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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

移動しながら使えるというのが「モバイル」の本筋

2010年8月16日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 ケータイ各社を比較するための指標として、たとえば純増数とかARPUとか、人口カバー率などが話題となる。しかし、こうした指標自体の信頼性が薄らいできたという指摘もある。人口カバー率にしても、各市町村単位で、市町村役場を通信エリアにできれば、その市町村の人口は100%利用可能とカウントされるらしい。したがって、先の大規模な市町村合併では、各社の人口カバー率は一層向上したのだろう。

 さて、唐突だが我が愛車の通信装備についてご説明しておきたい。長らく愛用してきた自動車電話(TZ-820A無線機+E209自動車電話ハンドセット+ハンズフリー装置)に加え、iPhone(社外製ホルダ+充電機能)を装着。さらにNOKIA製のBluetoothハンズフリーキットも装備し、iPhone宛に掛かってきた通話もハンズフリー通話が可能になっている。また、10年落ちの愛車に備えられている純正カーナビは古すぎて使い物にならないため、ナビゲーション代わりにiPhoneの「全力案内!ナビ」(ユビークリンク、年額900円)を愛用。以前は、auの「助手席ナビ」なども試していたが、月額315円の助手席ナビを1年使い続ければ、年間3,780円。一方「全力案内!ナビ」は900円するのでアプリダウンロード時は一瞬ためらうが、長期の利用を考えれば助手席ナビに比べて遥かにリーズナブルだ。

 じつはこんな愛車でドライブしながら、各通信事業者のエリア状況を確認するのが楽しいのだが、最近はあまり遠出する機会が無かった。しかし今年はこのお盆休みを利用し、思い切って東北方面にドライブに出かけてみた。自宅を出発し、関越自動車道経由で新潟を抜け北上、一般道に下りて山形県に入り、鶴岡市、新庄市、金山町を抜けて峠を越え、秋田県の湯沢市に入り、小安峡温泉に宿泊。帰りはここから栗駒山を回って、岩手県の一関に抜け、東北自動車道を経て帰宅するという約1,000kmのルートだ。

 いつもであれば、出張に行く際はPCや通信機材をごっそり鞄に詰め込んで出かけるところだが、今回は愛車で移動するという気安さから、iPhoneとiPad、b-mobile WiFi(NTTドコモ FOMA網利用のWiFiルータ)だけを鞄に放り込んで、いつにない軽装備での旅となった。

 日ごろから地方出張の多い筆者であるが、それでも出張先は県庁所在地ばかりなので、これまでのiPhone利用において、それほど不都合を感じることは無かった。ところが今回のドライブでは、山間部の移動が主体となったため、改めて通信エリアのキャリアごとの差について考えるきっかけとなった。

 新潟県村上市を抜け国道7号を北上したが、市街地を抜けると、ソフトバンクモバイルはほとんど「圏外」。もちろんNTTドコモのほうも「圏外」になるが、要所要所で電波が入る。そして、宿泊先の小安峡温泉に向け国道398号を走っていったのだが、途中からソフトバンクモバイルは完全な「圏外」となった。ちなみに、NTTドコモは、この小安峡温泉まではFOMA、PDCともかろうじて利用可能だった。念のためb-mobile WiFiを持ってきて本当に良かった。これがなければ一切メールの送受信さえ出来なかったところだ。

 小安峡温泉で宿泊の後、ここから国道398号、342号を抜けて岩手県の一関に向かったが、一関の厳美渓手前辺りまでの約2時間はソフトバンクモバイルはずっと「圏外」。一方のNTTドコモは栗駒山付近の須川温泉が通信エリアとなっており、さらに岩手県側に入って、真湯温泉あたりから一関まではずっと通信エリアとなっていた。

 加入者数や売上規模から比較しても、ソフトバンクモバイルが設備投資に掛けられるコストはNTTドコモに及ばないのは致し方ないが、いざというときにケータイが役立たないのでは困る。今後のエリア充実に期待したいものだ。

 さらに、今回クルマで移動して感じたことは、とくにソフトバンクモバイルのエリアに関して、集落ごとにスポット的にエリアを形成しているような印象を受けた。自動車電話時代から移動体通信動向を追いかけてきた筆者としては、ケータイは「移動しながら利用するもの」と捕らえている。そもそも自動車電話・携帯電話が素晴らしかったのは、「ハンドオーバー」という技術を盛り込み、移動しながら通話・通信を可能にしたことだ。なので、こうしたスポット的なエリアを整備して「ケータイが利用できます」と言われても、それが果たして「モバイル」なサービスなのかと疑問に感じてしまう。

 これは、山間部の話だけでなく、たとえば地下鉄のエリア整備についても同様だ。地下鉄の駅間で電波が途絶えることに不満を抱えているユーザーも多いはずだ。世界の地下鉄ではトンネル内も通信エリアになっているところが多いのに、なぜ日本の地下鉄(福岡市を除く)では電波が入らないのか。

 昨今のケータイに関する話題といえば、もっぱら新端末や新サービスばかりに目が向けられがちだが、通信事業者の本来の使命は通信インフラを充実させていくことにあるはず。端末やサービスも大切だが、本来はここでしっかりと勝負するべきなのではないか。今後も、各社のエリア整備に期待したいものである。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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