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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

3月末、auは3,000万契約を突破するようだが…

2008年3月25日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 ケータイの新規契約数が最も増えるのが3月。新入学、新社会人として新しい門出を迎えるタイミングで新たにケータイを所持するユーザーが最も多くなる。とくに「初めてケータイを持つ」ユーザーが増えるタイミングなので、「最初に持つケータイ」を自社で獲得しようと、各通信キャリアの新規ユーザー獲得合戦が白熱するのである。ということで、これから月末にかけてが各キャリアの勝負どころ。月末締めの契約獲得数を競って、値引き合戦も過熱していく。

 さて、ケータイ販売における「値引き」が可能になるのは、いわゆる販売店向けの「インセンティブ(販売奨励金)」が販売台数の目標設定に応じて手厚くなっていくからである。昨年は販売奨励金の見直しが議論されたが、結局のところ販売台数を稼ぐためには、インセンティブを完全に無くすことはできない。総務省がどんな施策を打ち出したところで、なかなか世の中は変わらないのである。実際に、販売店店頭のケータイ価格を見る限り、インセンティブのオンパレードのように思える。

 それでも、インセンティブがきちんとユーザーのために使われているのなら文句は言わないが、どうも最近は契約数の目標必達のために、契約数という数字を作り出すために多額のインセンティブが注がれているような気がする。

 とくに納得いかないのが、KDDIが「プリペイドケータイ」を無料で配布していることだ。大義名分は「お試し」といなっている。auを知らないユーザーに、まずはプリペイドで試してもらって、auの良さを知ってもらうというのが「本来の」目的だという。しかし、どうもこれが胡散臭い。これを逆手に取れば、販売店の契約台数目標を達成するための手段として流用できる。

 各月末の加入台数は電気通信事業者協会(TCA、http://www.tca.or.jp/)が発表しているとおりだ。この数字を作り出すために各通信キャリアが苦戦しているわけだが、どうも昨年後半からauの契約数が「怪しい」のである。すでに他のメディアでも「auはプリペイド契約を増やして数字を作っている」と報じているところがあるが、確かに各通信キャリアのプリペイド契約数が純減している中で明らかにauのプリペイド契約数は不自然だ(昨年から毎月純増している)。TCAホームページの各月のプリペイド契約数をぜひご覧頂きたい。

 この1台のプリペイドを開通させるために、果たしていったいいくらのインセンティブが投じられているのだろう。プリペイドの端末では廉価端末が使われているとはいえ、元値はタダではない。しかも500円通話可能なスクラッチカードも付いている。本当にユーザーに対して試供品としてプリペイドが供与されるならまだしも、現状は販売店の販売台数を「作る」ことを目的に、せっせと開通処理がなされているとしか思えないのである。もしかしたら、実際にはユーザーの手に渡らず、自社開通させたようなプリペイドケータイが各所の倉庫の中に大量に眠っているのかもしれない。

 なお、ここで誤解を避けるために申し上げるが、筆者は販売店を責めているわけではない。そういうことをせざるを得ない状況を強いる通信キャリアに大きな問題があると見ている。また契約数という指標だけで通信キャリアを評価する風潮や、それをあおるような報道が拍車をかけているのも否めない。もはや成熟市場で、新規契約台数を競うなどナンセンスである。早くこの部分に業界が気がつくべきだ(気がついてはいるのだが、それを変えられない現状を何とかすべきだ)。きちんと各通信キャリアの特性がわかるような新しい「サービス指標」を作り、それで競うべきである。

 インセンティブは本来、新規ユーザーや、長期間利用したユーザーがケータイを購入する際に適用されるものであった。払ってきた電話代が他のユーザーの新規契約のために費やされるのはやや納得いかなかったが、それでも通信キャリアが電話代の売り上げをユーザーのために還元しているわけであるから、ある程度目をつぶってきた。そうしてユーザーを獲得し収益基盤が安定することで、より充実したインフラが整備されていき、結果的にユーザーに還元されていくのである。

 ところが、ユーザーが支払った電話代が、「契約数を作り出す」という数字合わせに費やされてしまうのは極めて納得がいかない。世の中、数字を「偽装」し始めたらもう後戻りできなくなる。そんなことをする企業に将来はないはずだ。

 3月末のKDDIの契約者数は3000万契約突破が目標と聞く。この数字を作り出すために躍起になっているのだろう。3000万契約突破を記念した大規模な祝賀会がとある高級リゾートで予定されているそうで、これにauの代理店経営者が招かれるという(恒例行事とも聞く)。電話会社の収益の多くが、ユーザーが支払う電話代によるものだ。これらの「内輪」なお祝い行事にもユーザーが支払った電話代が費やされていると考えるべきである。

 ちなみに、KDDIがプリペイドで加入契約数を積み上げているとすれば、そのしっぺ返しが3カ月後に訪れるはずである。数字の積み上げのために開通されたプリペイドは、放置すればそのまま3カ月後に解約となるからだ。となれば契約者数が純減することさえ想定される。あるいは、もしこの数字が減らないとなれば、新たな数字の積み上げのための「インセンティブ」に拍車が掛かったとも考えるべきだ。3カ月後のau加入数の動きが興味深い。それよりも、こんな「自転車操業」をいつまでも続けていたら、通信キャリア自らが自分の首を絞めかねないことが分かっているだろうに…、いったいいつまでこんな無駄なことを続けるのだろうか。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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