MediaTekとNTTドコモのライセンス契約締結の意味するところ
2010年8月 3日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
すでに各所で報じられているが、先週、台湾のMediaTek社とNTTドコモの共同記者会見が開催され、NTTドコモとNECカシオモバイルコミュニケーションズ、パナソニック モバイルコミュニケーションズ、富士通の4社で共同開発した、LTEの基本的な機能の開発が不要となるLTE対応通信プラットフォーム「LTE-PF」のライセンスをMediaTek社にライセンス供与するという。
ただ、それらの記事を見る限りでは、MediaTekがどういう事業を行っている企業なのかがなかなか伝わってこない。さらに今回のNTTドコモとの提携が、今後わが国の携帯電話端末ビジネスにどのような影響を与えるものかまで踏み込んだ内容のものは少ない。日本国内からの視点で見れば、NTTドコモが台湾の一企業にわが国の技術力を結集したLTEプラットフォームを供与し、ライセンス収益を上げていくという話に尽きるが、じつはMediaTekは米Qualcommに次ぐ世界2位の携帯電話向けチップセットメーカーであり、今後携帯電話端末開発に及ぼす影響はとてつもなく大きいものと感じている。
じつは私のところにもこの記者会見の案内が来ていたため、ぜひとも取材に赴いてMediaTek側の本音の部分を取材したかったのだが、よりによって当日は本務大学の避けられない校務があったため、会見には出向けなかった。MediaTek社が初めて日本で公式な会見を行う機会だったのに、まことに残念だった。したがって、以下は筆者の憶測も含まれることをあらかじめ断っておくが、今回の提携によって近い将来どのようなことが考えられるのかを記したい。
中国では、俗に「山寨機(さんさいき)」と呼ばれるノーブランドの携帯電話端末が多数流通していることが知られている。筆者も、タバコ型ケータイ、クルマ型ケータイ等、じつにユニークなオモチャのような中国製ケータイを所持しているが、じつはこれら「山寨機」に搭載されている端末プラットフォームのほとんどがMediaTek製だといわれている。もちろん、山寨機に限らず、一流メーカーの端末にもMediaTekのプラットフォームやチップセットなどが採用されている。
2009年の中国市場における携帯電話端末販売数は1億6,800万台とされるが、公式に公表されているこの販売数には山寨機の販売実績は含まれていない。じつは山寨機だけでも中国市場において4,000〜5,000万台売られているという。さらに中国国内にとどまらず、いまやアフリカなどの新興市場に輸出も始まっているとされ、山寨機自体の生産はすでに年間1億台を超すとされている。
こうした山寨機と呼ばれるノーブランド端末が、なぜ市場に流通できるのかというと、まさに「汎用的な携帯電話プラットフォーム」が存在するからである。わが国で端末プラットフォームというと、チップセットだけのイメージが付きまとうが、中国の場合は、まるで携帯電話組立キットのような形でパッケージ化された端末プラットフォームが売られている。すなわち、基板上にチップセットと無線制御部、アンテナ、さらにディスプレイや制御用のボタン(数字キー)、スピーカー、マイク、SIMカードスロット、携帯電話を制御する基本ソフト(OS)など、携帯電話として機能させるためのほぼ全てのデバイスが一体となって、市場に流通しているのだ。
オリジナルの携帯電話を製造したいと思い立てば、まずはこうした端末プラットフォームを仕入れ、そして端末外部の筐体だけ企画・製造し、あとはOSをオリジナルにカスタマイズするだけ。これでオリジナルの携帯電話を市場に提供できるようになっているのである(日本でいう認定・検定のような制度もあるが、本当に端末が検査を受けているのかグレーだ)。MediaTekは、じつはこうした市場にまでも進出している。したがって、NOKIAやSAMSUNGといった端末メーカーのように表にMediaTekの名称は出てこないものの、じつは世界で市販される多くの携帯電話端末にMediaTekのプラットフォームが使われているということが想像できる。
今回のNTTドコモとMediaTekの提携は、MediaTekが日本市場に本格的に参入することを狙っているに違いない。さらには、今後世界に広がるLTEネットワークに向けて市場を拡大していこうということだろう。NTTドコモにとってはライセンス料収入が得られるが、日本の端末メーカーは今後MediaTekとどのように付き合っていくことになるのだろうか。
日本の端末メーカーが独自に端末を開発し、市場に供給していくには相当のコストが掛かる。一方で、世界市場向けに相当数の端末プラットフォームを供給してきたMediaTekならば、かなり安価に端末プラットフォームを製造できるに違いない。したがって、日本の端末メーカーもMediaTek製の端末プラットフォームを積極的に採用するという流れに乗らざるを得ない。となれば、ますます日本の端末メーカーの独自性は薄れ、世界トップシェアの端末メーカーとの格差がますます広がっていくことが避けられなくなるのではなかろうか。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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