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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

高校生の健全なケータイ利用とメディアリテラシー教育を考える時が来た

2011年3月 8日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 先週は、京都大学の不正入試事件に関して各メディアからコメントを求められ、慌ただしい一週間だった。私は教育学者でもないし、大学教員としても駆け出しの身なのでコメントさせていただくのも僭越なのだが、学生のケータイ利用の実情という部分に関しては可能な限り取材に対応させていただいた。少しでも若者たちのケータイ利用実態について、多くの方に見識を持っていただくことが重要だと考えているからである(番組側の編集の都合で、こうした意図が伝わらないコメントもあったが)。

 それにしても、逮捕された予備校生も、こんな大事に至るとは考えていなかったに違いない。連日のマスコミ報道を見ていると、まるで殺人事件のような扱いだった。しかし、インターネットを悪用するということは、それだけ社会に大きな影響を与えるものであるということを肝に銘じるべきなのだろう。

 それよりも今回の事件では、わが国におけるメディアリテラシー教育の未熟さも明らかになったと見るべきではないか。

 日ごろから大学生を見ていると、本来中学・高校などで情報系科目を履修してきているにも関わらず、インターネットの活用などの「メディアリテラシー」は低いように感じている。学生たちの話を聞けば、高校までの情報関連の授業は、ワープロや表計算などのアプリケーション利用の教育が中心で、インターネットやメールの活用などはあまり学ぶ機会はなかったという。私の勤務先の大学にはアジア圏からの留学生も多いが、留学生はしっかりとPCやインターネットを使いこなしている一方で、日本人学生の大半は「ケータイだけで十分便利」と考えているようだ。PCの取り扱いやインターネット利活用の知識は留学生に比べ劣っているように感じる。

 日本のICT利活用における最大の特徴は、モバイルのインフラ(ネットワークと端末の両方)が世界のどの国よりも充実しており、またユーザーのほうもモバイルインターネットを世界のどの国よりも使いこなしていることにあると思う。ケータイならばボタン1つ押すだけでインターネットにつながる。思い立ったときにいつでもインターネットにアクセスし情報を活用できる。こんな素晴らしいことはない。

 しかし、その一方で、ケータイで身についてしまった「気軽に利用できるインターネット」によって、メディアリテラシーが十分に育めない一面もありそうだ。今回の京大事件は、予備校生がインターネット掲示板に書き込んでしまったことで大騒動になったわけだが、匿名なら気づかれないとでも思っていたに違いない。ある程度インターネットの仕組みや、情報倫理を理解していればこんな事件を起こすことも無かったはず。今回の事件を契機に、若者たちのメディアリテラシー教育の方法や内容を見直していくべきだろう。さらに言えば、タブレットPCの普及で同様な「気軽にインターネット」の環境は今後全世界的に広がって行きそうだ。インターネットの入り口の敷居の低さが及ぼす影響は、今後もしっかりとアカデミックな視点で追いかけて行きたいと思っている。

 気が気でないのは、こういう事件が起こると「ケータイは悪いもの」として捉えられ、排除するような流れが出てくることだ。ケータイは、もはや生活に無くてはならない重要なツールである。学生が卒業し、社会に出たら必ず必要になるものである。とかく「悪い一面」は目につきやすいものだが、むしろ「良い活用事例」はたくさんあるのに、なかなか注目されることが無いのは残念だ。

 以前にも告知させていただいたが、来る3月13日(日)に、大分市の大分全日空ホテルオアシスタワーにて、全国高校生ケータイ利用コンクール『ケータイ甲子園』が開催される。これは、高校生によるケータイ利用の自主的な取り組みを一堂に集め、優れた活動を表彰するというイベントである。高校生による学校での学習やクラスでの活動、部活動、地域活動を豊かにするケータイの様々な活用事例などを募集し、その中からとくに優れた取り組みを表彰するもの。

 第1回となる今年、コミュニケーション部門、アート部門両部門合わせ、全国から合計35件の応募があった。いずれも素晴らしい、ケータイの活用などの取り組みばかりなのだが、書類審査による予選で10チームに絞られ、いよいよ3月13日の本選で高校生たちがプレゼンテーションに望む。審査会は公開のため、どなたでも見学が可能だ。高校生による健全なケータイ活用の事例の数々を全国の教育関係者に知っていただくためにも、ぜひとも多くの関係者やマスメディアに見学頂きたい限りである。最終審査は『ケータイ世界の子どもたち』などの著書でご著名な、藤川大祐・千葉大学教育学部教授が審査委員長を務める。私も審査委員として協力させていただくことになっている。

「ケータイ甲子園」詳細はこちら
http://www.kt-koshien.jp/

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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