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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

「モバイル」に本当にふさわしい割当周波数帯域とは?

2010年8月23日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 米国を中心とした世界のモバイルに関する情報源を日本に送り届けてくださる海部美知氏の最新のレポートがWirelessWire Newsに掲載されている。テーマは「第四次世界周波数バトルを斬る」。日本国内、および世界のモバイルサービスへの周波数割当の経緯が分かりやすくまとめられている。

 筆者はこれまで、かつての自動車電話時代から国内モバイルサービスを使い倒してきた。いわゆる1Gサービスであったアナログ方式(大容量方式、TACS方式等)時代に自動車電話・携帯電話に目覚め、2Gサービスのデジタル方式(PDCフルレート、PDCハーフレート方式等)、現在主流の3G方式では、それぞれサービス開始時から実際に自分自身で利用し、その体験を長年に渡って各所に綴ってきた。

 通信方式の違いに加え、やはりモバイルサービスの品質を左右する要素として周波数の問題は大きいと感じている。

 CDMA技術が使われる現代のモバイルサービスでは、その技術によって通信品質(通話品質)が劇的に高品位になっているので、周波数による品質の差は分かりづらくなっていると思う。しかし、アナログ時代から、かつてのPDC方式あたりまでは、周波数による通信品質の差はとても明確だった。

 初期のアナログ方式の時代は800MHz帯のみのサービス提供だったので、これを基準に通信品質を考えるようにしている(私が自動車電話を体験する以前には、400MHz帯を使った移動通信サービスも存在したようだが)。アナログ方式のサービスは、いわばFMラジオ放送のような感覚で、電波状態がよければ非常に音声はクリアだ。しかし、電波の入りが悪くなるとノイズが増え出し、ひどい場合は音声よりもノイズのほうがレベルが高くなるほどの場合もある。ただ、ノイズの聞こえ方で「電波状態を聞く」ことができるので、通話位置や向きを変えることで、音質の改善は容易だった。ある程度電波が届いている限り、通話断もほとんど無かった。

 1993年にはデジタル方式(NTTドコモによるPDC方式)のサービスがスタートした。デジタル方式では、音声を符号化して送受信することで、周波数帯域をより効率よく利用できるようになると共に、アナログ特有の「ザザッー」というノイズは聞こえなくなった。ただ、電波状態が悪い場合は送受信される音声信号が一部抜け落ちてくるため、音質が落ちたり、音声が一部欠けたりした。したがって、アナログ方式とはまた感覚が異なるものの、電波の質を耳で聞き分けることはできた。

 1994年には1.5GHzという新しい周波数帯を使った新規通信事業者が参入した。すなわち、ツーカーグループ(現在サービス終了)、デジタルホングループ(現在、ソフトバンクモバイル)が参入を果たしたのである。両グループともNTTドコモと同じPDC方式を採用していた。もちろん筆者は、これらのサービスも開業初日から使ってきた。

 当時のNTTドコモは、800MHz帯を使ってPDC方式のエリア拡充を進めていった。ツーカー、デジタルホンと同じ通信方式ながら、利用する周波数帯域が異なっていたのである。この頃、はじめて800MHzと1.5GHzとの使い比べができるようになった。そして、明らかに「電波の特性が異なる」ということを、各社の携帯電話を使い比べることで知ることができた。電波は一般的に、周波数が高いほど直進性が強くなるといわれているが、これを明らかに体感することができたのである。

 800MHzであれば、電波の回り込みは明らかで、建物の奥に入っても音声品質はそれほど変わらない。一方で、ツーカー、デジタルホンの携帯電話では、明らかに「壁に弱い」印象を受けた。

 NTTドコモのエリア整備が優秀だったからでは?とのご指摘も受けそうだが、当時(1994〜1998年ごろ)私が主に携帯電話を使い比べていたエリアは、東京の銀座、有楽町、丸の内、霞ヶ関周辺だったので、一部の通信事業者のエリアが薄いなどということは考えられなかった。加入率もまだわずかな時代からの使い比べであり、利用者がほとんど居ない時代であったので通信品質は極めて良好だった。そうした環境の中で、しかも同じ通信方式で800MHzと1.5GHzの周波数の違いを「耳」で確かめてきたのである。

 2001年には3GサービスであるFOMAや、J-PHONE 3Gサービス(当時のサービス名:Vodafone Global Standard)が2GHz帯を使ってサービス提供を始めた。当然、電波の回り込みの差は、2Gサービスである800MHz帯、1.5GHz帯のものと比べ歴然と感じたものだった。2GHzになると、ますます障害物による電波の回り込みが厳しくなる。さらに、この初期の3Gサービスでは、NTTドコモとJ-PHONEとで同じ周波数帯という条件の中で比較できたので、両社の基地局の密度による差も体験できた。やはり初期は明らかにJ-PHONE 3Gの電波は「薄い」と感じたものだった。

 冒頭の海部美知氏のレポートに戻るが、今後のモバイルサービスは、国内外ともにさらに高い周波数帯域が割り当てられ、利用されていくことになりそうだ。周波数の有効活用という観点からも、さらにより高密度な情報を電波に乗せるという点でも、周波数帯域が高くなっていくのは致し方ないところなのだろう。

 前回のコラムにも書かせていただいたが、ケータイは「移動しながら利用できる」ものであるべきだ。前回のコラムを執筆後、多くの読者の方からご意見をいただけたが、「ワイヤレス」と「モバイル」の違いを再認識したというようなメッセージを多数頂戴した。そういう点から懸念することは、周波数帯域が高くなるほど、サービスのイメージが「モバイル」から「ワイヤレス」化していってしまわないだろうか。果たして、安定したハンドオーバーが高周波数帯域でも可能なのだろうか。ぜひとも、移動しながらでも安定した通信・通話品質を保った通信サービスの構築に期待したいものだ。また周波数帯域が高まっていくことで設置すべき基地局数を増やす必要も生じてくるわけで、それらのコストが通信料に跳ね返ってくるのも困る。であれば、もっと低い周波数帯域の周波数をなるべく有効活用してもらいたいものだ。

 また、せっかく3Gサービスでは世界で周波数割当の足並みが揃いつつあったところだが、海部氏の指摘によれば、次世代サービスでは世界でまた割当周波数がバラバラになっていく懸念もあるという。国内の3Gサービスにおいても、一部のコアユーザーの間では、イー・モバイルだけ1.7GHz帯域のW-CDMA方式が採用されていることに、もどかしさを感じているはずだ。これが2GHz帯の割当なら、利用できる端末のレパートリーも多くなったはずだからだ。利用できる端末のレパートリーや、端末開発のコスト削減を進めていくためにも、ある程度世界で利用周波数帯域の足並みを揃えることは重要と考える。

 なお余談ながら、「移動しながらでも切れない」ということを振り返ってみたところ、筆者は2005年に上海のリニアモーターカー車中で、時速430km/hでも通話が可能だったことを自身のブログに綴っていた。通信方式はGSMとCDMA2000で、おそらく周波数帯域は900MHzと思われる。中国などアジア圏では、電車車内などでも基本的に周囲にはお構いなしに「通話」をしている。「モバイルは移動しながらでも利用できるもの」とは、日本人以上に痛感しているに違いない。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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