本のタイトル
2010年1月26日
(これまでの 小田切博の「キャラクターのランドスケープ」はこちら)
年初にちくま新書から『キャラクターとは何か』という本を出していただいた。ここで書いてきたことをベースにして書いた本なので、こちらの読者の方にはよろしければ手にとっていただきたいと思う。
基本的に私は、自分の書いたこと、特に活字になったものの内容については、読んだひとが判断すればよいと考えているので、反響についてはあまりどうこういう気はないのだが(気が小さいのでネットなどでの反響は個人的には気にする)、今回の本に関してはちょっと「困ったなあ」と思っている点がひとつある。
「本の内容とタイトルがあっていない」という感想をよく見かけるのだ。
もちろん著者としてはそんなことはないと考えてこのタイトルで本を出してもらったのだが、そうはいいつつ、なんとなく「そういわれても」と思ってしまうのは、このタイトル、じつは私が考えたわけではないからだ。
単一の著者による著作は、書いた人間がひとりで考えてひとりでつくっているように思えるかもしれないが、実際には企画の段階から編集者と頻繁に相談しながらつくっている。
企画のコンセプトや全体の構成もそうだし、章ごとに原稿が上がったら担当編集者にまず読んでもらい、内容について不明点や改善点を指摘してもらう。ひと通り原稿が上がったら、その時点でもう一度全体の流れを見て内容的な過不足などを洗い出し、文章面への注文なども受ける。図版を使っている場合はその扱いや指定も協議する。
今回は新書なのでそういう作業はほとんどなかったが、単行本の場合は装丁やデザイン、字組みなどについても編集者と著者のあいだで決めていくことになる。
校正や営業面なども含め、単著であっても本をつくるのは個人作業ではなく、基本的には共同作業なのだ。
本のタイトルに関しても原稿段階でついているのは基本的には仮タイトルで、最終的にどういうタイトルで本が出版されるかについては出版社側の営業会議で最終的な結論が出される。もちろんそこには強く著者の意向が反映されるし、不本意な場合は「変えてくれ」ということもできる。
今回の新書に関しては草稿段階では「キャラクターマーチャンダイジング論」という味も素っ気もないタイトルで書いていて、打ち合わせなどでは単に「キャラクターの本」と呼んでいた。当然変える気でいたのだが、本人的にも特にうまいタイトルも思いつかない。
そこで基本的には筑摩書房の編集、営業サイドにタイトルの候補を考えてもらったのだが、出版社側では当初この本は「キャラクターはどのように成功するのか」という仮タイトルで企画がすすめられていた。最初の新刊案内もこのタイトルで出されている。
ただ、この仮タイトルはこちらからお願いして変えてもらった。
というのは、この本の冒頭で私は「キャラクターのヒットの秘密を解き明かすような『キャラクターに関するビジネス論』ではない」と断っており、さすがに本文で「そういう本じゃない」と書いている内容をタイトルにするのはまずいだろう、と思ったからだ。
しかし、じゃあタイトルに関して私自身にそれほどうまい考えがあるかといえばそんなこともないわけで、とりあえず本文で使っている言葉を転用した「文化としてのキャラクタービジネス」というのをこちらからの案として挙げ、仮タイトルの方向性を活かしてタイトルをつけるなら「HowではなくWhatかWhyをイメージしたものにしてほしい」という要望を出した。
そうしたやりとりの結果、この本は「キャラクターとは何か」という題名になったわけだ。
個人的にはシンプルだしいいタイトルだと思うのだが、読んだひとの反応を見ると、タイトルから期待したものと本の内容が微妙にずれているというひとが多いようだ。
私自身はそれほど内容と齟齬があるとは思っていないのだが、それより、同じ月にちくま新書の新刊として河内孝『次に来るメディアは何か』というのがあるのを見てちょっとひっくり返った。同じ月に二冊同時に「何か」とついた本を出すのはどうなんだろう?
……などと考えていたら、これは別な出版社からだが、来月のソフトバンク新書の新刊に前島賢『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』という本がラインナップされているようだ。昨年、森村誠一も新書で『作家とは何か ──小説道場・総論』という本を出していたし、微妙に流行ってるのだろうか、このタイプの新書のタイトル。
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小田切博の「キャラクターのランドスケープ」
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