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石井孝明の「温暖化とケイザイをめぐって」

温暖化問題と切り離せない経済。「お金」と温暖化の関係を追う。

本当か?深夜テレビ休止で温暖化防止。ムダではなく意味のある政策を!

2008年4月10日

(これまでの 石井孝明の「温暖化とケイザイをめぐって」はこちら

 温暖化対策でさまざまな政策やアイデアが提案されるようになりました。それは歓迎するべきことです。ですが、効果があると勝手に思い込んで、おかしな副作用が生じてしまいそうな、対策も見られるようになりました。

 世間には、つまらない知恵をひけらかして他人を批判する、軽薄な議論を展開する人々がいます。私はそういう意図で無意味な「突っ込み」を入れるつもりはありません。「立ち止まって冷静に考えよう」と、訴える材料を読者の皆さまに提供するために、いくつかの政策や思い込みに、疑問を示したいと思います。

■深夜のテレビ放映休止は意味があるのか?

 NHKの福地茂雄会長は4月3日、二酸化炭素の排出削減の具体策として、エネルギー消費を抑制するために、教育テレビなど深夜放送の休止を拡大する方針を示しました。自民党の議員たちも、温暖化対策として深夜放送の休止を求めています。この政策にどれほど効果があるのか、私は疑問に思います。なぜならば、夜の電気はCO2を排出しない原発で作られるものが多いからです。

 電気の使用量は当然、夜少なく、昼多くなっています。電力は長く蓄えることができませんから、電力会社はそれに応じて発電します。効率のよい方法は「基幹電力」とされる原発を稼働し続けた上で、朝から火力発電を稼働させて、昼の需要のピークに備える形です。時間によって、また各電力会社の事情によって、電気の作られ方は違い、その結果生まれるCO2の量も違います。

 深夜番組を休止すればエネルギー消費を抑えられるでしょうが、それにより減るCO2はほかの時間帯よりも限られると思います。私もその効果をデータで計算したわけではありません。まず休止によって、どの程度のCO2が減らせるのか。やみくもな休止よりも、具体的な効果の検証を行うことが、各テレビ局には求められるのではないでしょうか。

■企業別の排出量を発表して何が起こる?

 環境省は3月、温室効果ガスの企業別排出量を発表しました。温暖化対策法の報告義務を集計したもので、06年には東京電力がトップの6888万トン、JFEスチールが2位の6029トンだそうです。製紙、セメントなどの素材産業の企業の名前も出ています。ですが、これは国が集計し、発表する意味があるのでしょうか。

 そもそも、物流やエネルギーの「上流」にある電力会社と素材産業が、エネルギーを使ってCO2を排出する量が多くなるのは当たり前です。他産業の代わりに、こうした素材を作っているためです。

 さらに日本の上場企業の大半は、今CSRリポートや環境リポートを公表しています。そこでは06年分の温室効果ガスやCO2の排出量が掲載されています。わざわざ税金を使って、役人が集計する必要はありません。また、企業情報の公開で必須になる会計士の監査を経たものでもありません。ある公認会計士が「数字の独り歩きが怖い。電力会社や鉄鋼メーカーが悪者扱いされかねない」と話していました。私もまったく同感です。

 実は電力と鉄鋼の業界団体は、京都議定書の目標を達成するために、発展途上国から排出権を大量に自主的に買う努力をしています。お金を負担しているのに、「悪者」にされかねない。気のどくに思えてきます。

 絶対量で排出量を比べるよりも、製品・サービスごとのサプライチェーン(供給の道筋)で評価することが必要です。製品のLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)という形で生産・流通の各段階で、どのようにCO2の排出を測定・評価するべきか。各国でさまざまな研究が行われていますが、まだ「これが公平な評価方法だ」と決め手になるものは、まだ開発されていません。

■個人の省エネ努力は無意味?

 CO2の排出量では、「家庭」が際立って増えています。京都議定書の義務の加わる1990年比でみると、2005年では全体で13・0%増。産業界は5・5%減なのに、家庭では36・7%増えました。1990年代から、家庭の電化がIT化の進展で一段と進みました。それがエネルギー消費の急増の一因でしょう。しかし、それだけではありません。核家族化が影響を与えているのです。

 国勢調査によれば、日本の世帯数は、1990年の4067万から、2005年には4906万まで約2割増化しました。その理由は単親世帯が、939万から1445万まで増えたことにあります。 共同して使う部分があれば、エネルギーの使用は当然減ります。興味深いデータがあります。やや古いものですが、生協が2001年までの4年間に全国300世帯に行った調査です。

 01年の単身世帯の1カ月当たりの電力使用量は161キロワット、ガス使用量は30立方メートル。ところが4人家族では1人当たり電力89キロワット、ガス10立方メートルにすぎません。家族の人数が増えるに従って、1人当たりの使用量は減っていきます。

 もちろん、個人の省エネは温暖化防止のために必要です。また、家庭のエネルギー増の要因のうち「核家族化」は、大きいものであっても、どの程度影響をしているのかを把握した研究は、私はまだみていません。(読者の中でご存じの方、教えてください)政府も家族構成の変化によるエネルギー増は指摘しますが、これに注目した政策は打ち出していません。ただ、「温暖化のため」として、家族の住み方にまで政府が介入したら、それはそれで恐ろしい社会になると思います。

 個人の努力や政府が関与できない理由でエネルギー消費が拡大している面もあるのです。 「エネルギーの無駄遣いを止めよう」という掛け声だけで、問題は解決しません。

* * *
「正しい」と思われることが、実は意味がなさそうだ。こうした指摘を3つしてみました。皆さんの周りに起こり始めた「温暖化対策」にも、このような問題が隠れているのではないでしょうか。繰り返しますが、「何をしても意味がない」とシニカルに物事を見るために、こうした疑問を示したわけではありません。効果とコストを検証することなく、温暖化問題で「善意」と「思い込み」で動くことの危うさを、考えていただきたいと思うのです。

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プロフィール

石井孝明(いしい・たかあき)

経済・環境ジャーナリスト。1971年生まれ。時事通信社、経済誌フィナンシャル ジャパンの記者を経てフリーランス。著書に『京都議定書は実現できるのか〜CO2規制社会のゆくえ』など。ご意見・ご感想はこちらまで。