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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

「SIMロックの解除に関するガイドライン」が公表に

2010年7月 5日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 総務省が示していた「SIMロックの解除に関するガイドライン」案に対する意見募集が6月23日まで行われていたが、この意見募集の結果を踏まえ、6月30日に正式にガイドラインが打ち出された。ガイドラインは案を踏襲する形となり、2011年度以降に新たに発売される端末で、対応可能なものからSIMロック解除を実施することとなった。また、「通信事業者による主体的な取り組み」で実施されることが明記されている。

 意見募集では、法人・団体から13件の意見が寄せられたほか、原口総務大臣のTwitterでの議論から誘引された形で、個人からの意見も34件が寄せられている。その意見内容と、総務省からの回答を一通り目を通してみた中で、筆者なりに感じたことを記しておきたい。

 著者の率直な考えだが、すべてSIMロックが解除される必要はないと考えている。SIMロック付きながらも、安価に端末が購入できるのなら、それはそれでありがたい。ようするにユーザーが選択できる環境が重要と考える。さらに、既存のケータイサービスでSIMロックを解除したところで、メリットはほとんどない。ただし、全ての通信事業者で同じ通信方式(LTE)が採用されることが決まっている3.9Gサービスや、その先の4Gサービスの展開の時点で、利便性の高い、よりバリエーション豊かなサービスを期待するためには、現段階からSIMロックのあり方について、サービス提供者のみならず国民をも含めて議論しておくべきものと考えている。

 各通信事業者の言い分もそれぞれ理解できる。SIMロックが解除され、一番不利な条件に置かれるのはソフトバンクモバイルだろう。料金や端末価格で他通信事業者よりも安価に提供する努力が求められるし、一方、iPhoneのような人気端末をSIMロックによって独占できているのも事実だ。また、SIMロックによってiPhone4は世界のどこよりも安価に利用できることを孫正義氏がTwitterで発言されていたが、確かにそれはそれでユーザーにとってありがたいことに違いない。

 SIMロックにより現ユーザーがとくに不利益を被りやすいのが海外でのデータローミング利用時だ。筆者も昨年、中国に渡航した際、iPhoneでのデータ通信料がわずか半日で3万円を超え、驚いた経験がある。SIMロックが無ければ、現地のプリペイドSIMカードに差し替えて安価に利用することもできる。

 こうした点について、ソフトバンクモバイルは『現在の市場において、海外渡航時の携帯電話の利用にかかる利便性向上等の観点で、SIMロック解除に対する利用者ニーズが存在することも事実です。従って、弊社では、必要な対応を検討のうえ、利用者利便の向上のための自主的な取組を実施していく所存です。』という意見も提出している。その後、ソフトバンクモバイルは6月28日に「海外パケットし放題」を発表した。SIMロック解除には慎重な対応を求めてきたソフトバンクモバイルだが、一方でユーザーの意見を拾いながら、いち早く対策サービスを具現化させていくこの姿勢は、SIMロック解除議論とは別にしても、大いに評価したいところだ。

 またNTTドコモは、『周波数や通信方式、更にはサービスの違いにより、SIMロック解除の実施にあたって制約条件があることは事実ですが、お客様がその点を理解した上でSIMロック解除を要望されるのであれば、事業者として応諾すべきとするのが基本であると考えます。』と意見するなど、SIMロック解除には比較的前向きな印象である。

 この「ケータイ開国論II」の第1回記事でも触れたが、かつて'90年代の携帯電話サービスはSIMカードすら採用されておらず、また日本独自のPDC方式を採用して世界からは孤立していたものの、サービス自体は案外オープンだった。とくにNTTドコモの懐は深く、他の通信事業者向け端末でも、通信方式と周波数が同一であれば端末持込で回線契約を締結できた。ところが1999年以降、iモードサービスがNTTドコモの躍進に大きく貢献したが、逆に言えばこのiモードが通信事業者のサービスを閉鎖的なものにしていったと感じている。それ以前は通信事業者を超えて持込契約できた端末も、iモード以降は独自サービスが利用できないというだけにとどまらず、通話機能さえ動作しない端末も現れた。

 おそらく、iモード以前は各端末メーカーも、他の通信事業者でも利用できることを想定した端末設計をしていたが(実際、NTTドコモの端末を当時のIDOやセルラーで契約すると、ちゃんとローミング設定メニューなどNTTドコモのサービスに無い機能もメニューに現れた)、iモード以降は端末メーカーも各通信事業者の独自サービスの実装に労力を奪われ、他の事業者での利用を想定した端末設計などできなくなっていたのだろう。

 もはや日本の端末メーカーは、技術力こそ世界トップレベルであることは間違いないが、ケータイ端末の開発製造に限っては事実上通信事業者からの受託生産品になってしまっており、端末メーカーがモチベーションを発揮できる端末作りは困難な状況だ。NTTドコモの意見の中に『SIMロック解除の実施にあたっては、ユーザ利便性や公正競争条件確保の観点から、携帯事業者4社が歩調を合わせるべきであり、とりわけ対象端末について事業者の裁量を極力排除する取組が必須であると考えます。』というくだりもあるが、これが本当に本心であるならば、ケータイ鎖国からの開放へ大いなる第一歩となるに違いない。

 ところで、一番気にかかるのはKDDIの様子だ。公開ヒアリングの際の意見陳述でもそうだったし、今回の意見募集においても『SIMロック解除についても、ユーザーニーズが高まればメーカーや事業者が自ずと取組んでいくものと認識しています。』と意見を提出しているが、どうもこの通信事業者はSIMロック解除議論において、まるで当事者意識が感じられない。

 個人から提出された意見の中には、具体的にKDDIのSIMロックの問題に言及しているユーザーが多数いる(KDDIのSIMロックは、契約者個人を縛るものであり、同じKDDI端末でも契約者が異なれば利用できない)にも関わらず、当のKDDI自身はまるで「他人事」を決めているようだ。KDDIがSIMカードを採用した当時から色々なところで、こうしたユーザーの不満が報告されているにも関わらず、依然として「ユーザーの意見を聞く耳」を持たない通信事業者なのだろう。

 ちなみに、こうしたKDDIのSIMロックの問題に関する個人からの意見に対し、総務省は『「3 定義」に記載のとおり、本ガイドラインにおいて、「SIMロック」とは、特定の事業者のSIMカードを差し込んだ場合のみに動作するよう、端末に設定を施す、いわゆる「事業者ロック」のほか、特定の利用者のSIMカードを差し込んだ場合のみに動作するよう、端末に設定を施す、いわゆる「ユーザロック」を含む概念です。』と説明している。つまり、ストレートにKDDIのSIMロック施策の問題に言及しているのだ。来年度以降、KDDIが自社のSIMロックに対してどういう措置を取るのか、要注目である。

 KDDIの既存ネットワークに関しては、他の通信事業者と異なる通信方式を採用しているので、仮にSIMロックが全面的に禁止されたところで、痛くも痒くもないと思っているのだろう。SIMロックが無くとも、KDDIの端末は他の通信事業者で利用できないし、その逆もあり得ない。同じCDMA2000方式でも、海外とは異なる独自方式のため、海外の端末が流入してくる心配も無い。このため、今回のSIMロック解除議論は「他人事」としているのかもしれないが、筆者からすると一番心配なのはKDDIだと思っている。

 次世代(3.9G)でLTE方式を採用するにしても、当面は現行ネットワークとのデュアル端末の導入が必要不可欠だ。したがって、KDDIは向こう5年は独自端末を作り続ける必要が生じてくる。一方、NTTドコモやソフトバンクモバイル、さらにイー・モバイルは、SIMロック解除のついでに共通で利用できるグローバル端末も増えていくであろうし、量産効果も出てより安価に端末を調達できる環境に移行していくかもしれない。こうなると、NTTドコモやソフトバンクモバイルの端末は3〜4万円で購入できるのに、KDDIは他の事業者で使い物にならない限定的端末にも関わらず販売価格は7〜8万円する、などという事態になりかねない。しかも他の事業者よりも端末価格を安価に設定しなくてはならず販売奨励金を打ちまくり、いずれ経営が成り立たなくなっていく…。まるでかつてのツーカーを見ているようだが、こういう負のスパイラルに陥る前に、早く現状の問題を受け止め、善処していってもらいたいものだ。

 今回打ち出されたガイドラインでは、総務省は『当分の間、法制化に係る検討は留保することとし、事業者による主体的な取組によることとした』とし、具体的な法制化は明示していない。つまり、通信事業者が主体的になって取り組めとしているのだが、こうした取り組みを評価していくのは、もちろんユーザーであるべきだろう。

 かつて2007年に、総務省が打ち出した『モバイルビジネス活性化プラン』でも基本的には通信事業者の自主的な取り組みに委ねられた。結果的にこのプランを受けた販売奨励金見直しで端末価格が高騰し、わが国のケータイ端末販売は低迷。しまいには「総務省不況」などと叫ばれるに至った。(「モバイルビジネス研究会」の意図を正しく報道できていなかった大半のマスメディアにも問題はある)

 しかし、なぜ端末が売れなくなったのかを冷静に見ていけば、じつは総務省の施策に問題があったのではなく、こうした施策を受けて「守り」に入った通信事業者の販売方法や料金施策によるところが大きいと感じる。端末価格は高くなったが、割賦販売に移行し、その割賦代金分は基本使用料を引き下げている(実態は2年縛り付きで名目上の割引だ)。ユーザーのトータルの負担額はさほど変わっていないはずだ。

 一方で、販売奨励金が完全に廃止されたのかというと、そんなわけはなく、依然として通信事業者は販売奨励金の大盤振る舞いをしている。かつてユーザーの電話料金に不透明な形で上乗せしていた販売奨励金相当分だが、これが見かけ上の「電話料金の値引き」に変わり、ユーザーが約束を破る(短期で解約する)ことがあれば、違約金を請求してくる形になった。言い換えれば、かつて通信事業者が泣き寝入りしていた短期解約による端末代金の取り逸れ分を、ユーザーに押し付けるようになったわけだ。したがって、通信事業者の販売奨励金負担に関するリスクは軽減されたわけで、モバイルビジネス活性化プラン後も、通信事業者だけはますます増益(減収増益)を続けている。

 ビジネスを展開する側とユーザー側とでは、見方や言い分も異なってくるし、色々な考え方があってしかるべきだが、総務省は少なくともサービス提供側と国民の両方に不利益の無いよう、施策を慎重に打ち出してきている。だからこそ、また2007年の『モバイルビジネス活性化プラン』が打ち出された後の「通信事業者のみが有利な状況」のような過ちを繰り返さないためにも、今回のSIMロック解除の議論の行方は、ユーザー各位がしっかりと通信事業者各社が打ち出す施策を冷静に見守り、それを評価していくべきと感じている。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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