電子書籍の普及で図書館がどう変わるか? 〜韓国の電子書籍事情から
2011年1月24日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
前回に続き、韓国における電子書籍事情について書かせていただきたい。
新たなコンテンツ市場として、電子書籍市場の拡大に期待を抱いているのは日本も韓国も同じことであるが、重要なことはこうした電子書籍コンテンツを利用できる端末等の普及が鍵になってくるということ。わが国では、すでにケータイ等を使った電子書籍や電子コミックのサービスがある程度の市場を形成しているように、電子書籍のインフラとしてはどうしてもモバイル端末に目が向きがちである。世界市場においても、iTunes App Store におけるジャンル別で「Books(電子書籍)」がトップだという調査もある。しかし、コンテンツ流通を活性化させるためにはコンテンツのマルチプラットフォーム対応はもちろんのこと、コンテンツを多様なところで利用できるインフラ整備も重要になってくる。
韓国では、前回の記事で紹介したとおり、電子書籍の配信プラットフォームとしてタブレットPCや、電子書籍専用端末などに力を注ぎ始めている。しかしブロードバンド普及率で常に世界トップを独走するだけに、やはりPCを通じたコンテンツ流通も重視しているように感じた。コンテンツ流通にもFMBC(Fixed Mobile and Broadcasting Convergence)の考え方を忘れていないという感じだ。じつは、それを痛感したのは韓国の図書館を目の当たりにしたからだ。
韓国の一流大学の図書館は...
韓国の大学図書館が先進的であるということを噂に聞き、ソウルの延世(ヨンセ)大学へ足を運んだ。延世大学はソウルにおける私立大学の雄とされており、日本で言えば慶應義塾大学のようなイメージの大学だ。この大学では、従来からあった伝統的な図書館に併設して、サムスン電子の支援のもとでデジタル化を徹底的に推進した最新の図書館が開設されている。
入館し、使いたい施設をタッチパネルで予約。その情報はICカードタイプの入館証に記録される。
エントランス近くには、電子書籍も閲覧できるフリースペースが設置されている。PCの多言語対応も万全で、日本語のWindowsマシンも用意されていた。
電子書籍の新刊書を立ち読みするためのタッチパネル式大型ディスプレイ。
読みたい書籍の表紙をタッチすると、誌面を立ち読みできる。
閲覧室にはPC設置が欠かせなくなる
図書館に入るなり、電子化されたメディアを自由に閲覧できるフリースペースがお出迎えしてくれたのだった。企業の支援が入っているとはいえ、その設備の充実ぶりには驚かされるばかりだ。そして、いよいよ図書館の内部に足を進めていく。一般的に図書館の「閲覧室」というと、日本の場合は机と椅子が用意されていて、そこで開架図書を読んだり、図書やノートを開いて勉強をしたり、という風景を思い浮かべるはずだ。
しかし、韓国の図書館における「閲覧室」では、机と椅子に加え、PCの設置も一般化しようとしているようだ。勉強するのにPCは欠かせないということだけではない。やはり蔵書の電子書籍化が進めば、閲覧のためにPCの設置が必須になってくるということなのだろう。
これは、蔵書の「検索ブース」ではない。このようにPCが並んでいるが、このブースこそ「閲覧室」なのである。書籍などのメディアがデジタル化していけば、閲覧にはPCが必需品だし、勉強にPCは欠かせないということだろう。
ノートPCなどを持参する学生向けの、電源だけ用意されているコーナーもある。しかし、街中の至る所に無料でPCが利用できる環境がある韓国では、ノートPCを持ち歩くというユーザーは少数派なのだろう。
グループでディスカッションするためのブースも用意されている。
ディスカッション用ブースを隙間から覗き見してみたが、PCやホワイトボードが用意されており、学生さんたちは熱心に議論を重ねていた。
まだまだ紹介しきれないのだが、延世大学の図書館は見事な限り情報化も進み、電子化されたメディアを自在に閲覧したり、活用できる環境が整えられていることに驚かされた。ところで、こうした光景はたまたま一流大学の図書館だったからなのだろうか? さらに韓国の図書館事情を調査するべく、国立の図書館にも足を運んでみた。それはまた次回に続く。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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