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大谷和利の「General Gadgets」

古今東西、デジ/アナを問わず、優れたコンセプトを持つ製品を独自の視点で紹介する。

自作派ガジェットマニアの聖域、Make : Tokyo Meeting 03を覗く

2009年6月17日

編集部からのお知らせ
連続トークセッション「コミュニケーションデザインの未来」第6回
6月25日(木)『次世代モバイルは世界をどう変えるか 〜iPhone利用調査+次世代モバイル徹底討論〜』

第一部ではアスキー総研で詳細に調査したiPhoneの利用実態をご紹介。第二部では新iPhoneの狙いについて解説し、第三部では、古川 享氏、大谷和利氏、小林雅一氏に、携帯を含めたモバイルコンピューティングの未来について討論していただきます。

(これまでの 大谷和利の「General Gadgets」はこちら

柔(ソフト)と剛(ハード)を制す!

去る、5月23、24日の2日間に渡り、自作派ガジェット系雑誌「Make」と連動したリアルイベント、「Make : Tokyo Meeting 03」がデジタルハリウッド大学の八王子制作スタジオで開催された。

デジタルハリウッド大学の八王子制作スタジオ正門の様子

デジタルハリウッド大学の八王子制作スタジオ正門の様子。少子化の影響で廃校となった旧三本松小学校の施設を利用している。

「Make」は、たまたま筆者がアメリカで数年暮らしていたときに英語版が創刊されて愛読し、日本語版も購入しているお気に入りの雑誌だ。

元々、IT系の出版物を多く手がけてきた「O’Reilly Media(オライリー・メディア)」が発行している点がユニークであり、「バーチャルだけでもなく、リアルだけでもない、両者とバランス良くつきあうことが、これからは大切」という思いが感じられる点に、とても共感を覚える。

今回で3回目となるTokyo Meetingでは、出展者も2回目の1.5倍の規模となり、来場者も前回の1,200名を大きく上回った模様だ。

個人的なスケジュールの関係で、会場には初日の午後の3時間程度しか居られなかったこともあり、すべてを紹介するのは不可能だが、今回は見た順に興味を惹いたものを以下に採り上げてみる。

まず、デイリーポータルZブースで見かけた鉛筆オルゴール。これは鉛筆の筆跡が導電性であることを利用して、ロールペーパー上に描かれた線に電極を当て、パターンを読み取って音を出す。旋律を奏でさせるには計算して線を引く必要があるものの、発想が楽しい作品だ。

鉛筆オルゴール

ロールペーパー上の鉛筆の筆跡が譜面データ代わりになる鉛筆オルゴール。

その隣にあったエコバッグは、持ち手を片方ずつ握って2人で提げると、ちょうどエイリアンか何かが連行されていくように見えるというもの。この2つを見ただけでも、Makeイベントのカバー範囲の広さがわかるはずだ。

エコバッグ

エイリアンらしきイラストが描かれた大きめのエコバッグは、2人で両側から持つと、囚われの身となる。

完全なアナログの手作業でデジタル機器を表現したのが、ノートパソコンノート。根気さえあれば、自分でも1台(とは言わず、何台でも)「製造」することができる。

ノートパソコンノート

ネットブックから17インチモデル(?)まで、充実のフルライン体制を誇るノートパソコンノート。

体験型ガジェットの白眉は、工房ヒゲキタの手製プラネタリウム。ビニールを貼り合わせて送風機で膨らますドームの中には、調理用のアルミ製ボール2個を球状につなげ、星図に合わせて穴を空けた投影装置がある。青と赤の光源とセロファンメガネを使って、宇宙船などのシルエットを3D化する立体映像(影絵)も、立体写真好きの筆者のツボにはまった。

移動式プラネタリウム

手作り感あふれるエアドーム構造の移動式プラネタリウム。

投影機

内部もビニールの手張りで、三脚の上には、調理用のアルミ製ボール2個を球状につなげた投影機が鎮座している。

緞帳が降りた体育館のステージの奥では、高電圧で空中放電を起こすステラコイルが、バチバチと音を放っていた。しかし、これは単なるステラコイルではなく、MP3ファイルから変換された専用データを利用して制御することで、放電ノイズで楽曲を奏でられるオーディオステラコイルだった。

オーディオステラコイル

放電時のノイズをコントロールして音楽を奏でられるオーディオステラコイル。

さりげなく、100ドルノートPCこと、OLPC(One Laptop per Child)のXOが置かれたテーブルもあった。ディスプレイから生えた角のようなものは、無線LAN用のアンテナだ。

One Laptop per Child

なかなか実機を見る機会のないOLPC(One Laptop per Child)のXO。

会場では予期せぬ知り合いの方々にも遭遇した。これは、筆者も所属する立体写真愛好会、ステレオクラブ東京にも参加されているmer2さんの、3Dカメラに接続されたUMPC。その場でステレオスナップを撮影してネット上にアップロード。そのURLをラベルプリンタで発行し、携帯電話から撮影したばかりの立体写真がアナグリフ(赤青メガネ)方式で鑑賞できるというもの。

3DUMPC

立体写真を撮影するそばからネット上にアップロード可能な3DUMPC。

これはまた珍しい、シンクレアの8ビットホームコンピュータ、ZX81。1981年にリリースされた、当時の100ドルPCだった。ちなみに、日本では三省堂書店などの大型書店ルートで販売されたという意味においても画期的な製品である。

シンクレアZX81

1981年に発売されたシンクレアZX81は、米国では100ドル、日本では38,700円(後に29,800円)で販売されたホームコンピュータだった。

ベテランMacユーザーには懐かしい、ラショウさんのiTA-Choco Systemsも出展していた。懐かしの不条理ゲームや、Mac OS X向けの新作ゲーム、人形カバンなど、ラショウワールド炸裂である。

マニアックな作品群

ゲームクリエーター兼漫画家のラショウさんのマニアックな作品群。

科学雑誌Newtonの2009年5月号でも紹介されている「新世界『透明標本』」さんの透明標本は、小動物や魚類の筋肉を透明化。赤に染色された硬骨と、青に染色された軟骨のコストラストが美しい、標本アートである。

透明標本

1つ制作(酵素によるタンパク質の透明化と骨の染色)するのに3ヶ月から1年を要するという透明標本。元が本物の生物だったとは思えないほど美しく、神々しくさえある。

新しい電子玩具の可能性を模索するIAMASガングプロジェクトの出展作は、ロボット本体に脚のユニットを付け替えると、ロボットの歩き方や脚の種類に合わせた足音のシークエンスが作れる「スタンポロン」や、現実の風景にアニメーションを合成する「サプライズウィンドウ」、指に小さいブーツを履かせて歩かせることで、その動きに応じた効果音を発する「アクション!ゆびにんぎょう」など。

どれも、すぐにでも製品版が欲しくなるようなコンセプトだ。

スタンポロン

4種のロボットと6種の脚の組み合わせによって足音の種類やリズムが変化するスタンポロン

サプライズウィンドウ

デモでは、走る小人のアニメーションを現実の風景に重ね合わせて表示できるサプライズウィンドウ

ゆびにんぎょう

ブーツを指に履いて、指人形の要領で歩かせたり、走らせたり、ジャンプさせる動作をすると、動きに合わせた効果音を出すアクション!ゆびにんぎょう。

電通大の工学研究部のブースにあったこれは、プリンタのメカニズムを制御して音階を作り曲を奏でる電子楽器。耳を近づけて聴くひつようはあるものの、非凡な発想だ。

プリンタ楽器

プリンタのメカニズムを利用して音楽を奏でる、これはれっきとした楽器なのである。

高校の先生が学園祭のために生徒と一緒に作った電撃イライラ棒もあり、見ている限りではクリアできた人は居なかった(学園祭でも、ゴールに到達できたのは、わずか2名だったとか)。

かなりの高圧に見えたが、電源部には使い切りカメラのフラッシュ部のコンデンサーを8個用いるなど、身近なものだけで作られている。

電撃イライラ棒

カメラ用コンデンサー8個で高圧電流を実現した電撃イライラ棒。高校の先生と生徒の合作だ。

当然のように、ニコニコ動画&初音ミク系の出展も相次いだが、おそらく一番ローテクだった(だけに誰もが簡単に楽しめる)のは、トースト型紙。それなりの太さに切り込みを入れ、しかもパーツがすべてつながるように図案化するところにポイントがある。

はちゅね

はちゅね(ミク)は、初音ミクのSDキャラ版。デフォルメされ簡略化されたデザインのほうが、トースト型紙には適している。

最後に、校庭で公開されていたものから2点紹介したい。

1つは、木村式二足自走機のフッタウェイ。残念ながら、実際に走行するところはビデオでしか見られなかったが、人間が乗って二足歩行を行うロボットの試みである。映像内では、作者がこれに乗って繁華街を移動し、職務質問を受けるところなども公開されていた。

フッタウェイ

鉄、アルミ、ステンレスで作られた骨格にエンジンを搭載する木村式二足自走機、フッタウェイ。

もう1つは、家庭用カセットコンロのガスボンベを燃料にして走行するPEAKS MOPED'Sのホンダ ピープル カセットボンベ号。これは実際に試乗させてもらったが、スロットルとパワーのダイレクト感には欠けるものの、トコトコとよく走った。ボンベ1本で約40分の走行が可能という。

カセットボンベ

懐かしの国産モペッド、ホンダ ピープルを家庭用カセットコンロのガスボンベで走るようにした、カセットボンベ号。フレームの向こうに見えるオレンジ色のシリンダーが市販のカセットボンベだ。

実際には、これ以外にも目移りするほど面白いものばかりで、見落とした提示物も色々あったと思う(Android携帯や、小型メカトロ機器の開発システムArduinoなど)。次回の開催は、秋に予定されているとのこと。ワイアードビジョンの読者ならば、間違いなく楽しめるはずなので、今回見逃した方は、ぜひチェックされたしだ。

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プロフィール

テクノロジーライター、原宿 AssistOnアドバイザー、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真分野などの執筆活動のほか、商品企画のコンサルティングを行う。近著に「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、「43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意」、「iPadがつくる未来」(以上、アスキー新書)。「Macintosh名機図鑑」(えい出版社)、「iPhoneカメラライフ」(BNN新社)、「iPhoneカメラ200%活用術」(えい出版社ムック)、「iPhone×Movieスタイル」(寄稿:技術評論社)。

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