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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

イー・モバイル旋風が業界を変えるか?

2008年2月26日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 イー・モバイルが昨日、音声サービスの概要を発表した。これまでのデータサービスに加え、いよいよケータイのキラーコンテンツとも言える「音声通話」が始まる。イー・モバイルのサービス詳細は各メディアにて報道されているようなので、ここでは詳細は割愛したい。

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HTC製スマートフォンS11HT


 今回発表された音声通話可能な端末は2モデル。1台は、東芝製のH11T、そしてもう1台は台湾・HTC製のS11HT。S11HTは、すでにHTCが世界向けに出荷を始めている「HTC TyTN II」である。カタログスペック上には記載されてないが、TyTN IIならGSM方式もサポートしているはず。そこで会見の際に私は「国際ローミングへの取り組みは?」と質問を投げてみたところ、イー・モバイル 代表取締役社長/COOのエリック・ガン氏が快く回答してくれた。

 ガン氏からは、「今夏を目処に国際ローミングを始めたい」という意向に加え、なんと「S11HTはSIMロックを施さないので、海外のオペレータのSIMカードなども利用可能である」とのサービスコメントも頂けた。SIMロックは当然施しているであろうと考えていたので質問するつもりも無かったのだが、この回答には正直なところかなり驚かされた。

 まあ、S11HTはW-CDMAの対応周波数を1.7GHzのみとしているので、国内では他の通信事業者で利用できないためSIMロックを掛ける意味はないという考え方なのだろう。一方でドコモローミング対応のH11Tのほうは、SIMロックが施されているようだ。これはやむを得ないところか。

 会見では、代表取締役会長/CEOの千本倖生氏の毒舌本音トークも炸裂した。ジャーナリストから寄せられた「絵文字メールとかFeliCaなどの、日本のモバイルサービスに今や必須とも言える機能を載せないのか?」という質問に対し、千本会長は「そのような世界のスタンダードから逸脱した、いわばウォールガーデンモデル的ビジネスモデルは、日本の端末メーカーを疲弊させてしまう」と非難(だから今後搭載するつもりはない、ということではない)。さらに「日本の端末メーカーが国際競争力を失ったのは、日本の通信事業者のせいだ」とまで苦言を呈されていた。


音声サービスの内容を披露する千本倖生会長


 立場によって考え方は色々とあると思うが、私としては千本氏のこの考え方に大いに賛同したい。

 先週金曜日、フジテレビの『とくダネ!』という番組が「日本の凋落」というテーマで、「日本のケータイメーカーの現状」をルポしていた。私もケータイ史解説のところで出演したのだが、番組側が示した結びとしては「通信事業者に言われるがままに端末製造を行わなければならない現状の日本の仕組みが、端末メーカーの弱体化を招いた」というようなオチになっていた。

 確かに、日本のケータイ端末の企画・開発は通信事業者側に委ねられている。端末メーカーがどんなアイデアを出そうとも、通信事業者が「NO」といえば商品化されることはない。端末メーカー側の担当者の本音を拾えば、「通信事業者側からこういうものを作れ、と言われるが、どう考えたって売れなさそうなアイデアを当然のように押し付けてくる」などという意見を何度も聞いた。

 さらに通信事業者側は、端末メーカーに徹底的にコストダウンを迫る。「いくらで納入せよ、その範囲内で最大限、こういう仕様を満たせ」という形の発注なのである。端末メーカーは泣く泣く、この条件を飲まざるを得ず、その結果、日本のケータイはますます面白くないものばかりになってしまうのだ。コストダウンが、ユーザーにとってメリットのあるコストダウンならまだしも、現状の通信事業者が頂点となる垂直統合のビジネスモデルでは、通信事業者が(端末販売で)利益を上げるためのコストダウンでしかないのである。

 ユーザーも、この日本独特のケータイ業界構造の問題点にそろそろ気づき始めている。そして端末メーカーのフラストレーションも限界に来ているようだ。ユーザーや端末メーカーが、既存通信事業者に対して反旗を翻すのは、もはや時間の問題だろう。

 イー・モバイルが、従来の垂直統合型ビジネスモデルで行くのか、あるいは新しい第一歩を踏み出してくれるのか? 私は本意を知りたく記者会見に臨んだのだが、イー・モバイルの方針や、千本会長の発言で、ちょっとホッとしたところである。イー・モバイルが定額制モバイルデータサービスを開始したことで、NTTドコモやauもようやく定額制モバイルデータサービスを導入した。誰かが仕掛けないと、既存通信事業者(とくにNTTドコモとKDDI)は動かないのである。イー・モバイルには、料金やサービスだけでなく、業界構造の見直しにもつながるような、大胆なアクションを大いに期待したいものだ。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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