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大谷和利の「General Gadgets」

古今東西、デジ/アナを問わず、優れたコンセプトを持つ製品を独自の視点で紹介する。

REAL 3Dを両吊り対応化し、身近なガジェットで簡易ステディカムを自作する

2009年10月 5日

(これまでの 大谷和利の「General Gadgets」はこちら

帯写真

 

コンパクトカメラが失った街頭宣伝の機会

最初にお断りしておくと、いつものことながら、ここに紹介するカスタマイズや使い方は、あくまでも自己責任が前提だ。メーカー推奨の使い方ではないことを、あらかじめ了承の上でご覧いただきたい。

今回のプロジェクトは、富士フイルムの3Dデジタルカメラ、FinePix REAL 3D W1(以下、REAL 3D)を日常的に持ち歩く中で思いついたものだ。

まず、通常のコンパクトデジタルカメラを2台合体させたような成り立ちを持つREAL 3Dは、当然ながら筐体サイズや重量もかさみ気味である。さすがに一眼レフほどではないものの、このくらいになると持ち歩くときには、両吊りにして首または肩からからぶら下げたくなる。

実際のところ、かつてはほとんどすべての35mmカメラが首から提げる仕様であり、ユーザーは、知らず知らずのうちにメーカーの歩く広告塔になっていた。カメラのコンパクト化は、デジタル時代になって一層進んだが、人々はカメラをバッグやポケットの中に入れて持ち運ぶようになり、誰がどこのカメラを使っているのか、撮影時以外にはわからない状態にある。

これはある意味で残念なことであり、REAL 3Dのような新機軸の製品は、なおのこと人の目に触れるような状態で持ち運べるようにするのが、マーケティング的にも正解だと思う。

しかし、社内規定による強度の確保とそれに伴うコストなどの関係から、実際のREAL 3Dには、他のコンパクト機と同じように通常のハンドストラップ取り付け部しか設けられていない。

ちょうど、発売直後にイタリアに3D写真の撮影旅行に行く予定があり、スリや置き引き被害も多い彼の地でのカメラ使用には必須ということもあって、入手後すぐに両吊り化に着手した。

この3D撮影旅行の成果は、10月16日まで大阪は難波の「なんばパークス」3階にあるアートトイメーカー、SOZ (ソズ)の旗艦店で展示しているので、機会があれば、ぜひご覧いただきたい。

さて、当然ながらREAL 3Dの両吊り化は、本体の改造無しに行うことが理想であり、たとえばコの字型の金具を筐体の下からあてがって三脚穴を利用して固定するような方法も考えられる。たぶん、強度的には一番有利なやり方だ。

ところが、それだと底面のバッテリー&メモリカードカバーや側面のACアダプター&データポートにアクセスする際に、いちいち金具を外す必要が出てくる。そこで、左右それぞれの吊り金具(実際には布ストラップなどの長さ調整用の樹脂パーツを流用)に個別の取り付け方を適用することにした。

すなわち、三脚穴のある側は、それを利用してL字に曲げたステンレス金具を取り付け、反対側はハンドストラップの取り付け部に吊り金具を直接ストラップ用ストリングを使って縛り付ける(結び目は瞬間接着剤で固定)という方法だ。

後者の方法は原始的なようだが、うまく仕上げれば見栄えも悪くなく、完成後にかなり酷使してきているものの、今のところ強度的にも問題は出ていない。

筐体に向かって右側のストラップ取り付け

筐体に向かって右側のストラップ取り付けは、底面にオフセットされている三脚穴を利用し、ステンレスの金具をL字に曲げて取り付けている。金具が視覚的に主張しすぎないよう、縁に黒いパーマセルテープを貼ってみた。

東急ハンズで探して見つけた金具

東急ハンズで探した結果、最初から穴が空いており、長さもピッタリで、しかも実際に三脚穴への固定に利用する穴の位置が、バッテリー&メモリカードカバーの開閉を邪魔しないギリギリのところにある金具を見つけることができた。

ハンドストラップ用ストリングを使って樹脂パーツを固定

反対側は、ストラップ取り付け穴を利用し、ハンドストラップ用ストリングを使って樹脂パーツを固定した。強度のあるストリングを2本を独立して使用することで、万が一の切断や落下を防いでいる。

ステンレスの金具は、長さも穴の位置もピッタリの既製品が見つかったので、曲げるだけで加工が済んだが、実際の作業で一番大変だったのは、三脚穴に留めるネジである。

カメラ用のものは頭の部分の径が大きいため、バッテリー&メモリカードカバーと干渉してしまう。また、可能な限り頭の出っ張りを抑えたかったこともあり、結局のところ三脚と同じW1/4規格のネジを自分で短く加工して取り付けた。

ということで、めでたく両吊り化は成功して旅先での安全な持ち運びが可能となり、街中などでの速写体制も整った。

両吊り対応後のREAL 3Dの撮影スタイル

両吊り対応後のREAL 3Dの撮影スタイル。両吊りストラップ自体は、本来、一眼レフなどの重量級カメラ用で、「肩への負担50%軽減」を謳うOP/TECH(オプテック)ストラップ。

「ボ撮ルンです」で揺れんのです

次に気になったのは、動画撮影時の揺れである。普通のビデオカメラでもそうだが、移動しながらの撮影は、確実に振動を伴う。ときどき、観光地などで録画モードのビデオカメラを構えたまま歩き回って撮影している人を見かけるが、再生画像を見れば確実に気分が悪くなるはずだ。

特にREAL 3Dでは、おそらく左右の光学系に同時に補正をかけた上でミクロン単位のフレーミングの同一性を保つことが難しいのと、それなりのサイズと重量のおかげで撮影時のぶれの心配が少ないためか、いわゆる手ぶれ補正機能が付いていない。

しかし、個人的に3D動画を撮る機会が増えたため、パンや移動時の揺れを少しでも抑えられればと思い、防止策を検討してみた。

テレビや映画の撮影現場では、ライブ感のある移動撮影は、ステディカム<http://ja.wikipedia.org/wiki/ステディカム>(これは、米ティフェン社の商標であり、一般にはかカメラスタビライザーなどと呼ばれる)システムを使って行われる。ヤジロベエのような重量バランスと水平を保つジンバル、振動の緩衝機構などを組み合わせたプロ用の機材は、確かに優秀だが、価格も非常に高価でおいそれとは手が出せない。

そこまで複雑かつ完璧なものでなくても、重量バランスによる揺れの軽減程度であれば、身近なものの組み合わせで何とかなるのではないかと思い、まず目を付けたのがヨドバシカメラの「ボ撮ルンです」(500円)だ。

これは、基部にあるラバー系素材のカップをペットボトルのキャップにはめ込むと、即席のカメラスタンドになるアイデアグッズである。

ボ撮ルンです

簡易ステディカムシステムを作るにあたり、ヨドバシカメラのみで販売されている「ボ撮ルンです」に着目した。これは本来、ペットボトルのキャップにはめて、即席のカメラスタンドにするためのアイデアグッズだ。

その状態でボトルのネック部分に手を添えて持ち上げると、中身の液体がおもりの役目を果たして安定する。このネック部分を支えるものとして、ダイソーのフリーフックを組み合わせてみた。

3キロの耐荷重は、当然ながら鉛直方向に力が加わってフックが伸びた状態での引っ張り強度であり、横から支えるような場合にはもっと弱いはずなので注意が必要だが、自分で試した限りでは1.5リットルのペットボトルにREAL 3Dを取り付けた状態でも何とか持ちこたえた。

フリーフックを組み合わせる

そして、ダイソーで売られているフリーフックを組み合わせることにした。こう見えて耐荷重3キロで、2軸の自由度を持つため、使い方次第で水平を保つ機構に応用できる。

ペットボトルのネック部分に小さいほうのフックをはめ込む

作業は、単にペットボトルのネック部分に小さいほうのフックをはめ込むだけ。ネック部分での円周方向の横滑り回転を防ぐために、この後で滑り止めテープを貼ろうとして、フックを1つ壊してしまったが、2個1組だったので作業を続けられた。

コンセントプラグを利用

さらに試用してみると0.7〜1リットルのペットボトルでは重量が不足したので、1.5リットルボトルに切り替えた。写真ではわかりやすい位置にずらしているが、実際には大きいほうのフック部分をLCDと同じ側に回し、そこを握って持ち上げる。その際にカメラが水平となるように「ボ撮ルンです」の雲台を調節してから撮影に入る。

実際の撮影結果は最後に示すが、フリーフックの可動部が渋すぎれば細かい振動が出やすくなり、滑らかすぎると不要な揺れが大きくなるため、シリコン潤滑スプレーを吹いたり拭き取ったりと、調整が結構大変だった。

ネック部分を直接手に持ち、手首を柔軟に追従させながら撮るような方法でも、手軽にそこそこの防振効果を上げられそうだ。

一脚+手ワザで滑るように撮る

続いて、普段の撮影でも、もう少し持ち歩いていそうなもので、何か応用の利く製品はないものかと思って見つけたのが、一脚とミニ三脚の機能を合体させ、グッドデザイン賞も獲得しているハクバ製の「モノスタンド10」だ。

1つあると便利な一脚を利用

もう1つのアイデアは、いずれにしても1つあると便利な一脚を利用するというものだ。ここでは、個別にグリップとなるパーツを取り付けなくても済むように、ミニ三脚兼用のハクバ製「モノスタンド10」に注目した。

「モノスタンド10」は、ミニ三脚的に利用する際の小さな脚が付いている。この脚を片方だけ出した状態でグリップとして利用し、一脚部分のテレスコピック機構を伸ばせば、全体が1つのヤジロベエ的に機能する。

ここでは、小さな脚を固定しているプラスネジを僅かに緩めてシリコン潤滑剤を塗布し、滑らかに動くようにしている。

あとは、自由雲台の調整で、カメラが水平かつ安定して被写体を捉えるような位置を見つけ出して固定し、撮影すれば良い。

この方法では、あまり低い目線での撮影はできないものの、静止位置からの撮影は一脚を設置させて行い、移動状態の時には全体を持ち上げることでステディカム状態に移行することが可能だ。

実は、イタリアのマンフロット社が、「マルチカメラスタビライザー」と銘打って、585 Modosteadyという製品を販売している。

これは、ミニ三脚が変形して、ショルダーサポートや、ステディカム的に利用できるというもので、確かに良くできている。だが、個人的にはミニ三脚はあまり使わないのと、安くなったとは言え価格が17,000円ほどする点で躊躇するところがある。

これに対して「モノスタンド10」は、一脚として利用でき(本当は、これがメインなわけだが)、価格も1/5以下で済む。

ミニ三脚として利用

ミニ三脚として利用する際には、基本的には高さ調整はできないものの、それなりに実用的に使うことができる。

一脚としての使用時にはテレスコピック機構部分を伸ばす

そして、一脚としての使用時にはテレスコピック機構部分を伸ばすわけだが、その際に重心位置を考慮しながら短い脚の1つをグリップとして突き出し、強く握りすぎないように手を添えて持ち上げてみる。すると、長い脚がおもりの役目を果たし、代替ステディカム的な使い方が可能となる。

以下に、手持ち、「ボ撮ルンです」使用、「モノスタンド10」使用の3つのサンプル動画を掲載した。被写体は、前述のSOZ旗艦店の立体写真展示会場で、テラス部分から店内にかけて移動撮影している。後2者は、動きが滑らかで浮遊しているような映像になっていることがわかる。

一方で、手製であるかどうかによらず、ステディカム系の装置は、その原理上、狙った構図で撮影するのが結構難しいことも実感した。

機能的には専用品には及ばないとしても、身近にあって、普段は他の用途にも使えるものならば気軽に利用できる。ちょっとステディカム的な雰囲気を出す程度であれば、今回の方法でも十分その気分を味えるのではないかと感じた。

比較のために16日まで大阪のなんばパークスで開催中の立体写真展の会場を動画撮影してみた(サンプル自体は2Dで撮影している)。手持ちの撮影では、やはり手ぶれや移動時の小刻みな揺れがかなり顕著に現れる。

「ボ撮ルンです」を利用して撮影すると、揺れは船のようなゆったりとしたものとなり、それなりに滑らかな印象の映像が得られる。

「モノスタンド10」を利用して撮影すると、揺れの周波数がさらに下がって、独特の浮遊感が感じられるようになる。ただし、ステディカム系撮影全般に言えることだが、移動中に構図をきちんと決めるには、それなりの練習や慣れが必要と言える。

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プロフィール

テクノロジーライター、原宿 AssistOnアドバイザー、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真分野などの執筆活動のほか、商品企画のコンサルティングを行う。近著に「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、「43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意」、「iPadがつくる未来」(以上、アスキー新書)。「Macintosh名機図鑑」(えい出版社)、「iPhoneカメラライフ」(BNN新社)、「iPhoneカメラ200%活用術」(えい出版社ムック)、「iPhone×Movieスタイル」(寄稿:技術評論社)。

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