能もなるべく残すことにして、鍵盤の一部をiPhoneで置き換え、筐体の色も塗り替えて大人っぽく(?)見せかけることにした。

まずは分解して構造を見てみると、リード線も使われているが、基板や鍵盤のスイッチ部の設計は非常に合理的である。しかも、鍵盤の一部を割愛しても残った部分で演奏機能を残せることがわかった。

当初は、自分の利き腕の右手でiPhoneを操作することを考え、鍵盤の右端をカットする予定でいたものの、主要なピアノアプリはiPhoneを左に倒して使用するようなキーレイアウトになっている。すると、イヤフォン端子が左側になるので、イヤフォンケーブルを隠すために、鍵盤も左側を割愛することにした。

ドックコネクタではなく、イヤフォン端子による接続を選んだのは、手元で簡単に音量調整が出来るようにしたかったためだ。

いざ分解を始めてみると、ネジの数がやたらと多い。たぶん、筐体や演奏時の鍵盤部分の剛性を確保するためと思われるが、構造を理解して加工や塗装に入るまでに、少し時間がかかった。

一見、単純に見える子供用の楽器トイとは言え、中身は良くできていて、特に耐久性や組み立てやすさにも配慮しながらコストダウンの工夫がある鍵盤部分の構造には感心した。

背面のブルーはそのまま活かすことに

背面のブルーはそのまま活かすことにした。内部基板の固定方法もそうだが、子供が乱暴にあつかっても壊れないようにとの判断からか、使われているネジの数がやたらと多い。

鍵盤部のアセンブリを分解したところ

鍵盤部のアセンブリを分解したところ。白鍵と黒鍵の裏に突起があり、そこにカーボン系の黒い接点が並ぶシリコーン成型の帯状スイッチがはめ込まれ、キーを叩くとその接点が基板上の丸い金属色の部分の回路を閉じて電流が流れる仕組み。

本来の製品自体はiPhoneのことなど一切考慮していないので、この種の加工は現場合わせとなり、うまくいくかどうかわからないリスキーな部分もある。しかし、幸いなことに、筐体の一部を切り取れば、iPhoneがぴったり収められるようだ。

硬めの樹脂素材も、慎重にカッターを押し当てていけば、切り口を含めて美しく加工できそうだったので、ヤスリなどは使わずに不要部分を切り取っていった。

併せて、キーボードもカッターで切断したが、ネジ留め箇所が多いことが幸いして、カット後もしっかりと組み付け直すことができた。イヤフォンジャックは、裏側からグルーガンで固定するようにした。

カッターで切り取って加工

キーボードの左端にあたる部分の筐体の一部に、iPhoneが差し込めるように、カッターで切り取って加工する。

カッターで切り取って加工

同様に、キーを叩いたときにストッパーとなる部分の盛り上がりも邪魔になるので切り取り、さらにイヤフォン端子を取り付けるための小さな丸穴を開けた。

iPhoneがはめ込まれる部分の幅だけカット

キーボードも、iPhoneがはめ込まれる部分の幅だけカットする。ただし、基板まで切断してしまうと回路が分断されて厄介なことになるので、その部分は切らずにiPhoneの下になる部分にそのまま残すことにした。

筐体カラーを艶消しのブラックに塗り替えてみると、黒地にカラフルなボタンが映えて、なかなかモダンな印象となった。iPhoneの収まりや固定具合も思いのほかうまくいき、改造結果には大満足である。

こんな風にしてEZISON 100やFingeristに続くiPhone用楽器型スピーカーが増えていけば、身近なミュージックシーンはより楽めるものとなっていくに違いない。

再組み立て後にiPhoneを装着

加工後の上面カバーを艶消しのブラックで塗装し、再組み立て後にiPhoneを装着したところ。今のところ、回路の解析ができていないので、iPhoneからのイヤフォン出力はアンプを通さずにスピーカー直結の状態だ。

装着部

装着部は、iPhoneの上縁部分がキーボードの筐体とわずかに噛み合い、左手前部分に側面からのイヤフォンジャックが差し込まれるので、この状態で元のキーの上面とほぼ同じ高さでしっかりと固定されている。

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プロフィール

テクノロジーライター、原宿 AssistOnアドバイザー、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真分野などの執筆活動のほか、商品企画のコンサルティングを行う。近著に「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、「43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意」、「iPadがつくる未来」(以上、アスキー新書)。「Macintosh名機図鑑」(えい出版社)、「iPhoneカメラライフ」(BNN新社)、「iPhoneカメラ200%活用術」(えい出版社ムック)、「iPhone×Movieスタイル」(寄稿:技術評論社)。

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