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木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

未成年者向けフィルタリング、原則加入へ──子どものケータイ利用とどう向き合うか

2008年2月 5日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

 先行したソフトバンクモバイルに続き、2月1日よりNTTドコモ、auでも、18歳未満の契約者はフィルタリングサービスに原則加入することとなった。まず新規契約者に対してフィルタリングが設定される。既存契約者についても、今後順次適用されていく。

 このフィルタリングについて、どうも理解が不十分なようで、保護者側、そしてケータイコンテンツ業界側とも、色々と混乱が起きているようだ。フィルタリング自体は、総務省の指導により、2006年からオプション機能として用意されてきた。各通信事業者はこれを積極的にPRし、保護者に対して利用を呼びかけてきたわけだ。ところが、あまり認知は進んでこなかった。

 これまでのルールでは、保護者からの申し出があった場合にフィルタリングを設定するものであった。その後、色々な背景事情があったようだが、このフィルタリングについて昨年末に総務大臣からの要請で「原則加入」に変わることとなった。これまでオプション設定だったものがデフォルトとなり、逆に申し出があった場合に解除できるものへと変わることとなった。

 こうした事情を受けて、コンテンツ業界も騒然としているのだが、さらに話は広がって「小中学生にケータイを持たすべきか」などといった議論へと進展してしまっている。たとえば石川県のとある町では、PTA、学警連などが「小中学生にケータイを持たさない」という方針を定めたという。

■小中学生にケータイを持たすべきか?

 ここは私個人の考え方を示させていただくが、ケータイがきっかけで子どもたちが事件に巻き込まれるケースが少なからず起こっているのも事実だが、これは「ケータイ」自体が悪いのではなく、「ケータイで利用するインターネット」が原因なのである。ようするにネットリテラシーの問題だ。多くの親は、ケータイによって子どもたちの居場所が分かるし、必要あればすぐに連絡が取れるという、ケータイならではの便利さも理解している。ところがメールに振り回される子どもたち、インターネットを通じて親の管理を超えたコミュニケーションに走る子どもたちに、不安を感じているのも事実である。あくまでメールやインターネットの利用が問題となるのだ。

 ではフィルタリングでインターネットをシャットアウトすればいいかといえば、そんな簡単な問題ではないのだ。
 子どもたちもケータイでインターネットの使い方を理解し、成長していくのである。高校に進学する頃には、インターネットとどう向き合えばいいのかを、知らず知らずのうちに身につけ、インターネットと上手に付き合える人へと成長するのである。
 逆に小中学生のうちにインターネットへのアクセスを制限されたら、その後自由にインターネットを使えるようになったときにあまりにも無防備になり、かえって凶悪な事件に巻き込まれかねない。

 また、仮にフィルタリングをしたとしても、その抜け道はいくらでもある。結局、インターネットを通じて非行に走ったり、事件に巻き込まれてしまう子どもたちの数は、フィルタリングによって大きく減少するとは思えないのである。むしろ正しく使えていた大半の子どもたちにとって不利益を被るだけのような気がするのである。


 さて、日本中にあまねく普及を果たしたケータイだけに、この子どもたちのケータイ利用に関する議論は、もはや都心部だけの問題ではなくなった。むしろ通学距離が長い山間部の子どもたちにとっては、ケータイは時に自分たちの身を守る道具にもなるわけである。今回のフィルタリングを機に、親がケータイとどう向き合うべきなのか考える必要が生じているのだ。

 黒川温泉で全国に名を知らしめた、九州・阿蘇山の麓にある熊本県南小国町。人口わずか4,500人強、中学校が1校しかないというこの小さな町で、さる2月4日、子どもたちのケータイ利用とどう向き合うべきかを議論するシンポジウムが開催された。
 主催は南小国中学校PTA、そして企画・コーディネートは南小国中学校の桑崎剛教頭。同氏は、これまで子どもたちのケータイ利用について国内外の利用実態調査などを追い続け、ケータイをどう使わせていくべきかを模索してきた。シンポジウムには保護者をはじめとして、多数の教育関係者なども詰めかけた。

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子どもたちがどうケータイを使うべきか、そして親はどう指導していくべきか、熱く語る桑崎剛・熊本県南小国中学校教頭


 シンポジウムの冒頭では、桑崎教頭によるプレゼンテーションが行われ、国内外の子どもたち(大学生を含む)のケータイ利用実態が報告された。さらに金銭教育の専門家である、NPOお金の学校くまもとの徳村美佳氏が、子どもたちにケータイを持たす場合にどうルールを作るべきかを示唆した。そしてこれらの基調提案を受け、保護者の代表2名と、同中学校養護教諭の杉本美幸氏が中学生のケータイ利用の問題点を掲げた。

 桑崎教頭からは、南小国中学校の生徒におけるケータイ利用実態などが報告された。このような山間部の学校でも、都心部と変わらない普及率まで利用が高まっており、抱える問題点も全国と違いがないことなどが示された。
 徳村氏は、「もしケータイが無かったらどうなるか?」というテーマで子どもたちへヒアリング調査を実施、なかでも「メールを無視することになるので信頼を無くす」といった子どもたちのコミュニケーションの実情を浮き彫りにする内容を示唆した。また、養護教諭の杉本氏からは、「深夜のメール利用で睡眠不足やストレスをため、保健室に来る生徒が多い」といった問題点も指摘された。


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徳村氏は子どもたちに「ケータイが無かったら」をテーマに自由回答で付箋に回答を書かせ、これから傾向を分析した。


 とはいえ、ケータイはもはや無くてはならないインフラであり、子どもたちの利用を真っ向から否定すべきではないという考えも多数出てきた。徳村氏は、自身の子どもに対して、ケータイが欲しいのなら、「目的」「その理由」「費用」「スケジュール」「予想される問題点とその対策」を明記した“企画書”を提出せよという課題を出したという。そうすることで、ケータイをどう使うのかという目的が明確になり、さらに費用について子ども自身が真摯に受け止めるきっかけとなったという。

 このシンポジウムの結びとして桑崎教頭は「とくに欧州では、子どももケータイは利用しているのに問題は起きていない。その理由は親が子どもに対して、我が家ではどう使うべきかを徹底して教育しているからだ」と指摘した。とくに日本の小中学生の親は、教育に関して他力本願なところが多く、ケータイの利用についても具体的に子どもたちに「こう使いなさい」という指摘ができていないことを問題点として掲げた。


 いずれにしても、このような山間部の町でも、子どもたちのケータイ利用について、教育者と保護者、有識者が真剣に議論するような動きが出てきたことは、極めて画期的だと考える。どちらにしても、ケータイは大人になったら所持せざるを得ない道具となる。であるなら、子どもたちへの利用を規制するのではなく、どう使わすかを議論し、見守っていくことが重要になると考える。
 この熊本県南小国町に続き、全国の都市や市町村で、積極的に子どもたちのケータイ利用について議論が展開されていくことを大いに期待したい。

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プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

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