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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

電子書籍で重要なのはベストセラー比率 〜韓国の電子書籍事情から

2011年1月18日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 スマートフォンブームに続き、今年は各社がタブレット端末にも力を入れていくことが報じられており、こうした多様なデバイスを通じて電子書籍などの新たなコンテンツ市場が開拓されていくと見られている。そして、こうした電子書籍の流通を目論む各種企業がこぞって電子書籍ストアをオープンさせている。

 通信事業者系では、ソフトバンクグループはすでに「ビューン」を提供しているし、NTTドコモは大日本印刷と組んで「2Dfacto」を開設した。また端末メーカー系ではシャープが専用端末であるメディアタブレット「GALAPAGOS」を通じた電子書籍サービスを、カルチュア・コンビニエンス・クラブと共同で「TSUTAYA GALAPAGOS」として展開している。このほかにも、出版社系や書店流通系などの電子書籍ストアも参入するなど、電子書籍プラットフォームは乱立し始めているようだ。

 そんな電子書籍の将来を展望するべく、じつは昨年末に再び韓国・ソウルを訪問し、韓国における電子書籍事情を取材することができた。これから数回に分けて、本稿で報告させていただきたい。

韓国の出版市場の概況

 韓国の出版産業は、日本と同様に売上が減少しつつあるそうだが、一方で電子書籍市場の拡大にも期待を寄せている。日本では雑誌が出版市場の大きな割合を占めているが(5割以上を占める)、韓国では雑誌の割合は低い。韓国における出版の中心は教育系書籍や学習参考書などの学習系市場で、これがおよそ60%を占めるという。こうした統計から見ても、韓国は教育熱心な国なのだろう。次いで文芸書、実用書などで、専門書や漫画などは割合が低いという(財団法人韓国出版研究所 研究部長 ベク・ウォンケン氏談)。

 韓国は日本と同様な出版取次制度があり、再販制度が維持されてきたが、1980年代頃からアメリカ式システムが流入し、大手書店と出版社が直接取引を開始するなどして、書籍の割引販売が一般化していった。さらにインターネットの急速な進展により、書籍のオンライン販売も普及していった。アマゾンは韓国に参入していないが、韓国の国内企業がアマゾンのビジネスモデルに刺激を受け、1997〜8年ごろからオンライン書店が登場し始めたという。

 オンライン書店で売上No.1を誇るのが「YES24」グループで年間3,300億ウォンの売上を誇る。そしてインターパーク社が年間3,000億ウォンの売上で2位に続く。YES24グループの母体企業は、韓国で大手書店を展開している。日本でいえば紀伊国屋書店のようなイメージなのだろう。一方、2位のインターパーク社は大手インターネット通販企業。日本でいえば楽天のようなイメージだ。このインターパーク社がオンライン書店に参入し、書籍の通販も取り扱い始めて現在に至っている。ちなみに韓国の出版市場全体で年間2.5〜3兆ウォンの売上というから、市場で売れた書籍類の2割以上をこの2社が販売していることになる。

韓国の電子書籍事情

 韓国のこうした出版業界や出版流通に関わる多数の企業は早い時期からアマゾンの影響を受けてきた。そしてアマゾンのkindleと同様な電子書籍流通を模索し始めていた。

 インターパーク社で電子書籍ビジネスの陣頭指揮を取ってきたナム・インボン氏(現在、同社戦略企画室長)は、「オンラインでこれほどたくさん書籍が売れる。それなら書籍そのものを電子化すれば、より早く書籍を入手できる」と考え、電子書籍専用端末の開発を試みた。


韓国大手インターネット通販・インターパーク社で電子書籍事業を推進してきたナム・インボン氏

 同社はLG電子と組んで電子書籍専用端末「ビスケット」を開発し、昨年3月に発売を開始した。アマゾンのkindleに似た電子書籍端末で、同様な端末はこのほかにもサムスン電子(大型老舗書店のキョボ(教保)文庫と手を組んだ)や、iriverの「Story」、ベンチャー企業NEOLUXの「NUTT」などが市場を賑わせている。早いものでは2007年ごろからこうした電子書籍端末が登場していたそうだ。そして、これらの中で「ビスケット」は韓国で初めて3G通信機能を搭載したモデルになる。つまりアマゾンkindleのように、「思い立ったらいつでも電子書籍の購入が可能」というわけだ。


左からiriver「Story」、amazon「kindle」、「ビスケット」

 しかしながら、ナム・インボン氏いわく、専用端末による電子書籍販売は「正直なところ苦戦している」そうだ。インターパーク社では、ナム・インボン氏自ら出版社各社に何度も足を運び、出版物の電子書籍化や、インターパーク社を通じたオンライン販売への協力を熱心に働きかけてきたという。こうしてようやく5万タイトルにも及ぶ電子書籍コンテンツを取り揃え、そして昨年3月には専用端末の発売までたどり着けたものの、もうすでにその頃には、ユーザーの関心はiPhoneやiPadなどへ目移りしていたようだ。

 昨年は韓国でもiPadが発売されたほか、続々とandroid搭載タブレットも登場している。こうしたスマートフォンやタブレット端末を通じた電子書籍流通は順調に伸びているそうである。専用端末を購入するほどではないが(専用端末は25,000〜30,000ウォン程度するそうだ)、手持ちのスマートフォンやタブレット端末で気軽に電子書籍を購入できるなら試しにダウンロードしてみよう、といった需要なのだろう。

電子書籍サービス成功の鍵は?

 韓国の電子書籍流通は、日本と同様に端末メーカーや通信事業者と書店が連携し、独自のプラットフォームを形成して顧客を囲い込もうというスタイルで展開されている。ただし、日本の電子書籍プラットフォームの乱立は行き過ぎのような気がする。韓国でも、こうしたプラットフォームの乱立は、ユーザーにとっても出版社にとっても、メリットは少ないと考えている。そのため、当初はプラットフォームごとにサービスが展開されていたが、主要出版社と主要ネット書店により「オープン型フォーマット」を定め、さまざまな端末で共通のコンテンツを利用できるような仕組みに変わってきている。さらに、政府系団体でも「電子出版物の標準化に向けた動き」が出てきている。

 韓国の電子書籍市場は、まだ500億ウォンに満たないそうだが(2009年、前出のベク・ウォンケン氏)、韓国の証券リサーチなどでは今後倍々増の勢いで増加するという予測もある。インターパークのナム・インボン氏も、「電子教科書の利用増加と共に、学習系の電子書籍も伸びが期待できそう」とする一方で、「懸念なのがベストセラー率の低さで大きな課題」という。

 韓国では翻訳書の比率が高いが、翻訳書の場合は著作権の都合で韓国内の電子書籍化が難しいものが多い。しかも書店におけるベストセラーの多くはこうした翻訳書が上位を占める。そのため、電子書籍ではベストセラーの比率がわずか10%足らずだという。一方、アマゾンのkindleでは、70%以上がベストセラーだ(オンライン販売で上位30位の書籍のうち70%弱がkindleでも販売されている)。ナム・インボン氏いわく、ベストセラーの比率をいかに高めるかが、今後の電子書籍市場の重要な課題だと話されていた。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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