インラインスケート、スケートボード、キックボードなどは交通機関か
2008年9月12日
(これまでの 松浦晋也の「モビリティ・ビジョン」はこちら)
前回A-bikeを取り上げたが、徒歩と通常の自転車の間を埋める乗り物は、なにもペダルで駆動している必要はない。例えばローラースケート。最近のローラースケートはインラインスケートと名前が変わり、「インライン(一直線)」という言葉が示す通り、タイヤが左右ではなく前後に並び、滑りやすくスピードも出やすい構造となっている。ネットで検索をかけて愛好家のblogなどを捜すと、最高速度20km/h以上、ゆったりと走っても10km/h以上は出るらしい。駅まで2kmの所に住んでいれば、やや早足の5km/hで歩いて24分のところを、インラインスケートを履けば10km/hで12分で行くことが出来る。朝の通勤通学時に12分の時間的余裕は大きな意味がある。最近では、靴底のかかとの部分に小さなホイールを組み込んだ「ローラースニーカー」という商品もある。
あるいは、2000年頃に大流行したキックボード。これも慣れるとそれなりの速度で移動することができる。
乗るのにはそれなりの慣れを必要とするが、スケートボードという選択肢もある。
ペダル付きではあるが、一輪車も悪くはない。一輪車というと、サーカスの小道具か子供のおもちゃと思っている人が多いだろうが、欧州ではペダルの軸に組み込む増速用の遊星歯車が販売されている。これを使うとペダル1回転でタイヤは2回転、あるいはそれ以上回転するようになり、それだけスピードが出るようになる。実際、一輪車で長距離サイクリングを実行した例も存在する。最寄り駅まで走るには十分な能力だ。
これらはだいたいにおいて、A-bikeよりも軽く、小さい。例えばキックボードは折り畳みが可能で、なおかつ重量は2〜4kg程度である。
近距離の移動手段にとって、人体への付加重量を最小にしつつ最大の移動性を付与するというのが絶対条件だ。だとすると、これらの乗り物は自転車よりも将来性があるのではないだろうか。
もちろん、そう簡単にはいかない。これらはまず、確実な停止手段を持っていない。止まる場合は靴底で路面を擦ったりスケートボードのように特別の停止テクニックを使ったりしなくてはならない。インラインスケートは、かかとの部分に、路面に押しつけて摩擦で止まる「ヒールブレーキ」を装備している。しかし使いこなすには、それなりの練習を積まねばならない。
「レバーを引けば必ず止まる」というような確実な停止手段を持たない乗り物は、路上の混合交通の中で使うには危険が大きい。
そして、ローラースケートも、スケートボードも、キックボードも、「タイヤが小さく段差に弱い」という問題点を抱えている。A-bikeの直径6インチ(15cm)の車輪でも、段差の乗り越えには注意が必要だった。
標準的なスケートボードやインラインスケートのタイヤは、直径2インチ(5cm)しかない。キックボードのタイヤは、直径4インチ(10cm)が標準的だ。中には8インチ(20cm)タイヤを付けた機種も存在する。しかしキックボードは操縦安定性を保つために、足を乗せる底板を、車輪の回転軸よりも下げなくてはならない。このためちょっとの段差でも車体がひっかかってしまう。
そしてなによりも、これらの乗り物を通勤通学で使うとなると法律の壁が立ちふさがる。道路交通法は、自転車など軽車両を、以下のように定義している。
第二条十一 軽車両 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。
さらに自転車は以下のように定義される。
十一の二 自転車 ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車(レールにより運転する車を除く。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のもの(人の力を補うため原動機を用いるものであつて、内閣府令で定める基準に該当するものを含む。)をいう。
内閣府令の一つである、道路交通法施行規則第9条の2では、自転車に対して以下の基準が定められている。
一 車体の大きさは、次に掲げる長さ及び幅を超えないこと。
イ 長さ 百九十センチメートル
ロ 幅 六十センチメートル
二 車体の構造は、次に掲げるものであること。
イ 側車を付していないこと。
ロ 一の運転者席以外の乗車装置(幼児用座席を除く。)を備えていないこと。
ハ 制動装置が走行中容易に操作できる位置にあること。
ニ 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。
これらによると、一輪車以外は、「ペダル又はハンド・クランクを用い」という定義から外れ、軽車両として公道を通行することができなくなる。一輪車も「ハ 制動装置が走行中容易に操作できる位置にあること。」という条件を満たしているかが問題となるだろう。
道路交通法76条には(道路における禁止行為等)には「交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。」とある。
現在、各地の警察はこの条文を敷延して、インラインスケートやスケートボードなどを「交通がひんぱんではない道路で遊ぶための遊具」と位置付けている。道路交通法の軽車両の定義の中で、「小児用の車以外のものをいう。」と、軽車両から除外されている「小児用の車」と同じというわけだ。小児用の車という言葉は、三輪車を念頭に置いたものらしいので、インラインスケートもキックボードも、三輪車と同じ扱いというわけである。
インラインスケートについては、地方自治体が条例で公道での走行を禁止しているところも多い。
欧米では、これらの乗り物を車両として扱かっている国もあるということだ。改めて日本の交通行政の貧困さを見る思いがする。
松浦晋也の「モビリティ・ビジョン」
過去の記事
- 電動モーターで変わるもの――社会に自動車を作る自由を2011年5月19日
- 折り畳み自転車を買おう2011年4月28日
- "ツボグルマ"の理想と現実2010年12月20日
- 大きくなる自動車2010年11月19日
- 自動車の社会的費用を巡る基本的な構図2010年10月21日