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木暮祐一の「ケータイ開国論II」

通信事業者のための情報サイト「WirelessWire News」から話題をピックアップし、モバイルサービス業界を展望する。

「半額」と引き換えに2年も縛られるケータイ料金プランの疑問

2010年6月21日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら

 iPhone 4発売がいよいよ迫ってきた。前回の記事では既存iPhoneユーザー向けの優待買い換え施策が展開されることに期待したい旨の記事を書かせていただいた。

 その後、iPhone 4の予約受付開始とともに、その販売価格も明らかにされたが、結果として「新規契約」と「買い増し」で販売価格は同一となっており、既存ユーザーを「優遇」とは行かないまでも、蔑ろにはしない価格設定をしてくれたようだ。iPhone 3G、iPhone 3GSの発売時は若干の価格差等が設けられていたので、今回のiPhone 4発売においては画期的な前進のように感じる。ソフトバンクモバイルのこういった姿勢は評価したいところだ。

 実際のところは、iPhone 4の在庫とのからみもあって、新規契約を優遇する余裕まで無いというのが本音なのかもしれないが、実際に販売価格を見れば、かなりおトクにiPhone 4を購入できるようであり、買換えを希望している筆者としても嬉しい限りだ。

 思えば2年前のiPhone 3G発売時も、筆者は既存回線の「買い増し」として購入させていただいた。当時「新スーパーボーナス一括」にも関わらず、およそ8万円以上を支払って購入した記憶がある。

 今回発売となるiPhone 4の価格設定は、当時のiPhone 3Gと比べれば格段に購入しやすい価格設定となった。32GBモデルでも57,600円である。アップルとしては今後の世界での販売需要も予測できているであろうし、そもそも全世界で相当な端末台数が見込めるから、量産効果も出て1台当りの端末原価は確実にこなれてきているのだろう。

 こういう視点から考えると、世界での展開などまったく視野に入れていない日本の携帯電話端末は、日本だけというローカルなエリアで販売台数も多くは見込めず、ますますiPhoneのようなグローバル人気端末と価格差が生じて行くことが明白だ。すなわち、多機能で高品質なグローバル市場向けスマートフォンのほうが、日本向けのオリジナルケータイ端末よりもはるかに安価…、なんてことになりかねない。

 日本の端末メーカーにはぜひとも頑張っていただき、世界市場でも評価される端末を開発してもらいたいと常々願っているところだが、そのためには現在のわが国の通信事業の仕組み自体の抜本的な見直しが行われないと、端末メーカーが自由にモノを作る環境が生まれてこない。そういう意味では、とくに通信事業者には大きな決断が迫られている時だといえよう。

 ところで、ソフトバンクモバイルの料金施策は、世界市場をよく観察し、上手に日本市場に取り入れているなと感心させられるものが多い。たとえば毎月の電話料金から一定額を24回に渡って割り引く「月月割」は、本コラムで以前紹介した香港の通信事業者が採用している割引施策に似ている。

 筆者の場合、これまでiPhoneは購入時に端末代金を一括で支払ってきたが、この月月割がお得なので、その回線自体ももちろん引き続き使い続けてきた。ケータイを使うためにはどちらにしても回線契約は必要であり、そこに維持費が少しでも安い回線契約があるのなら、それを優先して継続しようという気になるわけだ。

 他の通信事業者各社の、短期に解約すると違約金が発生する「縛り」をつけて回線契約を維持させようという発想とは逆で、ソフトバンクモバイルの月月割のような料金施策は精神衛生上大変好感が持てた(ただし、最近ホワイトプランが他の通信事業者同様に2年縛りとなってしまった改悪は非常に残念だ)。

 一方、京都のNPO法人京都消費者契約ネットワークが、こうした通信事業者各社の2年縛りの契約に関し、違約金の廃止を求める訴訟を起こしたそうだ。通信事業者側のコメントでは「多くのプランからお客様に選んでいただけるよう選択肢を示している」などと言っているようだが、実態は毎月のケータイの維持費を考えれば、それしか選択肢が無いのが事実だ。そもそも、その元となる基本使用料の料金設定自体の根拠が不透明なのに、こうした縛り付きの契約をして基本使用料が「半額」といわれたところで、どれだけのユーザーが納得しているのだろうか。

 各所の記事によれば、NTTドコモは約6割、auは約8割のユーザーがこの「半額」割引プランを選択しているという。しかし8割ものユーザーが選択しているのであれば、その収益でも十分成り立っているわけで、計算元となっている基本使用料自体が見直されるべきだろう。昨今流れている通信事業者のテレビCMを見ていても「おトク、おトク」だけを強調するものが多いが、通信事業者のビジョンはそんなものなのかと、もはや世も末な印象だ。

 実際に筆者も、2年縛りの契約更新期間に気づかず、不愉快な思いをしたことが多々あった。ケータイにはメール機能が付いているのだから、くだらないDMをメールで送って来るぐらいなら、こうした回線契約に関する重要な情報をSMSで送ることぐらい容易いことだと思うのだが、そういう情報提供を積極的に取り組もうという通信事業者は無い。

 いずれにしても、SIMロック解除議論やスマートフォンなどグローバル端末が日常化していく中で、わが国の料金施策は今後大きく変わっていくことが考えられる。NPOの訴訟などをきっかけに、現在の料金施策のあり方への議論がもっとなされて行っても良いだろう。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『図解入門業界研究 最新携帯電話業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など。HPはこちら

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