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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

「iPhoneはコンテンツ/アプリケーション世界展開の扉だ」

2008年7月 4日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 前回に続き、iPhoneの話題。

 さて、iPhone上で展開される回収代行のプラットフォーム「App Store」は、今まさにわが国で議論が進められている「認証・課金プラットフォーム」の一つのあり方として注目されている。

 日本のコンテンツプロバイダー(以下、CP)も、すでにいくつかの会社がiPhone向け(=App Store向け)にアプリケーションを提供することを表明している。

 その中で、すでに具体的なコンテンツを公表し話題になっているCPの1社がサン電子株式会社だ。サン電子は、アップルがiPhone向けにアプリケーションを提供するプラットフォーム「App Store」の提供開始にあわせ、同社の看板とも言えるゲームコンテンツ「上海パズル」を提供する。


[おなじみ「上海パズル」がiPhoneでも…]

 愛知県に本社を置くサン電子は、もともとはパチンコ関連事業から拡大し、その後情報・通信関連事業、ソフトウェア関連事業などを展開している。通信関連では、かつてパソコン通信全盛期に「SUNTAC」ブランドでモデムなども製造していた。ゲームソフトウェアではファミコン時代に「SUNSOFT」ブランドで数々のゲームを開発し日米欧で販売していた。SUNSOFTは古くからのゲームファンには馴染みのあるブランドではないだろうか。現在は「上海パズル」をケータイ向けに展開し、各キャリアにて公式サイトも運営している。

 CPとしてとらえると、サン電子は地味な存在だろう。そんなサン電子が、iPhone 3G発売にあわせ、iPhone向けにゲームアプリケーションを展開するということに意外性を感じる人もいるはずだ。じつは、一般的な日本のモバイル向けCPとサン電子とでは、コンテンツに対する考え方や視野の広さが随分と異なるようだ。

 サン電子の場合、ソフトウェア、コンテンツのほか、もともとの事業だった各種ハードウェア(通信関連機器)の製造も行ってきた。モデムを作ってきたサン電子が、その後データ通信用のケーブルを製造するようになり、さらに最近ではケータイやiPod関連のアクセサリを製造するようになった。とくにiPod関連製品のラインアップには力を入れてきた。じつはこのようなところでアップルとのつながりを持っていた。また、SUNSOFTのゲームや各種ハードウェアを国際展開してきた実績もあり、日本国内にとどまらず、世界を視野に入れながら商品やコンテンツの企画・開発を行ってきた企業なのである。

 したがって、サン電子がアップルの動きに注目しながら、iPhone向けにアプリケーションも企画し展開するというのは、これもごく自然な流れだったといえるだろう。


[サン電子はこれまでiPod関連アクセサリも多数ラインアップしてきた]


■iPhone向けアプリ提供をどう実現させたか

 とはいえ、日本のCPの多くも、どうやったらiPhone向けにアプリケーション提供が可能になるのかなど、疑問だらけであろう。そこで、サン電子にてiPhone向けアプリケーション開発の陣頭指揮を執った、デジタルコンテンツ事業部・水野政司氏を直撃取材してきた。


[サン電子株式会社 水野政司氏]

 水野氏は、これまでサン電子の通信機器やモバイルコンテンツ事業に携わってきた。日本におけるコンテンツ提供のあり方ももちろん理解していたうえで、世界のコンテンツ事情にも目を向け、今後のコンテンツ流通の展望について模索してきた1人である。

 そんな水野氏は、昨年発売されたiPhoneのユーザーインタフェースに衝撃を受け、同社の看板ゲームである「上海パズル」をiPhoneに移植することを真っ先に考えたそうである。

「SDKのダウンロードが可能になる前から、どのようにコンテンツを流通させるのか、その窓口を探してきた。ところが、提供するための条件はもちろん、アップル側の窓口も不明確で、情報が乏しく苦労した」という。

 水野氏は積極的にアップルに接触し、iPhone用アプリケーション販売に向けて準備を進めてきた。SDKが公開されるまでは進展はなかったが、公開後にエミュレーター上での開発を進めていき、アップルに持ち込んでデモをするなどの働きかけをしたという。「詳細は語れないが、初期の頃は様々な障壁もあり、開発が難航した局面もあった」(水野氏)。

 では、実際に、日本のCPやアマチュアのプログラマーがiPhone向けにアプリケーション提供を考えるとしたら、どうやってアップルを攻めていけばよいのだろう。

「6月9日のiPhone3G発表の前はなかなか進展しないことも多かったが、日本でもiPhone 3Gが発売されることになり、アップル側の対応体制も整ってきている。実際に、窓口になっているのは、デベロッパー向けの問い合わせ窓口しかない。しかし、デベロッパー向け問い合わせ窓口からの相談にはきちんと目を通しているようだ。まずは、アップルのデベロッパー向けの会員制度であるADC(Apple Developer Connection)に加入しSDKをダウンロードしてヘルプなどのドキュメント類に目を通すこと。そこで分からないことが出てきたら、ADCの窓口から具体的な要望を伝えていくのが近道のようだ」と水野氏は説明してくださった。


■iPhoneが日本のCPの国際展開のきっかけに

 では、実際にiPhone向けのアプリケーション開発自体は、どれぐらい難易度が高いのだろう。

「じつは、iPhoneの開発環境は思いのほか簡単で、しかも高度なことができる」というのが水野氏の率直な感想だった。ユーティリティ系の簡単なものであればVisual BASICでプログラムを作るような感覚で、プログラムを開発できるのだそうだ。ただしゲームのような動きを追求していくようなものになると経験も必要になってくるとのこと。

 さらに水野氏は、
「iPhone向けのアプリケーション開発を体験すると、日本の他のケータイ向けコンテンツ・アプリケーション開発環境が、いかに制限・制約が多いかを知ることにもなる。iPhoneはケータイというよりも小さいMac。つまりネットワークにつながったコンピュータそのもの」という。

 日本の多くのマスコミは何かと「iPhoneが果たして国内でどれだけ売れるのか」という話題を持ち出す。筆者は、正直なところ「大ヒット」と言えるだけの販売台数を稼ぐものになるとは思っていない。これまで、わが国のケータイ端末で、「ヒットした」というものでもせいぜい数十万台程度、「大ヒット」クラスで数百万台どまりだ。

 ということで、iPhone単体での販売台数も、わが国では数十万~百数十万台レベルと考えるのが一般的なところだろう。そういう予測を元に、「そんな1端末のためにわざわざ専用アプリケーションを開発する意味があるのか?」と考えるのが、一般的な日本のCPのようだ。

 水野氏いわく、
App Storeというプラットフォームで、1つのアプリケーションを世界展開できる可能性を秘めているところに共感している」。

 つまり、iPhone向けのアプリケーションは、狭いわが国だけのビジネスエリアから、一気に世界をターゲットにしたコンテンツ提供を実現させるものとなるというわけだ。日本のコンテンツ、アプリケーションサービスは、規模も内容も世界の中でもトップクラスであることは間違いない。これらのコンテンツ、アプリケーションが、もっと世界に進出し、成功を収めていくべきなのである。

 これまで、日本の通信キャリアが提供する「認証・課金プラットフォーム(=公式サイト)」というビジネスモデルの中に閉じこもっていて、世界に進出するチャンスを逃していたCPが山ほどあろう。

 「iPhoneなど売れない」と信じ、通信キャリアに言われるがままに新機種対応コンテンツの開発に追われているCPには明日はないと考える。通信キャリアが提供してきた「公式サイトビジネス」を否定するつもりはないが、いつまでもこの呪縛にとらわれていると、いつのまにか世界で取り残されたビジネスモデルになってしまうかもしれない。iPhone、そして今後展開されてくるGoogleのandroidなどの動きに要注目である。


■認証・課金プラットフォームを考える講演会開催

 来る7月10日に、今回インタビューさせていただいた水野氏をはじめ、総務省で認証・課金プラットフォームの議論をはじめ、わが国の通信サービスのオープン化に取り組む事業政策課長・谷脇康彦氏、ソフトバンクモバイル副社長・松本徹三氏が登壇する講演会が、有限責任中間法人ブロードバンド推進協議会の主催で開催される。ここでご紹介したような、モバイル向けコンテンツ、アプリケーション展開に役立つ内容が盛りだくさんになるであろう。ご関心がある方は、聴講されてみてはいかがだろうか。

『「垂直統合」から「水平分業」へ、鍵となる「認証・課金プラットフォーム」を考える』
日 時:2008年7月10日 15:00~
場 所:東京霞が関ビル33F・東海大学校友会館
主 催:ブロードバンド推進協議会
http://www.bba.or.jp/bba/70/post_84.html

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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