中国から学ぶ日本ケータイの常識・非常識(3)〜SIMロック無しで通信事業者はどのようにユーザーを縛るか?
2010年5月18日
(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論II」はこちら)
いよいよわが国でも発売開始されるiPadだが、わが国のiPadのみSIMロックが講じられていることに落胆したユーザーも少なくないのではなかろうか。
わが国は、こうしたSIMロックが「常識」とされている国であるが、一方で、世界ではSIMロックの方が「非常識」であると各所で説いてきた。ところが、欧州では日本とは逆にSIMロックをかけた端末の販売も増えているそうだ。
ただし、SIMロックが掛けられているのは、あくまで高価な最新端末を通信事業者のショップ等で購入する場合に限られている。SIMロックが無い端末も市場で販売されており、SIMロック付きにするか、SIMフリーにするかはユーザーの選択に委ねられているのである。
SIMロック付きを選ぶ場合は、通常の販売価格よりも優遇され、安価に端末を購入できる代わりに、購入した通信事業者の契約回線で一定期間利用することが義務づけられる。
わが国と異なる点は、仮にSIMロック付きの端末を購入した場合でも、各国ごとに定められた一定の期間を経過した場合に、ユーザーの申出があればSIMロックを解除するという点である。SIMロックが解除されることで、その端末の中古市場での価値は高まるのである。こうしたことを考えると、やはり欧州でSIMロックが導入されているとはいえ、あくまでSIMロックは端末を安価に販売する代償として、一定期間、通信事業者がユーザーを自社に縛るための手段であり、SIMロックのほうが「特別なもの」という位置づけと見ても良いだろう。
わが国のSIMロック解除議論の結論がどういう方向に向かうか注目されている。欧州のように、SIMロックとSIMロックフリーが併用され、ユーザーが選べるという形が理想的なのかもしれないが、万が一完全にSIMロックを解除しなければならないというような義務が発生した場合、通信事業者にとっての懸念は「どうやって顧客を自社の回線契約で長期間利用させるか」という課題だろう。
香港や中国などのアジア市場においては、通信事業者が端末を販売する場合でも、SIMロックは掛けられていない。では、どうやって通信事業者がユーザーを自社回線で縛るのだろうか?
香港では、SIMロックがない代わりに、通信事業者の店頭で回線契約込みで端末を購入した場合でも、あるいは家電店で端末のみ購入した場合でも、端末価格に大きな違いは無い。つまり正価で販売されている。
これでは通信事業者で端末を買う意味が無さそうだ。ところが、通信事業者のショップにて回線契約と共に端末を購入すると、端末価格は正価でも、じつはその後の電話料金から一定額の割引を継続して受けることができる。わが国でも、ソフトバンクモバイルが毎月の電話料金を一定額割り引く「月々割」を導入しているが、これによく似ているシステムだ。
実際に、通信事業者のショップ店頭の端末販売価格表示は、以下の写真の通りだ。
日本でもおなじみのXperiaだが、定価は5,380香港ドル(約63,710円)で、その下に特価のような表記で2,680香港ドル(約31,719円)と記されている。この割引価格というのは、24カ月継続使用した場合に、毎月の電話料金から割り引かれる金額の合計を定価から差し引いた金額というわけだ。Xperiaをこのショップで購入しようとすれば、いずれにしても定価の5,380香港ドルを最初に支払い(若干の価格交渉は可能なようだった)、回線契約を結んだ上で、その後の電話料金から毎月一定額が割り引かれて行くということになる。
また、中途解約してもペナルティなどは無いが、その代わりに毎月の割り引き分が消滅してしまうので、ユーザーはお得感を得られないということになる。日本の料金プランは極めて分かりにくく、不親切な上、解約で高額なペナルティが発生する場合もある。それに比べれば、香港のケータイ販売は極めてスマートに感じる。
木暮祐一の「ケータイ開国論II」
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