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小田切博の「キャラクターのランドスケープ」

マーチャンダイジングの観点から、マンガ・アニメ・ゲームなど、日本の「コンテンツ・ビジネス」の現在を考える。

マンガとイラストレーション

2010年3月23日

(これまでの 小田切博の「キャラクターのランドスケープ」はこちら

ちょっと事情があって、ここのところ60年代末から70年代初めごろに出版された石子順造や鶴見俊輔、尾崎秀樹などの書き手による日本のマンガ論の類を読み漁っている。

もともとこの辺は個人的にさほど強い興味があるわけではないので、特に熱心に読んできたわけではなく、古書店などで出物に気がついたら買う程度のスタンスでいたのだが、まとめて読んでみるとこれはこれでおもしろい。古い本なんで書いてあることがなかなかピンとこなかったりするのだが、その「わからない」部分に意外性があってかえっておもしろかったりする。

中でも読んでいて発見が多かったのが、草森紳一の『マンガ考』(コダマプレス、1967年)。

この本には海外の一コマもののカートゥーンの分類紹介という、星新一の海外一コママンガコレクションを集めた『進化した猿たち』に先んじて同じことをやってる章があったりして、海外コミックス紹介史の観点から見ても興味深いのだが、ちょっと驚いたのがその星新一の装丁、挿画を数多く担当していたイラストレーターの真鍋博や和田誠が「マンガ家」として登場していたことだ。

私自身は彼らを星や都筑道夫などの小説でしか知らず、「マンガ家」として考えたことはなかったのでかなり不思議な気がした。特に真鍋は草森にマンガ評を書くように勧めた張本人だったらしく、収録されているインタビューのコメントもかなり熱い。画風からしてクールな人なんだろうと思い込んでいたのでその辺も意外である。

しかし、いわれてみれば和田誠の映画に関する名作イラストエッセイ『お楽しみはこれからだ』なんてエッセイマンガの先駆けみたいなもんだし、真鍋博も『SFマガジン』などで未来の日常生活を描いた絵物語風の企画をやっていたのを何度か見たことがある。

この本には他にも長新太や井上洋介など、現在ではイラストレーターや絵本作家として知られているひとたちが何人も登場しているのだが、どうもこの時期の彼らはマンガとイラストレーションの境界領域を開拓するような、幻想的な「マンガ」を意欲的に発表し続けていたらしい。

一コママンガというものは、もはや新聞の政治諷刺マンガすらあまり載らなくなっているため、ぱっとしない、おもしろくもなんともないものという印象しかないひとが多いと思う。しかし草森の本と同時期に読んだ石子順造のテキストによれば、きっちりと洋画を学んだこうした当時の若手アーティストたちは、挿絵などの商業イラストレーションの仕事をしながら、諷刺でもユーモアでもない幻想的なナンセンスマンガを独自に描き、それを自費出版して同人誌のかたちで発表していたのだという。その辺の事情も当時の空気感も全然知らなかったのでその事実自体が発見だったのだが、こうなるとそのマンガの実物を見てみたい。

そこで画集が出てないかと思っていろいろ検索してみたのだが、実際画集は出てるんだけどこれがひどく高い。古書店にはオリジナル版の同人誌も出物があったりするのだが、相場なのかこれが最低4万円くらいする。

で、嘆息しながら「こういうのって復刻されたりしないもんかな」と思って期待しないで探したら、じつは復刻してるショップがホントにあった。

吉祥寺にある絵本ショップ「トムズボックス」がそれなのだが、いや、ここの活動はすばらしいとしか言いようがない。ここが出している本は、先に述べた真鍋博が自費出版したマンガ集の復刻版、初山滋、武井武雄、もたいたけしという戦前から活動していた三人の児童画家の挿絵やマンガ、絵物語を復刻した「トムズボックス絵文庫」など、すごいとしかいいようのない企画の目白押しである。

考えてみれば、もともとマンガとイラストレーション、デザイン、絵本には密接な関係がある。そういう原点を確認するためにも、ここの活動には注目したい……というか、一遍実際に行ってみよう。

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プロフィール

小田切博

ライター、90年代からフィギュアブームの時期に模型誌、フィギュア雑誌、アニメ誌などを皮切りに以後音楽誌、サブカル誌等、ほぼ媒体を選ばず活動。特に欧米のコミックス、そしてコミックス研究に関してはおそらく国内では有数の知識、情報を持つ。著書として『誰もが表現できる時代のクリエイターたち』、『戦争はいかにマンガを変えるか』(ともにNTT出版刊)、共編著に『アメリカンコミックス最前線』(トランスアート刊)、訳書にディズニーグラフィックノベルシリーズがある。

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