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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

ケータイカスタマイズに対する考え方もオープン化してきた!

2011年1月11日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 新年あけましておめでとうございます。本年も、モバイル業界のオープン化に向けた様々な話題にフォーカスを当てながら、業界の将来展望を論考していきたいと考えています。どうぞ、ご愛読頂けたら幸いです。

 さて、昨年はスマートフォンが大躍進し、今年はさらにスマートフォンにもバリエーションが多様化していきそうで、一層の盛り上がりが期待されている。またスマートフォンに付随する様々なコンテンツやビジネスも話題に上ってくるが、その中で筆者が特に着目しているのが、スマートフォンの「カスタマイズ」に関するビジネスだ。

 昨年末、白ロムケータイ販売で老舗のケータイパラダイスから1通のプレスリリースが届いた。それによれば、iPhone 4 をホワイト化するパーツの通販を本格的に開始するという。iPhone 4 は、発売当初からホワイトモデルの発売がアナウンスされ、ブラックモデルを追いかける形で2010年7月下旬には出荷が開始されるといわれていた。ところが発売がたびたび延期され、いまだに目処は見えてこない。

 いっぽうで、iPhone 4 をホワイト化する改造キットがネットを通じて各所で販売されはじめたようで、筐体を換装した端末を巷でチラホラ見かけるようになってきた。ただし、インターネットでカスタムパーツを購入した方々のコメントを見ている限り、粗悪品もかなり多いらしく、関心はあるものの踏ん切りがつかないでいた。

 そんな矢先に、最近では香港版iPhoneや、Xperiaなどのスマートフォンも本格的に取り扱い始めていたケータイパラダイスが、iPhone 4 ホワイト化キットの発売を正式に宣言してきたのである。同社であればホワイト化キットの製品クオリティに関しても信頼できそうであるし、早速ネットからキットを注文し、iPhone 4 のホワイト化に挑戦してみた。

 届いたキットは、Phone 4 のバックパネル、フロントパネル(液晶とタッチパネル一体)、イヤホンジャック部とドックコネクタ部(覗いて見える穴の内部パーツもホワイト化する)、ホームボタンの計5点で構成される。ただ、このホワイト化キットは端末の加工に自信のある上級者向けだ。注文して届いたのはあくまでパーツのみで、換装の手順などは自分で調べるしかない。また分解には端末底部の2本のネジを外す必要があるが、このネジを回すには専用ドライバーが必要である。これもネット通販で探す必要がある。

 iPhone 4 の分解手順はネットを検索すればいくらでも出てくる。それらを参考に、早速自分も換装に挑戦...。ちなみに、端末を分解することになるので、iPhone 4 の保証適用外であることはいうまでもない。ホワイト化改造は「自己責任で」ということになる。

 噂には聞いていたが、iPhone 4 の構造はじつに手が込んでいる。しかも内部の密度が非常に濃い。隙間が全くないのだ。また、金属素材をふんだんに使用し、内部のネジの本数も驚くほど多いほか、部品点数もかなり多い。iPhoneがいかに製造コストが掛かっている製品なのかと思わず感心してしまった。

 ところで作業し始めて気がつくのだが、じつは表面パネルを交換するためにはほぼ完全にiPhone 4 をばらさなくてはならない。これはかなり手ごわい。筆者の場合、なんとかiPhone4をバラバラにすることまではできたのだが、ホワイト化パーツをくみ上げていく上で、正直なところ何が何だか分からなくなってきた。ネジも外した順に並べていったのだが、どれがどこのネジだか分からなくなって大混乱。もちろん分解過程は必要に応じてデジカメで撮影して、どこにどういうコネクタが接続されていて、プリント配線はどこをどのように通してあって...、ということも記録しながら進めていたのだが、やはりなかなか元通りに戻せないのである。しまいには、力任せにプリント配線を引っ張って、パーツの配線を思わず断線させてしまい、これでもう元に戻せなくなることを悟ることに...。

 そのようなわけで、改造途中で断念し、破損したパーツの再購入と、改造の続きのお願いのため、取材をかねてケータイパラダイスに向かった。正直なところ、このホワイト化改造は高度なテクニックと経験の積み重ねが必要そうだ。自信がなければ、最初からケータイパラダイスに依頼すべきと痛感。

 ケータイパラダイスでは、代表取締役の吉野 忍氏が応対してくださった。もともとは8年前から中古ケータイ端末の取扱を始め、白ロム専門ショップとして君臨してきた。そして昨今では、海外ケータイやSIMフリーiPhone、スマートフォンの取扱なども行うようになった。そして、今回のようなiPhoneのカスタムパーツの取扱も開始したのである。吉野氏いわく、ケータイの買換えサイクルが長くなっていて、さらにスマートフォンになれば従来のケータイ以上に様々な個人のデータが端末の中に保存されていくようになり、買換サイクルはますます長くなるはず。そうしたなかで、自分のスマートフォンを飽きずに長年使うために、このようなカスタムパーツの需要が伸びてくると予測。この考え方は筆者もまったく同感で、筆者のiPhone 4 も使用半年で正直なところ外装は傷だらけ。これがホワイト化を兼ねて外装が新品になるわけだから願ったりかなったりなのだ。

 ケータイパラダイスでは、吉野氏自ら中国に飛び、高品質なアクセサリを製造する工場と直接契約を結び輸入販売に踏み切ったということだ。実際、スタッフの厳しいクオリティチェックを経てカスタムパーツが出荷されていた。

 さてさて、そんなインタビューをしている間に、傍らで技術担当者が作業してくれていた筆者のiPhone 4 が、ホワイト化換装完了。じつに手際よい作業だった。

 ところで、こうしたケータイ端末の筐体換装は、かなり以前からグローバルモデルでは存在していた。筆者のケータイコレクションの中にも、たとえば1992年発売のセルラーHP-521(モトローラ・マイクロタックII)をフルスケルトン改造したモデルなどを所持しているが、世界で市販されている端末ではこうしたアクセサリがサードパーティによって発売されていた。

 しかし、わが国ではケータイの改造はご法度で、下手をすれば「無線機の改造」として懲役もしくは罰金刑が科せられる可能性もあった。1997年に大ヒットしたNTTドコモ・P203ハイパーでは、おそらくわが国で初めて、サードパーティによるスケルトン改造パーツが発売されたが、当時はまさに「禁断の改造」という心持で、密かにスケルトン端末を楽しんだものである。もちろん今でも、ケータイを分解するというと非常にダークなイメージが付きまとう。これには、あくまでケータイが「無線機」であるという認識から来ているのだろう。

 今回のiPhone 4 の筐体換装を見ていて感じたのだが、iPhone 4 は確かにわが国ではケータイと同じカテゴリに属する電子機器なのかもしれない。なので筆者も罪の意識を感じつつホワイト化したiPhone 4 を眺めているのだが、iPhone 4 向けのこうしたカスタムパーツを提供している各社の認識は、もはやiPhone 4 (およびスマートフォン)はケータイではなく、「コンピュータ」と同じカテゴリとして考えているのだろうと感じた。

 分解したところで、無線部分に手を加えているわけではない。コンピュータとして考えれば、たとえばメモリ増設やハードディスク換装など、ユーザーが自らコンピュータの筐体を開けて加工するのが日常的である。iPhone 4 も「コンピュータ」として考えれば、分解してバッテリーを交換したり、筐体をリフレッシュすることに、もはや罪の意識を感じる必要はないのだろう。

 そう考えると、やはりiPhoneは黒船だ。そしてスマートフォンというカテゴリの端末が、従来のケータイとは一線を画す新しいジャンルの製品であることを意識せざるを得ない。筆者は各所の講演などでスマートフォンを説明するのに『ケータイは電話から発展してきた機器、スマートフォンはパソコンから発展してきた機器』と説明することが多いが、この説明にも自分ながら納得してしまったところだ。

 ちなみに、ケータイパラダイスではホワイト化キットに続いて、iPhone4をカラフルに彩る背面パネル製品も販売開始している。こちらはより気軽に、そして個性的にiPhoneを楽しめそうだ。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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