このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

木暮祐一の「ケータイ開国論」

ケータイの最新情報を押さえながら、今後日本のモバイルサービスが目指すべき方向を考える。

一筋縄ではいかない「非常識」の理解

2007年10月23日

(これまでの 木暮祐一の「ケータイ開国論」はこちら

先日、中国・北京の石景山遊楽園の話題をニュース番組が取り上げていた。あの、ディズニーもどきやドラえもんもどきなキャラクターで話題になった遊園地である。

その後あの遊園地はどうなったのかという報道だったが、目立つ盗作キャラクターは減ったものの、とあるアトラクションではディズニーキャラクターが日本のアニメに取って代わっただけというものもあるのだとか…。日本アニメを盗用した理由について、そのアトラクションの改修を行った業者いわく「インターネットに掲載されていたイラストを元に自分たちで描いたのだからオリジナルだ。なぜ悪いのか?」というコメントが翻訳されていた。まあ中国では著作権への認識はその程度なのだろう。

中国には1984年の夏に、北京、天津へ訪問したことがあったが、そのときはまだ近代化の幕開けの時期で、中国の目抜き通りも車線の3分の2は自転車が埋め尽くしていた。国民の服装も、みな人民服、人民帽という時代だった。その後、近年になってからたびたび渡航する機会が増えてきたが、わずか20年で現地の様子は劇的な変化を遂げた。もともと閉鎖的な国家だった下地に、急速な近代化のあおりを受け、国民の知識や認識が追いついて行けてないというのが本当のところだろう。商標や著作権の考え方も、認識を改めるにはまだまだ時間がかかるのではなかかろうか。

こうした「常識」への認識というのは恐ろしいもので、日ごろの「当たり前の日常」がすっかり身についていると、何の疑問も持つこともなくなるのだろう。外国人から指摘されても「何かおかしい?」ということになる。日本も海に囲まれた島国であるという閉鎖環境にある点では、「非常識」な要素を生み出しやすい。ケータイサービスについてもいうまでもなく、「世界の常識」とは異なるスタイルでサービス展開されているが、これが特殊なものと認識して使っている人はほとんどいない。

さて、前回のコラムでもご案内した日本遠隔医療学会学術大会が、さる19日、20日の2日間、岡山市で開催された。この会場にて、遠隔医療応用の可能性までを説明すべく、ケータイコレクション展示を行ったが、おかげさまで多くの方々にケータイの発展史をご覧頂き、そしてディスカッションさせていただく機会を得ることができた。大変有意義な2日間であった。


かなり大雑把な年表だが(笑)、日本の遠隔医療10年の歩みはこんな感じだそうで、今後はFMCの実現とスマートフォンの活用によって展望が開けてきそう。(日本遠隔医療学会会長・村瀬氏の講演より)

来場者の大半は研究者であるのだが、案の定、日本のケータイサービスの特異性についてはほとんどの方がご存知なかった。先生方によっては、ケータイを何らかの形で仕事(遠隔医療等)に応用したい、あるいは応用を試されているという方が結構な数に上るようだ。ところがどの先生方も、アプリケーションやコンテンツを作る上で通信キャリアごとにプラットフォーム仕様が異なることは仕方ないもの、と考えられていたようだ。ケータイと回線がセットで提供されるものという固定観念を取り払うのは一筋縄ではいかないと実感した。将来、固定網や移動網などのネットワークを超えて、1つの端末で利用できるイメージ(いわゆるFMC、Fixed Mobile Convergence)などを説明しても、これを理解していただくまでには相当な説明をしなくてはならなかった。端末と回線を切り分けるという概念はなかなか理解できないもののようだ。

「当たり前」と思ってしまうと、何も変えることができなくなってしまう。ここはぜひ「世界では非常識なこと」と認識してもらいたく、会場での私の解説にもついつい力が入ってしまった。中国の話をたとえ話に引用させていただいたが、日本でも結局固定概念として多くの国民に植えつけられてしまったものを改めるのは、そう簡単ではないようだ。(中国の著作権盗用の話とは次元が違う問題ではあるが)


こんな感じで自動車電話からスマートフォンへの進化を展示しました。


この学会の特別講演として、「日本の遠隔医療10年の歩みと今後の展望」と題して村瀬澄夫・同学会会長/信州大学特任教授がお話されたのだが、今後の展望のところでネットワークのワイヤレス化(WiMAXなどマルチネットワークに)、端末の進化(スマートフォン主体でマルチネットワークにも対応)というようなイメージを想像させる説明があった。社会にとって有益なサービス(遠隔医療を事例として)を広めていくためには、やはりネットワークと端末(およびアプリケーション)が分離され、自在に利用できる環境が必須となるだろう。現状の通信キャリアによる縦割りのサービス構造では、こうした民間側から求めるサービスを実現させづらいということを少しでも多くの方に知ってもらいたいところだ。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

木暮祐一の「ケータイ開国論」

プロフィール

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。HPはこちら

過去の記事

月間アーカイブ